世界の教室から「南アフリカ」 アパルトヘイトの傷

基礎教育制度におけるアパルトヘイトの傷

南アフリカ。アフリカ大陸の最南端に位置する国で、過去に白人と有色人種とを差別する人種隔離制度であるアパルトヘイトがあったことで有名だ。2018年は、アパルトヘイトに対する抵抗の象徴であり、南アフリカ初の黒人大統領となったネルソン・マンデラの生誕100周年。アパルトヘイトが崩壊してから四半世紀がたつ今、南アフリカの基礎教育制度はどのようになっているのだろうか。

アパルトヘイト下の南アフリカでは、黒人向けの基礎教育として「バンツー教育(Bantu Education)」が導入された。原住民(黒人)には母語での独自教育を導入するという、一見では民族自治を推奨するような制度である。しかし実際は、白人中心の中央政府が全てを管理したため、黒人向けのカリキュラムから学術的な内容は排除され、園芸などの実務的な授業のみ実施された。

英語での教育禁止は、黒人が英語によって行われる大学などの高等教育を享受することを阻害する結果となった。教育予算全体も、白人・黒人間で大きな格差があり、黒人向けの学校では、教師や教室の数が圧倒的に不足していた。

アパルトヘイトが廃止され、人種を問わず全国民共通の基礎教育制度が導入された。教育予算の分配比も、貧困地域に優先的に配分するよう傾斜がかけられ、貧困地域では教育が無償で受けることができる一方、富裕層の地域では、授業料の支払いが義務付けられた。また、学校運営に地域の声を反映するため、各学校にSchool Governing Body(SGB)が組織された。日本で言うPTA役員会に近いものだが、選出された保護者や教師に加え、生徒の代表も参加している。PTAよりも幅広い権限を持ち、学校運営に関わるようなカリキュラムや教員の採用可否、学費の徴収額などを決定できる。

アパルトヘイト博物館に展示されている隔離政策時の標識

このように、アパルトヘイト後に南アフリカの基礎教育制度は大きな改革を成し遂げた。しかし、教育に関する評判は悪く、17年の世界経済フォーラムによる各国の基礎教育制度ランキングでは133カ国中126位となっている。南アフリカ政府の教育予算は、対GDP比で6.4%。EUの4.8%に比べ、多くの予算を割いている。しかし、いまだに約半数の学生が12年の基礎教育期間を終えることができず退学となり、白人・黒人間の格差は残っている。大卒以上の学位を持っている白人国民の割合は18.3%である一方、黒人国民の割合は3.1%にとどまっている。

不名誉な結果となっている南アフリカの基礎教育制度は、地域間格差と教員の質不足という大きな課題を抱えているといわれている。

地域間格差には、先ほど述べたSGBが大きく影響している。SGBによって合意がなされれば、授業料を変更することができる。つまり、保護者らの同意次第で、政府により配分された教育予算に加え、学校に追加資金を投入できる。

しかし、南アフリカは、アパルトヘイト時代の影響もあり、富裕層と貧困層で居住地が分断されているため、地域によって大きな所得格差がある。そのため、富裕層の住む地域の学校は、より多くの運営資金を得ることができる。結果として、貧困層の授業料に比べ富裕層の通う学校の授業料は10倍にもなり、政府からの資金よりも授業料による保護者からの出資により質の高い教育の提供が可能となる。そのため、同じ公教育でも地域により質に差が生まれるのだ。

もう一つの課題は教員の質の不足である。特に理数系の教員は、50年近く続いたアパルトヘイト時代に、人口の約8割を占める黒人に対する理数教育が排除されていたため、数・質共に不足している。13年に実施された調査では、数学教師の60%が担当学年の数学テストを合格できなかった。また、教員によっては賄賂を受け取る人もおり、教員の倫理感も問題視されている。

こうした公教育の状況を受け、高い水準の教育を安価で提供する、私立学校が注目されている。SGBの働きもあり、公立学校でも授業料が高額になる地域がある一方、南アフリカの都市部をはじめ、公立学校の平均授業料と変わらない金額で入学することができる私立学校が人気となっている。瞑想(めいそう)や身体表現など、独自のカリキュラムを持つ学校もあり、学力面でも高い成果を上げていることから、中低所得層を中心に入学希望者が増加している。

こうした動きも都市部にとどまっており、また低所得層からすると私立学校の授業料はいまだに手の届かない金額である。南アフリカでは教育制度を巡り、さまざまなセクターが知恵を絞っている。政府、民間、市民が一体となって取り組む必要がありそうだ。

(伴優香子=ばん・ゆかこ、タイガーモブにて、主に中東・アフリカに関わるプロジェクトを担当)

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