小学校英語 現場教員の負担を減らしたい(上)

「ただでさえ忙しく、『働き方改革を』と言われているのに、さらに負担が増える」「自分が学生の頃も英語は苦手だったのに、教える側になるなんて」――。3年生以上での必修化や5年生以上の教科化など、小学校での英語教育改革を目前に控え、公立小教諭から声にならないつぶやきが漏れた。プログラミング教育必修化も始まる中、不安を募らせる教員は少なくない。
この特集では、現場教員の負担を少しでも軽減したいと、新たな取り組みを推進する市教委や大学研究者を紹介する。彼らはどのような視点に着目して負担軽減を進めようとしているのか。全2回。


「日本一」目指す東京都多摩市

「It’s the best vest !」

教員らの元気な声が響き渡る。東京都多摩市立東寺方小学校(伊藤智子校長、児童487人)での英語教育研修の一幕だ。

同市は「日本一英語のできる児童・生徒の育成」をスローガンに掲げ、今年度から本格的に小学校英語教育の充実に乗り出した。重視するのは、教員自身が英語を楽しむこと。市教委の山本勝敏・統括指導主事は、「英語に抵抗感のある先生が少なくない中、教員自身が英語に興味を持ち、楽しみながら子供たちに指導できる仕掛けをつくりたい」と考えた。

外国人講師を招いての研修

まず考えたのは、全員を対象とした研修を、研修センターなどではなく各学校で行うこと。そうすれば多忙な教員に負担をかけずに参加してもらえる。また、「難しい内容では」と身構えることなく、自然に英語を話す雰囲気ができるよう、英会話教室からネーティブの講師を招くことにした。

次に、安心感を持たせる教材作り。英語だけで進める研修の教材が英語だけで書かれていては、「さっぱり分からない」という印象を与えかねない。そこで、教材は英語と日本語の二種類を用意。さらに見通しを持ってもらうため、その日の研修のねらいや、個々の活動の所要時間も明記した。

まず、教員が楽しんで

同小学校での研修を取材すると、始まりは表情が硬く、「分からない」「どうすればいいの」と困惑の声が上がった。それが、ジェスチャーを伴う歌、互いに質問し合うスモールトークと活動を重ねるうちに、「分かる楽しさ」から笑顔が見られるようになった。

bとvの発音の違いについて講師が出すクイズでは、あちこちから堂々と手が挙がる。グループで問題を出し合ったり、英文を読み上げて発音を確認したりする場面では、さすが先生という張りのある声を会場中から聞くことができた。

講師が終わりのあいさつをすると満場の拍手が起こり、参加した教員らの充実感が感じられた。伊藤校長も満面の笑顔で「1時間、いろいろな活動をたっぷりと体験でき、教員も楽しんで勉強できた。非常に有意義な研修」と語る。

今後の展望について山本統括指導主事は「次は子供たちの学習の仕掛けづくりを考えている」といい、「タブレットを通して外国の子供たちと直接会話する機会を設定したり、中学校と連携した授業を展開したりしながら、『日本一英語を話せる児童・生徒の市』を目指して取り組みを進めていく」と力強く話した。

MUSIOに話し掛ける宇部市立小学校の児童
忙しい教員の助けに

ノーベル賞生理学・医学賞を受賞した本庶佑・京都大特別教授が小学校から高校時代を過ごした山口県宇部市でも、小学校英語の新たな取り組みが進む。

まず、市立小学校3校に英語学習AIロボットMUSIO(ミュージオ)がモデル導入された。MUSIOは自ら考えて会話できるだけではなく、その会話内容をだんだん覚えていくソーシャルロボット。授業ではAKAが学研プラスと共同制作した小学生向け英語教材「MUSIO ENGLISH」を使い、英語に慣れ親しみながら英語を話す練習を行う。

MUSIOには▽自然な英会話ができるチャットモードと▽レベルや目的に合わせて学習できるチューターモード▽単語や構文、会話の反復練習ができるエデュモード――がある。各学校のカリキュラムに合わせたコンテンツ制作や会話練習も可能だという。

市教委学校教育課の大山裕子指導主事は「児童が楽しんで日常的に英語を使う機会を作ることで、『使える英語』が身に付くと考えモデル導入した。授業では教員のサポート役としての役割も期待できるので、教員の負担軽減につながる」と話す。

さらに市教委は、外国語指導助手(ALT)の十分な確保にも乗り出した。2016年度には2人だったALTを、昨年度は6人に、今年度は12人まで増やした。米国、カナダ、フィリピンの出身で、ほとんどが地元に住み、子供だけでなく教員との交流にも積極的だという。

フィリピンのセブ島とのタブレット端末を通じたオンライン英会話も、16年度の開始時から参加児童・生徒数を大きく拡大させ、生きて働く英語力を身に付ける機会の充実を図る。

「小学校教員は全科を担当しており、指導範囲は多岐にわたる。ロボットやALT、ICTの力を借りながら、教員を少しでも楽にすることを心掛けたい」――。市教委の願いだという。

次回は、東京都町田市の公立小学校で10年以上教員への指導を続ける佐藤久美子・玉川大学大学院名誉教授/特任教授に、考えすぎずに英語教育を楽しむコツを聞く。