世界の教室から 北欧の教育最前線(13)宿題ポリシー

学習時間を増やせば成績は上がる。日本の学習時間は長く、成績も優秀だ。一方で、スウェーデンの学校は休みが多く、授業時数も少ない。隣国フィンランドに比べて国際学力調査の成績は振るわないが、生徒の「学習生産性」は世界トップクラスだ。少ない時間で成果を上げる仕組みはどのように説明できるのか、教員の働き方と「宿題ポリシー」から考えてみたい。


生徒の「学習生産性」は世界トップクラス

OECD(経済協力開発機構)が実施する国際学力調査(PISA)では、学校外学習の時間が短い国は科学の成績が良いことが明らかになった。スウェーデンも学校外学習の時間が短い国の一つで、さらに総学習時間に対する点数が高いという特徴がある。

日本の小・中学校では年間200日程度にわたって授業が行われているが、スウェーデンの授業日数は年間190日と定められている。この190日には12日以上の休日と5日以内の職員研修日(子供はお休み)が含まれているため、子供たちが実際に通学する日数はさらに少ない。学校教育法には「1日の就学時間は最大8時間、ただし就学前学級(0年生)と1-2年生は6時間まで」と定められている。これは、学校が長時間拘束することは、子供の健全な発達によくないという考えが反映されている。

教員の働き方

少ない授業日数は教員給与の構造からも説明できる。校長は教員と個別面談を行い、毎年の給与を決定している。労働組合が強いため最低限の権利は守られているが、教員間の条件の開きは大きく、校長よりも高い給料を受け取る教員もいる。校長は慢性的な教員不足の中で、市から与えられた予算内で上手に采配する必要がある。このストレスを嫌って校長のなり手も不足している。

労働法に定められた労働時間は週40時間以内となっている。しかし、教員の場合は週35時間の業務と10時間以内の裁量時間とに分けて契約することが多い。学期の始まりや保護者面談の時期には仕事が増えるが、それ以外は比較的余裕があることから、裁量時間でやりくりすることになっている。

校長は裁量時間の10時間については業務の指示ができない。しかし、教員にはこの時間を組織の目的達成のために使うことが求められ、事後に校長に報告する必要がある。このような形で働く教員たちは、学期中に多く働く分、夏休みなどの休暇が長くなっていて、年間では週40時間に収まるように設計されている。

もちろん、この契約時間を超えて、家に持ち帰って残業をする教員もいる。そうして優秀さをアピールすることで翌年の契約が有利になる側面もあるが、命令外の業務のため時間外手当は支払われない。そのため、一部には夜間や週末にオンライン授業の講師などをして、兼業で稼ぐ人もいる。また、校長には労働時間を管理する法的な義務があり、市の教育部からも評価されるため、時間外勤務が奨励されることはない。

働き方のもう一つの特徴は、校長と面談する際に、週40時間をどの業務に割り当てるかを明確にしている点だ。例えば、学年主任の場合、週当たり1日分は学校運営の会議に参加する必要があるため、授業担当は80%(4日間)、校内分掌は20%(1日間)と割り当てる。パーセントによる徹底した時間管理は、一部の優秀な教員に負荷が偏ることを防ぐとともに、限りあるリソースを有効に配分するために欠かせない仕組みになっている。

教員は限りある自分の時間を学校に売っているという意識があり、校長も無駄な仕事はコストとして学校経営に直接跳ね返るため、双方に時間管理意識が非常に強い。そのため、おのずと授業時数の管理も厳格にならざるを得ない。

宿題ポリシー

教員の徹底した時間管理意識は、子供たちの学習時間にも及んでいる。多くの学校では生徒にスケジュール帳を持たせたり、オンラインのスケジュール機能を提供したりして、生徒に学習計画を立てさせている。授業は個別化されていることが多く、生徒は小さいうちから課題の提出期限を守るように指導される。

学校での学習時間を締め付けると、「残ったら宿題ね」と家庭に押し出されることが想定される。ところが、スウェーデンでは学校と家庭がはっきり線引きされていて、この一線を越えると保護者から強い反発が起きる。宿題が授業の一環であれば、学校にいる間にやるべきで、家庭に押し付けるべきではない、と考える親がかなりいる一方で、「もっと宿題を出してほしい」と訴える親は多くない。彼らは、家庭で自主学習の習慣をつけるために有効だという教員側からの意見を、「余計なお世話だ」とはね返す。

これに対する教員側からの反撃もある。学力調査で宿題が成績を向上させるとの分析されたことや、ジョン・ハッティのメタ分析研究などを引き合いに出して、「定期的な宿題は基礎学力の定着に有効であると科学的に示されている」という根拠で、学校が「宿題ポリシー」を策定する事例が増えている。

ある学校は「宿題ポリシー」に、次のように書いている。

「本校の教員は以下の点で一致しています。

  • 教員は最初の保護者会で、どのような宿題がどの程度の分量で与えられるか、そして保護者がどのように子供を援助できるかについて説明します。また、三者面談でフォローアップをします。
  • 宿題は学年で統一のものを出しますが、ニーズに応じて個別に対応します。
  • 宿題は明確で理解しやすく、学校での学習と関連しています。課題が何で、どう行うかは、教師が説明します。
  • 教師は生徒に宿題のフィードバックをします
  • 宿題はそれぞれの生徒のニーズと状況に応じて出します
  • 学校は宿題を補助するアシスタントを雇い、生徒が宿題をする時間を確保します」(注: 原文は表現が難しいため、理解しやすいように一部意訳)

学校教育庁も宿題に関するガイドラインを示している。そこでは、宿題に関する法令はないものの、宿題を授業の一環として出す場合には教員と校長に決定権があると記している。その上で、宿題を出す場合には少なくとも①課題の準備、②説明、③フォローアップの3点を踏まえる必要があるとして、適切な宿題を設定するためのチェックリストを用意している。学校教育庁の見解では、宿題は教師が行う授業の代替にはならず、あくまでも生徒の学習権を保障する手段として目的を明確にし、効果的に用いることが望ましいとしている。

このような制約を考えると、教員は宿題を出す手間よりも、授業の中で集中して学ばせる方が面倒が少ないという状況になっている。そうして、教員も生徒も限られた時間の中で、必要な内容を習得するという「学習生産性」が生まれている。

(林寛平=はやし・かんぺい、信州大学大学院教育学研究科准教授。専門は比較教育学、教育行政学)

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