世界の教室から「イスラエル」人材育成の秘密

世界一のイノベーションを生み出す人材育成の秘密

イスラエルという国について、みなさんはどのくらいご存じだろうか。近年では、アメリカのトランプ大統領が、アメリカ大使館をエルサレムに移転したことがニュースになった。ユダヤ人国家として知られ、イスラエル・パレスチナ紛争や三大宗教の聖地を連想する人も多いだろう。

実はイスラエルは、国民1人あたりの起業家数やベンチャーキャピタル投資額が世界一のスタートアップ大国なのである。それを支えるのは、高度な技術力とイノベーション力、そしてその源泉となる優秀な人材だ。

例えば、イスラエルは国民あたりのエンジニア数が世界一。世界のユダヤ人人口は0.2%であるにも関わらず、歴代のノーベル賞受賞者におけるユダヤ人の割合は22%と非常に高い。またアップルやフェイスブック、グーグルなどの名だたるグローバル企業約300社の研究開発拠点はイスラエルにある。

優秀な人材を生み出すイスラエルの秘密は何なのか。今回は、イスラエルの若手人材育成の鍵となる、兵役制度とギャップイヤーのメリットについて紹介する。


イスラエルは「敵国」であるアラブ諸国に囲まれており、また事実上占領しているパレスチナの人々とすぐ隣り合わせで暮らしているため、原則国民全員に兵役の義務がある。高校卒業後、18歳ごろから男性は3年間、女性は2年間、軍に所属する。

ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の聖地が集まる、エルサレムの旧市街

兵役というと身体的なトレーニングをイメージする人が多いが、イスラエルの兵役では、技術部隊やサイバー部隊、通訳などとして従事することが多い。また、軍の研究開発機関で技術開発をする人もいる。イスラエルの軍事技術は世界トップレベルと言われており、兵役によって若いうちから世界最先端の技術を扱う事ができるのだ。兵役での業務が、研究開発機関などでの実務に近い経験となり、専門性を身に付けることができる。

また、兵役終了後、長期間のバックパック旅行をする人が多い。この長期旅行がいわゆるギャップイヤーの役割を果たしている。ギャップイヤーとは、高校や大学を卒業した後、進学や就職をするまでの期間のこと。日本でも2013年から、東京大学がギャップイヤー制度を導入し、少しずつ広がりを見せている。海外経験や社会活動をすることで、学生の自己成長が期待されている。

Gap Year Associationによると、ギャップイヤーを経験した学生の6割がギャップイヤーを通して「将来のビジョンが明確になった」と答え、全体の傾向として、ギャップイヤーを経験していない学生より良い成績を収めるとされている。

イスラエルで兵役後にバックパック旅行をするという流れは1970年頃から始まっており、今では文化の一部となっている。イスラエルから国外に出る旅行者の数は年間3~4万人だが、そのうち70%は20~24歳の若者である。つまり、兵役を終えた後の世代だ。旅行期間の平均は約6カ月で、人気の旅行先はアジアや南米など。兵役後の旅は、若者の視野を広げることに一役買っている。世界に出て新たな文化に触れたり、ボランティアやインターンをしたりすることで、国際感覚を身につけ、将来のビジョンを明確にしている人が多いのだ。

街を歩く兵役中の若者たち。日常生活で見かけるほど、兵士は身近な存在だ

イスラエルでは、兵役による最先端技術を用いた実務経験、そしてギャップイヤーで海外経験を積み、国際感覚や将来のビジョンをもった上で、大学に入学する人が多い。学生のうちから、高い専門性や社会への課題意識を持っているため、学生起業をする人も多い。

イスラエルの名門テクニオン大学では、学生の30%が起業あるいは会社経営の経験があるという。学生起業して、必ずしも成功するとは限らないが、イスラエルには失敗を歓迎する文化があり、挑戦することが推奨されているのも背景にあるだろう。早期から技術を社会にどう生かすことができるのかを意識し、挑戦する土壌があるからこそ、イノベーションを生み出す優秀な人材の輩出につながっているのだ。

日本では、留年・浪人なしで大学を卒業し、新卒で社会人になるコースが一般的だ。しかし、こうしたレールを外れ、若いうちから最先端技術に触れ、海外を経験することで、自分の専門性や能力に磨きをかけることも、これからの時代は求められるのだろう。

タイガーモブでは、高校生から若手社会人に向けて、海外インターンの機会を提供している。イスラエルで生まれるイノベーションを体感する視察ツアーも2019年3月に実施予定だ。

イスラエルのように、日本の若者にとっても、海外でビジネス経験を積むという選択肢が当たり前になると、社会が少し変わるのかもしれない。

(伴優香子=ばん・ゆかこ、タイガーモブにて、主に中東・アフリカに関わるプロジェクトを担当)

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