カミングアウトした教員のリアルとLGBTに向きあうヒント

「私は当事者として、教員として、これから何ができるだろうか――」。2016年3月、世間にこんな言葉を投げかけ、ひとりの教員がLGBTの当事者であることをカミングアウトした。

注目されつつある、学校現場におけるLGBT。目に見えない性自認の違和感を抱えた児童生徒たちに、教員として、ひとりの大人として、どう向き合うべきなのか。当事者であり、教育者でもある鈴木茂義さんにヒントを聞いた。


■退職してカミングアウトを

児童からの愛称は「シゲせんせー」――。それまで正規の教員として勤めていた学校を退職した後に、自らが同性愛者だと公に告白した。ちょうど教員になって14年が経過していた。いまは非常勤の教員として、都内の公立小学校と特別支援学級で教壇に立つ。さらにLGBT教育のパイオニアとして、全国の学校や教委を飛び回る毎日だ。

「『結婚は?』『恋人は?』――、学校にいると季節のあいさつのように皆に聞かれました」

同性愛者だとカミングアウトする以前の教員時代。児童、同僚、管理職、保護者から、そんな何気ない質問を投げかけられるたびに、小さなうそを重ね取り繕った。

「男性のパートナーを女性に置き換えて話していた。小さなごまかしを積み重ねて何とか成り立っているその環境が、しんどいと思うときもありました」

カミングアウトしたのは、写真家のレスリー・キーさんが取り組むLGBTのフォトプロジェクト「アウトインジャパン」。HPには鈴木さんのすがすがしい笑顔の写真と、「小学校教諭」という職業がしっかりと明記されている。

担任をしていた児童たちのことを話す鈴木さんは満面の笑顔に

きっかけをくれたのは、当時の教え子たちだったという。「日々児童たちに『正直であれ』『自分に素直に』などと、かっこいいことを言っているのに、自分自身はどうなのだと、すごく、もやもやしたんです」と話す。

勤務校や児童、保護者たちへの影響を考慮して、直前の3月、担任していた6年生を送り出してから退職する道を選んだ。

現在は都内の公立小学校で、算数の学力向上や特別支援学級を担当する一方、LGBT当事者の教員グループ「虫めがねの会」の運営や、全国の学校、教委で研修会の講師をするなど、精力的に活動する日々だ。

■特効薬はない

「具体的にわれわれは何をすればいいんでしょうか」

研修会で現場の教員から必ずされる質問だ。

児童生徒自身もなかなか他人に言い出せない、目には見えない性自認の違和感や性的指向。教員が察知して、理解することは安易ではない。

こんな現場の戸惑いの声に、決まって鈴木さんは「特効薬はない」と答える。

「LGBTの当事者とはいえ、性のことだけで悩んでいるわけではない。勉強、友人関係、家庭環境など、人間の悩みは多層的ですよね。もちろん、その児童生徒の性格や学級の成熟度も千差万別なので、『これをすれば間違いない』という単純な答えはないです」と続ける。

「強いて言うならLGBTに特化して考えることをやめる。その児童生徒に寄り添った『オーダーメードの指導』を実現することが、鍵になるのではないでしょうか」

オーダーメードの指導は、具体的にどう実現できるのだろうか。「とにかく質問する。児童生徒が望むこと、嫌がることは彼らの心の中にあるのですから」と鈴木さん。

クラス担任時代は年に3回、クラスの全児童と個人面談していた。「いま学校で一番楽しいことは?」「いま学校で一番困っていることは?」「シゲせんせーにしてほしいことは何?」――。こんな三つの質問を児童に投げかける。

「シゲせんせーを独り占めできる時間だ」と児童らも心待ちにしている時間だった。「他の先生にも、クラスの子にも言わないで」とくぎを刺しながら、心のうちを吐露する児童も多かったという。当人と話し合いながら問題解決への作戦立てができたし、日々の生活では目に付きにくいクラスの状況を把握することもできた。

■LGBTを通して何を教えるか

性の多様性をLGBT当事者以外の児童生徒に正しく理解させることも、教員の大切な役割だ。

「LGBTを通して何を教えるか」がポイントだという

「自分の性別に違和感を持ったり、性的指向に悩んだり、子供たちが最初に相談するのは、教員でも親でもなく、友達の場合が多い。その時どんな反応をされたかで、当事者のその後の心持ちはまったく変わる。そのために当事者以外の児童生徒にも、性の多様性を教えることが非常に大切です」

鈴木さん自身も、最初に相談したのは大学の親友だったという。

では授業作りの上で、教員が留意しなければいけない点は何なのだろうか。

「『LGBTをどう教えるか』ではなく、『LGBTを通して何を教えるか』に重きを置いてほしい」と鈴木さん。性の多様性に触れることで、「世の中にはいろいろな生き方や価値観がある」「みんな同じだけど、みんな違う」「あなた自身も大切だし、隣の友達も同じだけ大切」――。そんなメッセージを児童生徒に伝えるべきだという。

「児童生徒も教員自身も、LGBTの当事者への対応策を考えるより、もっと深くにある土台の部分を共有すべきです。それは他人と居心地のいい関係をどう作っていくかということで、どんな多様性も受け入れられる人間性が育まれます」

■教員が多様性に触れる

研修会では、必ず教員たちにこんなメッセージを送る。

「子供たちに『大人になるのは楽しい』と教えたい」と語る

「なんら不安に思わず、自信を持って取り組んでほしい。実は皆さんがこれまで教員として児童生徒と真摯(しんし)に向き合ってきた姿を、当事者の子供たちにも見せればいいだけです。肩肘張ることはないんですよ」

それでも何かアドバイスするとすればと質問すると、「多様性を知ること」と答えた。

多忙な教員に向けて「まず職員室の多様性を知ってほしい。ちょっとしたときに隣の席の先生に興味を持って、話しかけてほしい。私の勤務校にもマジックに詳しい先生、船の免許を持っている先生など、個性的な教員がいっぱいいます。とても楽しいですよ」と鈴木さんはうれしそうに笑った。

(板井海奈)


【プロフィール】

鈴木茂義(すずき・しげよし)  公立小学校非常勤講師。元上智大学文学部非常勤講師。東京都世田谷区立男女共同参画センターらぷらす相談員。くにたち男女平等参画ステーション相談員。専門は特別支援教育、教育相談、教育カウンセリングなど。1978年、茨城県生まれ。文教大学教育学部卒業。14年間の正規小学校教諭として勤務を経て現職。教員17年目。教育研究会や教育センターでの講師経験も多い。学校に勤務しながらLGBTや教育に関する講演活動を行い、性の多様性やより良い「生き方」「在り方」について参加者と共に考えている。

・メールアドレス hokutosei_charlie@hotmail.com
・ツイッター 「LGBTと教育
・インスタグラム 「torimomo_teacher