何もない地方の限りない可能性(下)高校による地域創生が日本を変える

地域との対話によって共通ビジョンをつくり、離島の地域再生を実現した島根県立隠岐島前高校。東京から隠岐に移住し、この再生プロジェクトをけん引してきた岩本悠氏(島根県教育庁教育魅力化特命官/地域・教育魅力化プラットフォーム共同代表)に、インタビュー後半では「地域・教育魅力化プラットフォーム」を立ち上げた経緯、学校づくりの鍵を握るコーディネーターの役割などについて聞いた。


チームでPDCAサイクルを回す

岩本悠氏

――岩本さんが離れた後も、隠岐島前高校ではPBL型の授業が続いています。学校ではどんなに良い実践をしていても、熱心に取り組んでいた教員が異動すると続かなくなったり、形骸化してしまったりということがよくあります。それらを防ぐためには、どうすればよいのでしょうか。

必要なのは、協働体制と共通ビジョンです。地域との対話を繰り返し、常に外部からの刺激がある体制がつくられていること、どの方向に進み、どのような子供たちを育てたいのか、共通ビジョンを持つことです。さらには、それを実現するための学習が、教育課程に位置付けられていることも重要です。

もう一つ強調したいのは、「一人じゃなくてチームで」動く意識を持つこと。「総合的な学習の時間」や校務分掌もそうですが、チームでPDCAサイクルを回していくと、教員の異動があっても、良い実践がちゃんと継承されていきます。

隠岐島前高校の場合は、コーディネーターという専門職が配置されていて、教員以外のいろいろな人が学校運営に関わっている。そうやって新しい刺激や外部の知見も取り入れながら、進化を続ける必要があります。

全国に広がる島根モデル
――「地域・教育魅力化プラットフォーム」を立ち上げたきっかけは。

隠岐島前高校の取り組みをモデルとして、今、島根県では県内の各学校・地域で連携事業を展開しています。その結果、同じような地域でも、取り組みが進む学校・地域と、進まない学校・地域というのが見えてきました。さらには、どのような条件が整えば、学校が社会に開かれ、教育の質が高まっていくのかも見えてきたのです。この知見は、島根県だけではなく、全国の学校・地域でも応用できるものだと考えます。

この広がりが日本財団の2016年「ソーシャルイノベーター最優秀賞」に選ばれました。プラットフォームを立ち上げたのは、それが直接的なきっかけです。だから、島根県で実施するときは県の立場で、他県や海外で実施するときはプラットフォームの立場で、それぞれ進めています。

――学校が社会に開かれない原因は何なのでしょうか。

ポイントは、協働のチームがつくれているかどうか。もちろん、意志ある個人はいなければなりませんが、個人の力だけでは、その人がいなくなれば終わってしまう。だから、やっぱりチームをつくれているかどうかが重要になってきます。もっと言うと、セクターを超えたチームがつくれるかどうか、例えば、市町村のキーマンも一緒に巻き込んでいるかどうかです。

鍵を握るのはコーディネーター

全国の地方の高校が集まり、課題解決への模索が始まっている(岩本氏提供)

――そういった組織づくりで悩んでいる教員は、多いのではないでしょうか。

セクターを超えて協働していくのは大変です。慣れていないし、やったこともないし、経験やスキルもない。さらにいえば、そんな余力もない。授業や部活動、校務分掌をこれだけやっている今の状況で、教員にこれ以上新たな仕事は頼めません。

島根県の高校で、なぜ地域連携が機能しているかというと、コーディネーターの存在が大きいのです。学校と地域をつなぐコーディネーターの役割を教員に任せようとしても、余力がなくて動けません。島根県では、コーディネーションの専門職を配置することで、チームによる協働体制をつくっています。

僕も隠岐島前高校でコーディネーターをやっていましたし、他の地域でもコーディネーターみたいな人がいないと地域連携は進まない状況でした。地域や自治体も、高校と関わりたい、一緒にやっていきたいとの思いはあるけど、学校と調整してくれたり、教員との「通訳」をしてくれたりする人がいないと、うまくいきません。その意味でも、コーディネーター的な機能や役割の人は大事だと思います。島根県には現在、30人ほどのコーディネーターが高校に配置されています。

――「地域・教育魅力化プラットフォーム」で実施している事業の中には、同じような課題を抱えている学校同士が話し合う場として「共学共創プラットフォーム」もありますが、全国的にはどういった課題が挙がっているのでしょうか。

一つ目は協働の体制をどうつくっていくのか。二つ目はそれとも関連しますが、コーディネーターをどのように配置し、協働体制の中でどのように位置付けるのか。三つ目はそういった体制の中で、子供たちの学びをどのようにして地域や社会に開くのか、地域を舞台にした課題発見・解決型学習をどのようにやっていくのかです。

プラットフォームでは現在、県外の高校生を入学させる「地域みらい留学」も実施していますが、ここでは多様性をどう生徒や学校として受け入れていくのかという課題も挙がっています。

それから「評価」も共通する課題の一つです。生徒の学びや成長をどう評価し、やっていることの価値をどう見える化するのか。ある程度のお金をかけてやっている事業なので、公教育としてはその分のインパクトを見せていかないと予算が取れません。

高校の探究学習の課題

PBLによって高校生が地域の課題を解決する時代が来る(岩本氏提供)

――まさにPBL型の取り組みをプラットフォームでもやっているわけですが、高校の新学習指導要領では、「総合的な探究の時間」など、PBL型の探究学習が入ってきます。どうやったら高校にPBLを広げていけると思いますか。

教師にとって「本当にいいものだ」という実感がないと、やろうとはしません。そんなことよりも試験勉強させた方がいいと思っている。そうした状況のうちは、やらないし、やっても形だけになります。

その意味でも、生徒の成長や変化が見える場をつくっていく必要がある。分かりやすい方法としては、アワードとして表彰したり、生徒の活躍が見えるイベントを開催したりするなどが挙げられます。PBL型の学びをしてきた生徒たちが、どう変化、成長していくのか。そのプロセスを先生方が実感することで、PBLの良さに気付いていくのだと思います。

PBLが普及しない要因の一つは、実践しようとしても知見がないことです。学び合いの手法やファシリテートの方法などを教師がゼロから編み出して実践するのは大変です。そうしたノウハウが相互に共有されれば、PBLが広がっていく可能性があるわけで、それが全国的なプラットフォームが目指していることの一つです。そこで見えてきた知見を吸い上げて、全国に共有していきたいと考えています。

PBLは、学校だけでやろうとすると大変なので、どれだけ地域や社会との連携体制を構築できるかが肝になると思います。「総合的な探究の時間」があるといっても、時間数は少ない。その中で濃密な学びを展開しようとしても、教室の中だけ、教師だけでは難しいものがあります。生徒が外に出たり、外から人が来てもらえたりするような仕組み、社会とのつながりをつくり、協働して実践していくようなチームづくりが重要です。

日本を課題解決の先進国に
――最後に、今後のビジョンを教えてください。

僕らがやっていることは、新学習指導要領の実施に向けて、これまで話してきたような取り組みを全国的に活性化していこうということです。高校で新学習指導要領が実施される頃には、それが当たり前になっている状態をつくりたい。

その先ですが、こういった教育を海外にも広げていきたいと考えており、すでにブータンで始めています。日本の公教育は世界的に見ても優れたシステムを持っている。特に、学校と地域が連携して、地域社会の課題発見・解決をしていく実践のノウハウは、まだ海外、特にアジア圏では見られません。学校がペーパーテスト中心であったり、地方から都市部に人が流出していたり、そうした課題は世界でも共通しています。

その意味でも、海外から日本の学校へ、もっと子供たちが学びに来てほしいですね。日本の子供たちが、多様な国の子供たちと学び合える環境が国内にできれば、日本の教育はもっと魅力的になるでしょう。こうして学び育った子供たちは、大人になって世界に出て行っても、地域に帰ってきても、自ら課題を見つけ、多様な人たちと協働しながら解決し、持続可能な地域や社会をつくっていくことができると思います。

日本は今、ものすごいスピードで人口が減少しています。地域再生という点では課題先進国になっているわけですが、だからこそ課題解決やソーシャルイノベーションの先進国にもなれると思っています。そうやって日本が世界に貢献していく。その中心にいるのは未来の大人である子供たちです。

(藤井孝良)


【プロフィール】

岩本悠(いわもと・ゆう) 島根県教育魅力化特命官/地域・教育魅力化プラットフォーム共同代表。東京都生まれ。学生時代にアジア・アフリカ20カ国の地域開発の現場を巡り、その体験記を出版。印税でアフガニスタンに学校を建設。幼小中高の教員免許を取得し、卒業後はソニーで人材育成・組織開発、社会貢献事業に従事する傍ら、学校・大学での開発教育・キャリア教育に取り組む。2007年より海士町で隠岐島前高校を中心とする人づくりによるまちづくりを実践。AERA「日本を立て直す100人」に選出。15年から島根県教育庁と地域振興部を兼務し、教育による地域創生に従事している。著書に『流学日記―20の国を流れたハタチの学生』(幻冬舎文庫)、『未来を変えた島の学校―隠岐島前発ふるさと再興への挑戦―』(岩波書店)など。

関連記事