未来の部活動を考える(中) ガイドラインの課題に迫る


現場から見た運動部に関するガイドラインの問題点や、「外部委託」「部活動指導員」の有効性は――。全日本中学校長会(全日中)会長の山本聖志校長(東京都豊島区立千登世橋中学校)と、教育社会学の研究者である西島央准教授(首都大学東京)、次世代教員の養成に当たる阿部隆行専任講師(東京国際大学)が、ガイドラインの課題について語り合った。


■ガイドラインをどう捉えるか
――部活動をめぐる状況の打開に向けて、国は運動部に関するガイドラインを示しました。内容や方向性について、どうお考えでしょうか。

山本 全日中会長と中体連会長という二つの役割で全国を回る中、各地で校長先生や部活顧問に、ガイドラインについてどう思うかを尋ねました。

全国の校長に「部活動を中学校教育から切り離すことについてどう思うか」を単刀直入に聞くと、多くが「あり得ない」「全くあり得ない」と即答されます。部活動には意義があると感じているからです。

顧問の教員の皆さんからは「放課後の生徒たちの、活動の場をどうするのか」と逆に質問を受けます。「生徒指導の重要な場だから、なくなったら大変」と。また、保護者はというと、「子供に退屈な時間を過ごしてほしくない」「試合の応援など、子供の成長を見るのが楽しみになっている」と期待されている。

阿部 ガイドラインで、スポーツ医科学の観点から競技力を向上させるのに望ましい進め方が示されたのはよかったですね。平均的な中・高生が運動するとしたら、負荷がかからないのは週15時間だとした。

ただ、「誰がそれを監督するのか」という問題はあります。校長や副校長・教頭、教育委員会が監督するとなれば、新たな負担が生じます。1校に平均10~15個ぐらいの運動部がある中で、それを全て管理できるのか。

また、例えば週17時間やってしまったらどうなるのか。次の対外試合や公式戦に出られなくなるのか。それは子供たちにつらい思いを強いる結果になります。

山本全日中会長

山本 保護者の側では、このガイドラインを必ずしも歓迎していないのではないでしょうか。保護者の多くは部活動を応援し、子供と一緒に楽しんでいるという、そういう風景は結構あります。

先日、高校のダンス甲子園で、保護者の方がものすごく熱中して楽しんでいる様子も見ました。そういう魅力も部活動にはあります。

阿部 部活の時間が短くなって、今までよりも早く帰った後の時間、家でごろごろしていたら、保護者からすれば「部活を今まで通りやってくれた方がいい」となりますよね。

大事なのは、「短縮して生まれた時間で何をするか」「何が提供できるか」。学校としてだけではなく、地域としての対応も重要です。西島先生の調査でも、「帰宅部だから勉強時間が長いわけでもない」というデータがありました。現場の感覚でも、本当にそのとおりです。短縮するだけではなく、「生まれた時間で何をするのか」というところまで考えなければ、保護者や地域から受け入れられず、現場の教員が板挟みになりかねません。

西島 その他にも、ガイドラインで本来考えられるべき話だったのに、考えられていない問題がいくつもあります。

例えば、「教育活動全体の中で、部活動と他の活動のバランスはどうなのか」。全体を通して見た時に、「学習指導要領の中で部活動をどう位置付けるか」「学校教育活動全般の中で部活動をどう位置付けるか」という話が出てこない。例えばガイドラインでは、スポーツ医科学のデータを踏まえ1週間に16時間未満、つまり上限を「週15時間まで」と示されています。

でも、例えば「うちの学校は社会科を15時間やります」という学校があったら、「それはおかしい」とみなさん思うのではないでしょうか。ところが部活動ではそれをやってきている。そこを、学校教育活動全般のバランスの中で、さまざまな活動の一つである部活動をどう提供するかという観点で捉え直す必要があるのではないか。これはスポーツ医科学の話とは別です。

――「週15時間」という言葉が一人歩きすると、各校でどう部活動を位置づけているかが、ないがしろにされますね。

西島 どの学校でも「週15時間」の上限までやっていいという話ではなく、もっと減る学校もあれば、逆に「うちの学校ではこういうような役割を部活動に担わせている」という観点から、活動日は増やした方がいいという考えもあるかもしれない。もちろん、運動量はスポーツ医科学の知見に基づき、週15時間以内に抑えることが期待されていますから、例えばミーティングの日を設けるなどすることになりますが。

――その他に、ガイドラインで触れられていない問題はありますか。

西島 施設・設備の問題があります。私が最近行った調査で、回答してくれた442校の中学校で平均すると、一つの体育館に対して、使用している部が2.8ある。中学校の体育館はバスケットコート1面分が普通。その中に2~3部が練習しているということで、複数の部で譲り合って交代しながら体育館を使ったり、ある曜日は別の場所でランニングしたり筋トレをしたりしている。その状況も考えなければならない。

■現場から見たガイドラインの問題点
――学校現場という立場ではいかがですか。

山本 全日中にとっても中体連にとっても、今回示された「週2日以上の休み、活動時間は平日2時間程度、週末や休業日は3時間程度」と示したのは画期的だと思います。やりすぎを防ぎ、教員の負担を減らすことにつながります。

ただ、果たして実効力があるかどうか。公立の中学校は比較的受け入れやすいですが、全国で聞いて回っていると、三つの大きな問題があることが分かってきました。

――その問題とは。

山本 まずは強豪校の問題です。私立、公立問わず、強豪校はこのガイドラインに沿いたくないだろうと。

阿部 そうですね。甲子園やインターハイに出場するような学校が、ガイドラインに従って今の競技力を維持できるかと言えば、多くの強豪校が「難しい」と感じていると思います。

西島 ガイドラインを本気で守らせようとするならば、学校単位での大会は、県大会までと決める必要があるでしょうね。そこから先は学校単位ではなく、競技団体として進めていくという方向で。

例えば、卓球が急激に強くなってきているのは、県大会レベルなどで活躍している選手をピックアップして、競技団体で育てるやり方を取り入れているという背景もあります。

――全国優勝を目指すような学校は毎日でもやりたい。それをガイドラインだけで抑制しきるのは無理がありますね。
西島准教授

西島 中学校レベルの部活動は、うまくなりたい子には競技団体などで競技力向上を目指すような方向を示すようにして、学校としては、より多くの子供にいろいろなスポーツや芸術の経験をさせるという方向性を示すなどの役割分担をしていくことが、望まれるのではないでしょうか。

――抜本的な改革が必要ということですね。二つ目の問題は。

山本 私立学校のことです。かつて週5日制になった時、公立は方針を受けて「ちょっと窮屈だな」と思いながらも率先して従った。ところが私立の多くは、むしろこれをチャンスと捉えて、土曜日の授業をなくさなかったところがありました。

――それを学校のセールスポイントにしていた側面がありますね。それが部活動でも起きるのではないかと。

西島 その点は、公立高校も含めて学校経営の問題と直結する問題です。生徒にとっても、2020年の入試改革に向けて国公立大学もAO入試や推薦枠を増やしている中では、さまざまな体験をどのぐらいやったかが問われますから、部活動はなおさら重視される。

そこで、「うちの学校ではこれだけできますよ」「これだけ実績がありますよ」とアピールする。スポーツ推薦というと、有名大学に行って活躍することばかりのように思われますが、実は全然違います。いろいろな競技種目を見ると、2部や3部リーグで活動しているような大学でも、「部活動をこれだけ頑張った」ということで受験生の評価項目にしています。

――進学後の活躍のためではないのに、部活動の実績が重視されているのですね。

西島 学力ではない部分で大学へ行っているのに、その成果は大学で生かされない。これは高校と大学の関係で見直すべき課題です。ですが今は、部活動の実績に頼って大学に行かせてもらったり、高校から行けるような道を作ったりしている。

大学側からすれば、経営上それだけの人が来てくれるというような関係が出来上がってしまっている。ですから、高校の場合、生徒の進学を考えればガイドラインを守るのは難しいでしょう。

それなら、「うちの学校の進路指導はこうです」「この部は高い実績をめざす部です」「この部はほどほどにがんばって楽しむ部です」などときちんと方針を打ち出して、生徒・保護者が入学や入部を判断できるようにするというやり方の方が有効だと思います。

――三つ目の問題は。

山本 高体連がこれに従うかという問題です。

いろいろ考えると、中学校の公立ばかりがガイドラインを順守することになるという可能性に行き着きます。区市町村の教育委員会は国のガイドラインに倣って方針を作っていますので、強制力や実効力がありますから。

どうでしょうか。高体連、守れると思いますか。

阿部 高体連の他、高野連など各種目でも、守るのは非常に難しいと考えていると思います。

――それでは、せっかくガイドラインを示しても定着しないまま風化してしまいますね。
阿部専任講師

阿部 国やスポーツ庁、各種団体が時間以外にも、例えば野球だったら球数の制限をするなどしないと、時間だけのガイドラインだけでは変わらないと思います。

米国だと、練習も含めて球数制限があり、決まった数を投げてしまうと次の日は完全に投げられない。何球までだったら、次の日も投げられるという制限があります。それは生涯にわたって、スポーツを楽しんでいくという観点でも必要なことです。

「変えましょう」と言っても、高体連も高野連も守るのは難しい。ガイドラインで示すだけではなく、明確に線引きして制限することが、先生を守るためにも子供たちを守るためにも重要なのではないでしょうか。

■「外部委託」「部活動指導員」は機能するか

西島 ガイドラインに示された「外部委託」についても、気になるところがあります。

現在すでに、専門性のない先生が部活動の顧問をやっている分、技術的な部分を外部指導員が補っているケースは確かにあります。

ガイドラインでは部活動指導員をまるで特効薬かのように書いていますが、スポーツ庁の計上している予算から計算すると「区や市で何人雇えるか」という話になる。数が圧倒的に不足するのは明白です。

これまでの積み重ねで、地域の協力者(外部指導員)が「自分が競技を好きだから」などの理由で指導に加わり顧問を助けて、せっかくうまくいっていたものが、バランスが崩れるのではないかという心配もあります。

――国は部活動指導員を推進しようとしているようですが、何か問題点などは話題になっていますか。

山本 全国の校長と話していて出てくるのは、「人材がいない」ということです。たとえ技術的な指導はできたとしても、部活動には教育的な配慮も求められる。それができる人材でなければ、適切な指導はできません。

西島 「部活動指導員を積極的に」と言っても、地域社会がそういう状況にないところでは、どういうやり方をすればいいのか。地域社会のスポーツ団体や社会教育団体とどう関わるのかを加味して、それぞれの学校に合わせたガイドラインを作っていく必要があるのに、今、一般論のような形で出されて、「そのままやれば望ましい部活」という流れになってしまっている。これはメディアの方々にも、ぜひ反省していただきたい。

山本 部活動指導員の処遇の問題もあります。文科省が、部活動指導員の見積もりで出しているのが時給1600円、週当たり計6時間。ということは、1週間で9600円ぐらいです。一カ月で4万円足らず。果たしてそれで、なり手がいるのか。

西島 部活動指導員の生活は成り立たない。成り立たないのに、求められているのは平日4日、土日はどちらか1日。大会の引率もある。

阿部 私も「誰ができるのだろうか」というのが率直な意見でした。報酬のこともありますが、「実技指導」「安全」「傷害予防」「大会引率」、それを担える人材が、どうやって育つのか。

例えば、大学に「部活動指導者研修」はありません。では誰がどこで部活動指導員を育成していくのか、資質能力を維持していくのか。教員には教員免許更新制度がありますが、部活動指導員には資格は必要ないのかという問題が出てくると思います。

また、誰が部活動指導員を調整するのか。調整する教員の負担も増えているのではと危惧しているところもあります。

山本 そして、部活動指導員を探すのは学校ですね。大学生や教員OB、地域人材の中から基本的には学校ごとに確保して、教育委員会が臨時職員として採用する仕組みで、これではうまく回るか心配です。

西島 それについて調査をしたところ、回答した442校のうち8割では、先生のツテで何とか見つけている。そのやり方のままでは、人材が一定程度あるところではいいかもしれませんけども、そうでないところは、ますます厳しくなっていく。それで地域差が広がっていく。

だからといって自治体が「お金をどう配分するか」を決める際に、「指導員がいないところには出しません」というわけにはいかない。ということは、この方式では回らない。私が運動部活動に関する委員会に出席している静岡県教委でも、この対応の難しさが議論に上がっていました。

――いくつかの自治体は、指導員を採用する仕組みを独自に考えていますね。

西島 これまでの外部指導員でも、例えば東京都や世田谷区は自治体に登録する仕組みを設けており、杉並区ではスポーツクラブと提携している。ですが大半の場合、県教委や市教委レベルだけではなかなかできないので、日体協などと協力体制を作る工夫もしていますが、ほとんどは学校単位で、それぞれの先生がツテを見つけたり、誰かを紹介してもらったりしてという形でということになってしまう。

山本 西島先生が新聞でコメントされたものに、「部活動指導員の数の目標を打ち出しても、仕事として生活を保障できる仕組みでなければ行き届かず、人材確保の難しい地方と、都市との格差が広がることになる」というものがありましたね。学校教育の一環としての部活動の位置付けと、地域社会の特徴と併せて、担い手の在り方を見直す必要がある。とても、ふに落ちました。

西島 「技術指導のできない先生方がとても大変」という文脈で、部活動指導員が対症療法的に出てきている。そうすると、技術指導ができない顧問の下で、ゆるくやっていた部も、そこに技術指導できる部活動指導員が来ると、当然きちんとした技術指導が行われる。部活動指導員は「技術指導を」と言われているのに、地区大会2回戦で負けるぐらいでというわけにはいかず、当然強くするのが目的になる。

また、技術指導できる顧問のところに部活動指導員が付いたら、当然2人で強くしていくことになる。部活動指導員という仕組みを積極的にやっていくと、強くなる方向しかなくなってしまう。

――本来目指していたはずの方向と逆の現象が起きるのですね。

西島 しかも部活動指導員は制度上、その人が顧問になれるような職務内容です。でも例えば、毎回2時間を平日5日間のうち4日、土日のうちどちらか。また大会の引率があって、県大会だけでも宿泊を伴う移動もある。そういったことまで引き受ける部活動指導員が、一つの学区の中で一体何人いるのか、県内のどこにいるのか。

広い視野で考えないといけないんです。今、一見良さそうに見えるものは、かえってますます、ブラックを推し進めてしまう。ほどほどにやりたいと思った子たちにまで、「もっとやれ」という方向になってしまう。

そういう視点もなく、部活動指導員についても本職としないと成り立たない拘束時間なのに給与は低い。長期的なスパンで考えると、とても危険な制度、そして支出だと思います。