いじめ防止対策推進法 見えてきた課題(3) 被害者側の視点

いじめ被害に遭った児童生徒が自ら命を絶ち、遺族が真相解明を求めて戦わざるをえなくなるケースがある。一人娘をいじめで失った被害者遺族(両親)であり、国などにいじめ被害者側の知る権利を求めている、NPO法人「ジェントルハートプロジェクト」の小森新一郎代表と美登里理事に、いじめ防止対策推進法の評価と課題を聞いた。


■緊張感のない学校現場
――いじめ防止対策推進法は役立っているといえるか。

美登里氏 いじめに対する法律そのものが、これまで存在しなかった。同法によって、いじめの定義や対策が明記されたことになる。しかし、教育現場が法律通りに機能しているかといえば、そこには大きな乖離(かいり)がある。法律に対し、どうしていいか分からない現場の混乱を感じている。

なぜなら、重大事態が起こったときの対応がはっきり書かれているにもかかわらず、肝心のいじめ予防に関して具体策がないからだ。そのために、具体策が一方的に教員に委ねられてしまっている。法律に従って各学校でいじめ対策に関する組織を作ったものの、ほとんど機能していないのが現実ではないか。

小森美登里・ジェントルハートプロジェクト理事=藤井孝良撮影

重大事態が起きたとき、被害者側にとって、この法律は戦う術にはなる。これまでのように民事裁判で被害者側が「たたかれっぱなし」という状況は少し変わった。真相解明を求める被害者側にとって、初動調査や資料の保存などで学校側の過失を追及できるからだ。

ただ、法律に罰則規定があるわけではないので、学校側には緊張感がない。例えば、校長が自分の学校でいじめが起きたら大変なことになるという危機感を持つことができたら、予防も含めた組織的ないじめ対策が機能するかもしれない。

丸5年たっても現場は変わっていないというのが実感だ。現場が緊張感を持っていじめと向き合い、予防にも取り組む法律に変えてほしい。

――学校現場のいじめ対策は何ら変わっていないということか。

美登里氏 それは、教員を相手に講演していても感じることがある。例えば、いじめが起きてしまった時の対応として、やってはいけないことがある。「しばらく様子を見る」や「けんか両成敗」はその一例だが、そうした対応を何の疑いもなく、ずっとやり続けていたことに、講演を聴いて初めて気付いたという教員もいる。

小森新一郎・同代表=同

新一郎氏 教員個人が抱え込んで問題を大きくしてしまうことを避けるために、法律には学校としての組織的な対応が書かれている。しかし、具体的にどういう対応を取るべきかという段階になると、校長を含めスキルがない。重大事態が起きるたびに「子供のサインをキャッチしましょう」と言うが、学校現場はキャッチしてもどうすればいいか分からない。

教師のいじめ対応スキルの不足をどうやったら改善できるかという問題に手が届かないまま、5年という時間を浪費したのが現状だ。

■第三者委を立ち上げなくてよい制度に
――第三者調査委員会の在り方は。

美登里氏 起きてしまったいじめは元に戻せない。だからこそ再発防止をしっかりやらなければいけない。そのためには起きてしまった重大事態に対して、事実関係を明確にすることが必要だ。皆で事実に向き合わなければ、どこが間違っていたのか、今後どうしなければいけないのかという具体策は見えてこない。私たちはこの点を、いじめ防止対策推進法第28条で確立させたいと思っている。

第三者委の問題点はまず、第三者委が立ち上がると学校はいったん重大事態から距離を置く点だ。本当は距離を取ってはいけないのに、第三者委の調査を盾に被害者側への情報公開を拒むなど、学校側の動きが止まってしまうことがある。学校にしてみると、ある意味で便利なものになっているのかもしれない。

第三者委が本当にいじめ問題の専門家集団であるという条件をクリアしているか、行政、学校と利害関係が一切ない人間で構成されているか――の2点が重要だが、現状は大変疑わしい。第三者委によっては、元校長や警察官、PTA役員経験者などが入っているケースもある。

その人たちがいじめ問題をどこまで勉強しているか、いじめられている被害者の心理をどこまで理解しているか。そんな集団では、議論が誘導されてしまいかねない。

第三者委が機能しないのは、全国のケースからこの5年で十分に分かった。時間がたてばたつほど、事実はどんどんふさがれていく。

だから第三者委を機能させるという議論には反対だ。むしろ第三者委を立ち上げなくてよいシステムを法律の中で作ってほしい。

新一郎氏 いじめの重大事態では被害者側が知りたいことを全く知ることができず、やむを得ず第三者委に訴える場合が多い。しかし、それが結果的に被害者側の手足を縛ってしまうことになる。

それならば、そうなる前に、いじめの重大事態の初動調査を学校と被害者側が共有するのを徹底した方が良い。被害者家族の多くは、真相の解明と再発防止を求めている。それができるなら、裁判まで起こさないと考える被害者もいるだろう。

多くの重大事態でなぜ裁判に発展してしまうかというと、結局、学校や教委が隠すからだ。いじめの重大事態に対して、学校や教委が過失も含めて隠さずに被害者側と共有すれば、もっと早く原因が究明できて、再発防止に向けた議論ができる。

美登里氏 そうなれば、次の命が救える。事実を隠すという行為は間違いなく、次の命への責任を大人が放棄しているということだ。本来ならば、うわさでもささいなことでも、情報は一つでも多く欲しいが、それらを自主的に隠すわけだから、もうそれは再発防止を願っていない大人たちと言っても過言ではない。こんな状況がまかり通っているのは異常だ。

■学校は加害者の人権教育を
――学校がすべきいじめ対策とは。

新一郎氏 いじめ問題は被害者へのアプローチだけでは解決しない。加害者を減らす、加害者を更生させることを考えなければならない。対症療法ではいじめは絶対になくならない。自分の目の前からターゲットがいなくなれば、別のターゲットに変えるだけだ。いじめてしまう子供の心を何とかしなければ、いじめはなくなることはない。学校の教員が普段からやるべきことは、そこではないか。

いじめをする子供には、いじめをしてしまう背景がある。教員はいじめた子供の話も聞いて、寄り添いながら、心をほぐしていく必要がある。いじめる子供の対応は家庭ではまずできない。学校の集団生活の中で教員が気付かせるしかない。そこまでの指導力を、教員には持っていてもらいたい。子供の人権教育、人権感覚を教員がしっかり育てられるようにしてほしい。

ただし、それは「道徳」のような、共通の固定概念の中に押し込めるものとは違う。子供への指導ではなく、子供に寄り添うということ。その視点を教員が持てるよう、研修システムを作っていかないといけない。