子供を伸ばす教師のリーダーシップ(上) 優れたリーダーとは

中竹氏「フォロワーシップも必要」 松永教諭「疑問の出し方を学ばせる」

早稲田大学ラグビー蹴球部監督を務め2年連続で全国大学選手権を制覇、現在ではコーチのコーチであるコーチングディレクターとして指導者の育成を行う中竹竜二氏。そしてアクティブ・ラーニングの実践家として全国から注目を集めるとともに、学校の職場改革を進める桐蔭学園高校の松永和也教諭。スポーツと教育の現場で、それぞれにリーダーシップを追求する2人が、「子供を伸ばす教師のリーダーシップ」をテーマに語り合った。


■リーダー像の誤解

中竹 ずっと疑問に思うと同時に、これはよくないと考えているのは、リーダー像についての誤解です。組織のトップをリーダーと呼びます。英語で書くとリードする人。つまり「率いる人」です。しかし組織のパフォーマンスや成果を上げたり、育成したりするには、「ずっと引っ張って」いてよいはずはありません。

成果を上げるリーダーたちはずっとリードするだけではなく、任せたり放置したり、信頼したり舞台をつくったりする。いろいろな立場でリードをしても、オブザーバーになったり、完全なサポーターになったりするのです。しかし教師にしろ、コーチにしろ、引っ張らなくていいことまで引っ張って苦しんでいます。

私は「リーダーはリーダーシップだけじゃなく、人を支え、人に任せ、自分たちを頑張らせるという、フォロワーシップも必要だ」とずっと言っています。

皆の前で演説するときもあれば、裏方に徹するときもある。本当に優れたリーダーは、両方をやっていることが多いですね。勝った人、成果を上げた人たちが常に表舞台に立っているイメージは、もう完全なる誤解です。

■保護者との関係づくり

松永 教育でいうと、「教」がティーチングで、「育」がコーチングだと思います。中竹先生が指摘されたように両方とも必要で、児童生徒の成長段階によってそのバランスをどう取っていくか。

関わりとして、私と生徒のコミュニケーションの構図に保護者が加わるのが教育現場です。学齢が低ければ低いほど、生徒の後ろに保護者の顔が濃厚に見える。子供と保護者をつなぐのも、私たち教員の役割の一つです。

入学式のとき生徒をわざわざ教室の外に出して、保護者だけと話したことがあります。生徒が先生に言われた話を家で親に相談する。保護者は生徒の代弁者として相談に来る。「でも、それは止めてほしい。子供の代弁者としてではなく、教師と保護者が同じ『大人』という立ち位置から、一緒に子供の学びを見ていきましょう」と伝えました。

自分の子供が何かのトラブルに巻き込まれると、それまですごく客観的で理解のあった保護者が、急に混乱することがあります。だから最初にこれを話しておくだけで、その後の余計なトラブルやストレスがなくなると思います。

中竹竜二氏

中竹 教員やコーチからよく相談されるのですが、保護者を敵だと思ってしまうようです。保護者は敵じゃなく協力者です。ちゃんとした味方です。「一緒に頑張って、お子さんを成長させましょう。一緒に育てましょう」という関係です。

早大ラグビー蹴球部の監督だったときは、入部式に保護者全員を呼んで、「こういうスタンスでやるので、残念ながらこれに同意できないなら、部に入れさせないでください」と言いました。

何か問題が起こると、多くの人は正解があるのではないかと考えます。しかし、ありませんから。誰かがやったことをそのまま使えるかといったら、ほぼ使えない。教育においては全部が個別事例です。

■フォロワーシップとセレクション

中竹 早大ラグビー蹴球部の監督になる前の10年間は、ラグビーとほぼ無縁の会社員生活を送っていました。ところが急に監督になってしまった。ど素人だから教えられないわけです。メディアにたたかれ、目の前にいる選手から練習が始まっても「はあ、つまんねえ」「こいつ、ラグビーうまくねえし」と、ずっと言われる。それが1年くらい続きました。

それで、放っておいたら何が起きたか。それまでは部室で私の悪口を言っていただけの部員が突然、「中竹死ね、辞めろ」と叫び始めたのです。これ、やばくないですか。しかし、それでも全て受け入れました。選手たちは一対一の対話を通して強くなっていくからです。

大学ラグビーの全国大会決勝戦前日、選手からもはっきり言われましたよ。「いやあ、中竹さん、指導者として全くレベルは低かったですけれど、明日勝ったら名将ですね」という感じで。もう、逆にうれしかったですね。実際、日本一になることもできました。

当時は「日本一オーラのない監督」と言われましたが、比喩でもなんでもなく、本当にそうでした。オーラがないと言われながらも、気付いたら盛り上がっていて。

だから教師も、教師だから偉くないといけないということはない。ここでも私は、ほぼフォロワーシップですね。練習も選手やコーチにほぼお任せで、全体の9割がフォロワーシップです。

残る1割はセレクション。これは絶対に譲れない。要するに人選ですね。理由はいろいろありますが、最後はこっちの勘で決めますし、独断と偏見だから、そこはあまり議論しても仕方がないです。もちろん、説明責任はとりますが。

■「疑問を出すのは能力がいる」
松永和也教諭

松永 授業で新しい物語を読むときは、教科書の最初の一段落しか読みません。何をそんなにゆっくり読むかというと、その段落からありったけ疑問や違和感を出し尽くしてもらう。そしてリスト化し、次の授業から全てに答えられるまで話し合っていく。

議論するテーマを生徒から引き出すことを今、一番大切にしています。こうやって疑問の出し方を学んでもらっています。疑問を出すのは能力がいりますから。

中竹 とてもいいですね。コーチを教える上でも、質問が大事です。質問力を高めるのは、すごく苦労します。結局、質問がよくないといい答えは出ない。いい答えは結局、いい質問からしか出ない。どれだけいい質問に対して考えるかが、勝負なんです。

何がわからないかが、わからない人が多い。言っている内容がわからないのか、背景がわからないのか、求められているものがわからないのか。そういう意味では私自身は、質問力に関して、選手にもコーチにもかなり明確にトレーニングしていくプロセスがあります。

松永 教員も同じです。教員の発問力、自分の授業で何を生徒に発問することでどんな力を養いたいかというところも、授業研究の大きいキーワードの一つだと思います。

■発問の仕組み

中竹 質問、発問する側が、発問の仕組みを分かってないことがあります。質問で非常に大事なのは、例えば何が食べたいかを聞くときに、「中華と和食と洋食、どれがいいですか」と選択肢を示せるかどうか。これで全然違います。例えばラグビーなら、「キックとパスとラン、どれなの?」と聞いた方がいいわけです。

松永 私はクラスの目標として、「分からないことを分かるまで聞く」ことを掲げています。「聞くのが恥ずかしいな」「分かってないと思われると、ばかにされる」などの気持ちが誰にでもあるので、安心できる教室環境をつくってあげたい。

分からないと言ってくれた子に対して、「ありがとう。そういうふうに質問してくれたおかげで、皆でその疑問を共有できたね」という褒め方をする。皆で分からないことを共有、認識して、レベルを上げていくこと自体に価値があることを理解する。

分からないことを人に聞くという文化が、クラスでできたかなと思っています。

■「自責の念が大事」

中竹 わからないと言った人を奨励するのは、すごく大事だと思います。

実は私のチームはミーティング回数がめちゃくちゃ多い。何をするかというと、戦術練習を確認する。新しい戦術だと「昨日やった攻め方を覚えている人?」と聞いても、全然手が挙がりません。すると選手が「すいません、覚えていません」と言うんですよ。そこで僕は「すいませんは、こっちのセリフだから」と返す。

覚えていない、覚えきれなかったのは、こちらの伝え方が悪かったのだと本気で思っているからです。教師は絶対にそう。そもそも「あなたの教え方が悪い」という話じゃないですか。全て自責の念が大事だと思います。

私は練習では最初に、それぞれ何を頑張るのかを聞きます。「今日のこの1時間で何に集中し、何を頑張るのか。1行でもいいから書いて」と。これをやるだけで、練習に対する主体性が変わります。きっと授業でも効果がありますよね。

松永 「ふり返り」は教育においても、とても重要です。毎回授業の終わりに、ふり返りシートを書いてもらいます。最後に必ず自分で言語化するのは、とても重要だと思います。

学びは集団ではなくて、あくまで個人のものです。どれだけペア・グループワークを行ったとしても、最後に個に落とすことを忘れてはいけません。


【プロフィール】

中竹竜二 日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター、㈱チームボックス代表取締役。1973年、福岡県生まれ。早稲田大学ラグビー蹴球部監督、日本ラグビー協会初代コーチングディレクター、 U20日本代表ヘッドコーチなどを歴任。2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行うチームボックス設立。また18年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。

松永和也 学校法人桐蔭学園高校の国語科教諭。卓球部顧問。「選ばれる言葉の獲得」を目指す画期的な指導など、アクティブ・ラーニングの実践家として全国から注目を集める。勤続4年目という視点を武器にした本紙連載「職員室半径3メートルからの現場改革」は、実体験に基づいたリアルなエピソードで好評を博した。