EdTechの未来と危機感 デジタルハリウッド大学大学院 佐藤昌宏教授

デジタルハリウッド大学大学院の佐藤昌宏教授は、教育現場にテクノロジーを駆使した学びをもたらす「EdTech」の第一人者として知られる。経産省の「未来の教室とEdTech研究会」座長代理、東京都千代田区立麹町中学校の学校運営協議会委員長などを歴任する佐藤教授に、公教育に抱く危機感や新たな学びに向けた構想を聞いた。


世界で「教育の科学」がテーマに
――EdTechを巡る世界の状況は目覚ましく進展しましたね。

2005年ごろITバブルが起き、09~10年にはWi―Fiやスマートフォンが普及して手のひらにテクノロジーが降りてきました。

EdTechが生まれたのはその頃。eラーニングの延長で、インターネットとパソコンさえあれば場所や時間にしばられずに教育を受けられるようになりました。

――教育の本質に変化をもたらすのでしょうか。
佐藤昌宏教授=12月13日午後2時30分、東京都千代田区、小松亜由子撮影

テクノロジーはデジタルの符号で可視化できる世界です。つまり分析し再現できる。教育が科学できるということです。

教育は「人間がやる領域」、経験や感覚が重視されてきました。経験を積んだ教員の職人的な技が発揮され、伝達は難しい。約150年、日本で続きました。

世界では「教育の科学」がテーマになっています。教育の再現性が一層進めば「機械で再現できる部分」「人間にしかできない部分」が分化する。教育は大きく変わるでしょう。

教育の仕組みの再定義へ
――EdTechではどのような動きが。

米国では教員向けのクラウドファンディングサービスが進んでいます。60億円以上の効果を上げており、地域で子供の成長を支える仕組みになりつつあります。

――EdTechが最も盛んな国・地域はどこですか。

中国です。15年にはEdTech投資額で米国を抜きました。国土が広いがゆえにEC(電子商取引)サイトで買い物をする習慣が根付いていて、アプリを駆使して仕事をしている。

そしてネットの恐ろしさもよく知っている。ネット上で評価が下がれば買い物も仕事もできなくなる。必然的にITリテラシーが上がりました。ブロックチェーンを活用した成績管理の整備も進んでいます。このまま行けば、日本も中国の教育系プラットフォームを使わざるを得なくなるでしょう。

――日本についての危機感はありますか。

あります。ITリテラシーの低さです。

私は、必修化すべきはプログラミング教育ではなくITリテラシーだと考えています。スマホでデジタルコミュニケーションに触れる前に、テクノロジー設計の歴史や思想を知り、理念を理解する必要がある。そうでなければテクノロジーの背景やポテンシャルも知らず、ネットの渦へ巻き込まれることになる。とても危険なことです。

教員の役割は細分化していく
――日本のEdTechの現状はいかがでしょうか。

現状ではまだまだ。その原因には、「ハード主導」「硬直化した既成概念」があります。

国を中心に電子黒板やタブレットなどの電子機器導入を進めていますが、重要なのは「何を入れるか」より「何をやるか」。ハードよりもソフト主導の変革です。

また、日本では学習意欲や能力がバラバラな人が集まって均一な教育を受けるという現実があります。情操や社会性の育成には意味があるが、一人一人の課題に向き合うのは難しい。

「教育とはこうあるべきだ」という既成概念を崩し、自由に学びを手に入れる時代を創ることが大切です。

耳が痛くても教員に聞いてほしい
――新しい学びの形では、教員の役割も大きく変わりますね。

教員の役割は細分化していくことになります。

21世紀を生き抜くにはシームレスで社会とつながりながら主体的に学ばねばならない。学習者中心の学びに移行していきます。教員には、学習者のモチベーションに向き合うことが強く求められるようになる。

機械には不可能なのが4象限の「コーチング」「ファシリテーション」。教員には「教える」ではなく、寄り添いながらモチベーションを上げる「導き」が求められます。

――教員の意識転換が鍵になりますね。

そうです。教員には、耳が痛くてもぜひ聞いてほしい。

「教員は、自立した子供を無意識に『かわいくない』と思ってしまう」と聞いたことがあります。ですが、これからは自立して学べる子供を育成する「コーチング」をする必要があります。

「ティーチング」というアイデンティティーを外してください。

未来の学びに向けて、まずは年明けの新学期に「子供たちから教わる」という寄り添いの姿勢を示してください。子供が夢中になって教えてくれることを。このままではこの国は本当にまずい。その意識を持ってほしいと願っています。