OK Googleのその先へ AI時代に負けない学校教育(中)

独創的な実践で知られる「ぬまっち先生」こと、東京学芸大学附属世田谷小学校の沼田晶弘教諭は「義務教育こそエンターテインメント。面白くあるべきだ」と語る。第2回はそう思い至った背景と、「ぬまっち流授業」の事例を詳しく聞いた。


■義務教育を『エデュテインメント』に
――沼田さんが考える「学校教育のど真ん中」とはなんですか。

僕には「日本をこうしていきたい!」というような大それた目標はなく、目の前にある枠組み中で工夫しているだけです。まだまだ工夫の余地があります。

「では、どんな工夫をしているのか?」ですが、子供たちが義務教育を「やらされてる感」で受けるのではなく、「楽しい! やりたい!」と思って取り組めるためのサポートです。義務教育という枠組みの中で、何かを覚えなくてはならないのなら、「やらされている」ではなく「面白い!」と思って取り組めたほうが、絶対いいですよね。僕が考える教育のど真ん中は、まさに「義務教育を面白くすること」です。『エデュテインメント』と呼んでもいいかもしれません。

――具体的にどのような『エデュテインメント』を実践されているのでしょう。

例えば、「大喜利」をよくやりますね。国語の教科書で、原っぱにいるスズメ10羽が全員地面に顔を向けている写真があり、「何をしているのでしょうか?」という問い。教科書の次ページには、「餌を探している」という回答がありますが、これだけだと楽しくはないですよね。そこで出てくるのが、「じゃ、みんなこの写真でなんか面白いこと言ってみて!」という大喜利タイム。

今担任しているのは1年生のクラスなので、すぐ出てくるのは「うんこ」とか「ぬまっちがどーの」という答え。そんなことでもまあまあ盛り上がりますが、そのうち「10円落としちゃった~」くらいの面白いことが出てきます。「面白いな! でも…。10円じゃないかもしれないな。だって10円で、スズメたち全員が必死になるか? ここは100万円落としちゃった~の方がいいな!」というと、教室は大爆笑。

もしかしたら、先生方の中には「教科書でそんなおふざけをするなんて」と思われる方がいるかもしれないですが、ふざけることが目的ではなく、僕がやっているのは「学びを面白くすること」です。大喜利は、発想力や表現力がすごく鍛えられるし、授業も格段に盛り上がる。

笑いを生むのは「学びを面白くする」ためのとても有効な手段であり、笑いを生む発想力自体が、AI時代の人間力として注目していきたいスキルの一つです。昔、校外活動で本物の芸人さんと共演する機会があったのですが、「完全に負けた…。彼らはほんとにすごい」と痛感しました。笑わせるというのは、すごい技術ですよね。

「教科書でも笑いが生み出せる」と語る沼田氏
■ダンシング掃除の誕生秘話
――ユニークな手法はどのように生まれるのですか?

最初は教育実習の時でした。大学時代、実習で訪れた小学校の体育で、「準備体操に時間がかかって授業時間が圧迫されている」ということに気づいたのです。よくよく観察すると、準備体操の間に無駄な動きがあり、その無駄な動きによって時間がかかっている。子供たちだって、準備体操なんかより本当の授業の方をやりたいはずですし、どうしたら準備体操の中で生じている無駄な動きを解消できるかと考え、準備体操で音楽を流すことを思いつきました。

音楽を流すだけで、キビキビした行動が生まれ、無駄な動きがなくなったのです。準備体操に要していた時間も短縮され、子供たちが準備体操自体を楽しめるようになりました。嫌々やっていたら時間がかかるし、楽しければキビキビ行動できるということを発見したのです。ダンシング掃除(掃除時間に音楽を流して、リズミカルに掃除を行う掃除方法)も同じ理論です。

■固定概念にとらわれない発想力が鍵
――「課題発見力」と「発想力」がすごいですね。

学校の中に長年存在している「当たり前」にとらわれない発想ができれば、問題の本質が見えて有効な手も浮かんで来るのかもしれないですね。

例えば、「教室のドアを閉める」という目標に対して、「開けたら閉めなさい!」と声がけされているシーンをよく目にすると思います。しかし、結果的に閉まっていないことがよくある。注意深く観察してみると、そもそも学校のような集団生活の中では、複数の生徒が連続して教室のドアを通過していくため、閉めなければいけない生徒は「開けていない子」なんです。それに気付いて、「開けてなくても閉める」と声がけを変えたら、閉まるようになりましたよ。

僕はもともと、そういう「課題」を捉えて考えていくのが好きなタイプかもしれません。

■教育にゲームの要素を取り入れよう
――児童にとっても授業が本当に楽しそうです。

僕も全ての単元を面白くできているわけではないですよ。どうしても思いつかず、教科書通りの授業を淡々とやる時もあります。そんな時は児童から、「ぬまっち、マジで?」と言われますが、「すまん。どーにもならんかった…」と正直に打ち明ければ、普通の授業を普通に受けてくれます。

でも、九九や漢字テストは面白くすることに成功しています。九九や漢字は、ともすればただ覚えるだけという単調でつまらない「作業」になってしまうこともありますよね。これを面白くするにはどうするか。

例えば九九で言えば、通常は1の段から順番に学ぶところを、 9マス×9マス=81マスの九九ワークシートを作って、「何分で全て埋められるか」という競争にしたのです。競争はゲームの要素の一つでもありますが、子供たちはゲームは大好きなわけですから、これを教育に持ち込まない手はない。予想通り、生徒たちは九九競争で1番になりたくて、勝手に九九の勉強を進めていきました。速さを競うだけでなく、もちろん正答することも必要になるので、ゲーム感覚で楽しみながら九九を身につけることができる仕組みです。

実は「競争」や「勝負」には、ゲーム感覚で楽しむ以上の価値があります。その価値の話は、次回の「下」で詳しくご説明いたしますね。

【プロフィール】
沼田晶弘(ぬまた・あきひろ) 1975年、東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学の修士課程修了後、同大学職員などを経て、2006年から東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。教育関係のイベント企画を実施しながら、企業向けの研修・講演活動も行っている。型破りな授業の詳細が分かる著書に、『「変」なクラスが世界を変える!』(中央公論新社)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)、『「やる気」を引き出す黄金ルール』(幻冬舎)、『子どもが伸びる「声かけ」の正体』 (角川新書)。