子供を伸ばす教師のリーダーシップ(下) 課題は大人の人間関係

中竹氏「いい組織文化には“許可”より“謝罪”」 松永教諭「楽しそうだと思わせることが大切」

早稲田大学ラグビー蹴球部監督を務め2年連続で全国大学選手権を制覇、現在ではコーチのコーチであるコーチングディレクターとして指導者の育成を行う中竹竜二氏。アクティブ・ラーニングの実践家であるとともに、学校の職場改革を進める桐蔭学園高校の松永和也教諭。対談後半は、同僚や保護者ら「大人に対する教師のリーダーシップ」などをテーマに語り合った。


■勝手にプロジェクトを立ち上げる

松永 私は何の役職もないんですよ。教科主任でもないし、もちろん学年主任でもない。こういう立場だからこそ、できる現場改革とは何かというと、勝手にプロジェクトを立ち上げまくることです。

例えば、生徒が800字で書いた作文をどう評価するか。点数化するのに公平性は確保できるか。そういう問題を考える検討会を立ち上げました。あるいは勝手に、働き方改革を進めることもあります。

この勝手なプロジェクトは、やりたい人しか集まりません。指示でも、命令でもない。やりたい人が勝手にやればいいし、断りたかったら断ればいい。仲間しかいないから、どんどん話は進みます。失敗しても勝手にやっていただけですから、責任も問われない。役職がついてしまうと、こういうことはできません。

アイデアを持っていても、行動に移せない人は結構いるはずです。特に、よく文句を言う人。でもそういう人を非難してもしょうがない。そこで、こう声かけしてみるのです。「じゃあ、一緒にやろうよ」と。ぜひ皆さんもそうやって、勝手にプロジェクトを立ててみてください。

■課題の大半が大人同士の人間関係

中竹 いろいろな組織をマネジメントしていく中で聞くと、指導者の課題の大半が大人同士の人間関係です。子供たちの問題よりも、それにひもづいている同僚の先生たちとの問題が大変なのではという気がします。どうでしょう。

松永 難しいですね。例えばどんな組織でも、大きな声で文句を言う先生がいます。実際は少数の人しか言っていないのに、その声が大きいから、まるで多数派意見のように聞こえてしまう。それにとらわれないことと通じるかなと思います。

本校は4年前から改革が始まり、アクティブ・ラーニング(AL)を全学年で導入しましたが、感情的な理由で反対する教員もいました。どうやって新しいものを浸透させていくか。それは、何だか楽しそうだと思わせること、また全員に開かれていることが大切です。いつでも、遅れてでも、今から始められるよ、と。

■許可より謝罪

中竹 いい組織文化を作るには、私は“許可”より“謝罪”だと強調しています。何かを始めるとき、「許可取りに時間がかかるくらいなら、先にやってください。もしうまくいかなかったら、謝ってください」と。許可取りを禁止にして、もしうまくいったら、たたえる。これが一番いいですよ。

松永 リーダーがそう言ってくれれば、「よっしゃ!」とやれると思いますけど……。

中竹 ダメだと指摘されたときに素直に謝るのは、大人になると結構難しい。大人はついつい言い訳をしてしまいます。だから問題を曖昧にせず、向き合って全力で謝るしかない。ALにしても、子供が自分で考えて行動する教育と言いながら、学校の仕組み自体が矛盾している。ALとは逆のマネジメントをやっているのが、現状なのではないですか。

松永 もう、本当に耳が痛い話です。自分自身、戒めの言葉として受け取りました。子供たちの新たな教育を考えたとき、自分たち大人はできているのか。年齢を重ねれば重ねるほど、対応していけるのかという不安は、自分も常にあります。

■会場からの質問「専門知識を身につけるには」
――私はもともとサラリーマンとして働いていて、今年から幼稚園のお手伝いをすることになりました。専門的な知識を身につけるために、勉強しないといけないと思っています。何をどう優先的にやっていけばいいでしょうか。

中竹 今は専門的なことを、全然知らないわけですよね。こんなチャンスはないです。「すいません」「できません」と、ひたすら言って教えてもらいましょう。どれだけ協力を仰ぎ、情報を得られるかがポイントです。

知識や能力が高いから信頼されるわけではありません。大切なのは姿勢です。この人は本当に現場のことを考えているか、この人はちゃんと学ぼうとしているのか。周りはそこしか見ていない。そこさえやっていれば、絶対に信頼をつかめます。

私もかつてはそうでした。本当に何もできなかったので、いろいろなことを聞きまくりました。すると何が起こるか。信頼を失うどころか、逆ですよ。要するに、伸び代を見られているわけです。「あ、こいつ頑張っているな」というように。成長のプロセスを見せるといいかもしれないですね。


【プロフィール】

中竹竜二 日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター、㈱チームボックス代表取締役。1973年、福岡県生まれ。早稲田大学ラグビー蹴球部監督、日本ラグビー協会初代コーチングディレクター、 U20日本代表ヘッドコーチなどを歴任。2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行うチームボックス設立。また18年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。

松永和也 学校法人桐蔭学園高校の国語科教諭。卓球部顧問。「選ばれる言葉の獲得」を目指す画期的な指導など、アクティブ・ラーニングの実践家として全国から注目を集める。勤続4年目という視点を武器にした本紙連載「職員室半径3メートルからの現場改革」は、実体験に基づいたリアルなエピソードで好評を博した。