重要課題にどう取り組むか 藤原誠事務次官に聞く

10月16日付で文科省の事務次官に就任した藤原誠氏に、教育政策の課題を聞いた。幹部職員の逮捕・起訴などの不祥事が続き、文科行政に厳しい視線が送られる中、信頼回復に向けて事務方トップとして指揮をとる。


信頼回復が最優先課題
――文科省の喫緊の重要課題は。

文科省では不祥事が続いた。まずは省の建て直しを図らなければならない。今回の内閣改造で新大臣になった柴山昌彦文科相をはじめ、政務三役を支えながら、国民の文部科学行政への信頼を回復させる。これが第一の最優先課題だと考えている。

政策的な面は枚挙にいとまはないが、まず、教育関係で新しい経済政策パッケージや骨太の方針2018を受け、幼児教育の無償化、真に必要な子供たちへの、高等教育の無償化を進める。早期に高等教育無償化や大学改革についての関係法案を政府として提出する。幼児教育についても確実に対応していかなければならない。

藤原事務次官は文科省の信頼回復が最優先課題と強調した

その他、初等中等教育では、学校における働き方改革も喫緊の課題だ。高等教育では、無償化と関連して大学改革という大きな課題もある。また、大学改革と共に高校改革、入試改革にも取り組む高大接続改革は非常に重要だ。

科学技術では、日本の研究開発力、特に基礎研究力の低下が指摘されている。国会でも議論されているが、研究開発力強化法の改正が成立するのであれば、それを受けて研究力強化のための予算措置などに取り組まなければならない。

スポーツでは、2019年のラグビーワールドカップや20年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会など、国際的な大規模スポーツ大会を成功させるというミッションがある。日本の選手が活躍するための競技力向上にもしっかり取り組みたい。

最後に、21年度中の京都への本格移転を目指している文化庁では、先行して今年10月から、次長以下の組織を東京と京都の分離を前提として配置している。文化行政が停滞することなく、移転によってより力を付けることが大事だ。

教員ばかりに頼らない学校
――学校における働き方改革での、文科省の今後の役割は。

学校における働き方改革はまさに今、中教審で議論しているところで、来年早々には答申が出るだろう。文科省としては答申を受けて対応していくことになる。

学校における働き方改革では、教師の超過勤務時間が非常に多いという状況を踏まえ、どうやって教師が疲弊しないで子供たちと向き合う時間を十分に取り、かつ、教育の質を向上していくかが大きな課題だ。まず一つは、教師の勤務実態調査を見れば分かる通り、教育という本分以外に、いろんな雑務をやらざるを得ない状況がある。教師にしかできないことは教師がやる。教師以外のスタッフでできることは、どんどん仕事を振っていく。あるいは教育委員会や学校の外でできることは、外部でやってもらう。そうした業務の精選が求められている。

当然のことながら、教職員定数の改善によって、1人当たりの負担を減らすことにも取り組まなければならない。教師以外のスタッフに仕事を振り分けるということになれば、スクールサポートスタッフも充実させる必要がある。イギリスの学校では教師とそれ以外のスタッフが約一対一の比率であるにもかかわらず、日本の場合は教師が大半を占めている。バランスのいい職種配置、すなわち、教師ばかりに頼らない学校の仕組みづくりをしなければならない。

それらに取り組んだ上で、給特法の在り方や1年単位の変形労働時間制の議論についても考えていかなければならないだろう。中教審の審議も踏まえ、政府としての対応を考えていくことになる。

――新学習指導要領の円滑な実施や、大学入試改革に向けた取り組みは。

小学校では、新学習指導要領で小5から教科になる外国語に対応した教員研修はもちろん、人的体制を措置する必要がある。来年度概算要求で、小学校の英語専科指導教員として1000人の加配を盛り込んでいる。再来年度までに英語専科指導教員を3000人増やし、新学習指導要領での教員の負担を減らしたい。

もう一つ、小学校で必修となるプログラミングへの対応もある。ただし、これはプログラミングという教科ができるわけではない。各教科の中でプログラミング的思考を学ぶ機会をつくるということなので、教員を増やすのではなく、教員研修を充実させたり、地域や民間企業などの専門性を持った外部の人たちを活用したりすることが大切になる。そういった仕組みはすでにあるので、予算的な措置を充実させ、プログラミング教育の充実を図る必要がある。

高大接続改革の一環としての大学入試改革では、まさに新しい入試が20年度からスタートする。本番までもうあまり時間がない中で、11月にプレテストを実施した。この結果を分析・評価して、本番に向けて万全な体制でのぞめるように準備していく。また、英語の4技能については、民間検定試験の活用を打ち出した。今までのような、「読む」「書く」だけではなく、「聞く」「話す」もきちんと評価しなければ、社会がグローバル化する中で太刀打ちできない。文科省として、その仕組みを整え、意を尽くしていかなくてはならないと考えている。

記憶に残る先生に
人生に影響を与えた教師との思い出を振り返る藤原事務次官
――読者に向けてメッセージを。

私自身の体験になるが、小学校の低学年の頃に教わった先生と、高校3年生の頃に進路について相談した先生のことを、今でも鮮明に覚えている。小学校の先生は素晴らしい人格者だった。ちょうど、1964年の東京オリンピックの少し前で、当時子供たちの間で流行していたサッカーを、学校が始まる前や休み時間に一緒になって遊んでくれた。小学校の低学年で何を教わったかははっきり思い出せないが、その先生が情熱を持って私たち子供に接してくれていたことは覚えている。

高校のときの先生は、3年間を通じてクラス担任だ。大学受験が迫った頃、最後に私が弱気になって、第1志望の大学を変えようとしたことがあった。そのときその先生は、「それは駄目だ、強気でいけ」と励ましてくれた。結局、その先生の助言を聞かずに志望先を変えたら、その大学すらも不合格になってしまった。1年浪人して、その先生の言葉を思い出し「今度こそ強気でいけ」という気持ちで本来の第1志望に挑戦したら合格することができた。その先生は残念ながら、私が大学生の間に肺ガンで亡くなってしまったが、私はその先生から生き方を教えてもらったのだと思う。

そういう記憶に残る先生がいて、私のその後の人生に大きな影響を与えている。1人でも多くの子供たちにとって、教師はそういう存在であってほしい。

(藤井 孝良)


【プロフィール】

藤原誠(ふじわら・まこと)氏  東大卒。82年文部省(現文科省)に入省。大臣官房長、初中局長などを経て、18年10月から文部科学事務次官。61歳。東京都出身。趣味はイヌの散歩と映画鑑賞。愛読書は中島敦の『名人伝』。父は教育心理学者の故藤原喜悦氏(東京学芸大学名誉教授)。