小学校英語 現場教員の負担を減らしたい(下)

小学校での英語教育改革を目前に控え、現場教員の負担を少しでも軽減したいと、新たな取り組みを推進する市教委担当者や大学研究者がいる。彼らはどのような視点に着目して負担軽減を進めようとしているのか。今回は10年以上にわたって公立小教員に指導してきた佐藤久美子・玉川大学大学院名誉教授/特任教授に、考えすぎずに英語教育を楽しむコツを聞いた。


児童はたくさん英語をしゃべる先生を自慢に思う
――小学校教員が英語授業に対して抱えている大きな悩みとして、授業を進めたり活動を促したりするために使う、「Take your seats」「Face each other」などの、いわゆる「教室英語」が挙げられます。

教室英語のような、ちょっとした英語に困っている先生方は非常に多いです。苦手意識を払拭(ふっしょく)するためには、確実に覚えた教室英語を多用するようにしましょう。繰り返し使うことで児童も聞き取れるし、覚えられます。

授業もオールイングリッシュにこだわらず、日本語の量を減らすことを目標に。「Hello!」「Sit down」など簡単な英語で良いので、1分間に一つ英語を使う発想でやりましょう。「それならできるかも」と思いませんか?

――「自分の発音に自信がない」「こんな発音で教えていいのか?」という悩みもあるようです。
佐藤久美子・玉川大学大学院名誉教授/特任教授

私は東京都町田市内の小学校で10年以上指導していますが、先生方には「児童は先生の発音はまねしません」と言っています。児童はALTや、CD、DVDなどの教材の発音をまねしますから、安心してください。

ただ、だからといって、担任がめちゃくちゃな英語を使うのは困ります。自分が確実に言えるフレーズを使うようにしてください。たとえ担任の発音が悪くても、児童は先生の発音をばかにしたりしません。むしろ、たくさん英語をしゃべる先生を「うちの先生は英語がうまいんだよ!」と自慢に思うものです。

小学校の先生方は1年授業をやると、自身の英語もぐっと上達します。児童は担任と話すのが一番楽しく、うれしいものなのです。発音に捉われすぎず、考えすぎずに、たくさん英語を話すことの方が大切です。

指導案は毎回同じ流れでいい
――小学校英語教育で一番重要なことは何でしょう。

しっかりとした指導案を作って、教え方を統一することです。

私は2009年から町田市の42の小学校に、指導案を配信し続けてきました。先生たちの意見を反映しながらアップデートしてきた中で見えてきたことは、まず、指導案の流れは毎回同じがいいということ。そうすることで、先生が使う教室英語も一定ですみます。毎回同じなので自信を持って使えますし、児童も覚えやすい。何より、授業の流れを一定にすると、児童も先生も安心して授業ができます。

ALTやJTEとの打ち合わせも、指導案の流れを一定にしておけば、短時間で理解してもらいやすくなります。

――具体的にはどのような指導案が良いのでしょうか。

15分単位の活動を三つ入れるよう考えておくと良いでしょう。

最初の15分は「あいさつ+単語や表現の練習」。ここの導入で単語とフレーズ(チャンツ)を徹底的に入れます。

児童にとってはチャンツも単語も同じ。チャンツなら、リズムに乗って自然と口から言えるようになります。単語を変えていけば、どんどん使えるようになります。チャンツでフレーズを丸ごと学べば、文全体のアクセント(強勢)も学べます。

次の15分で「アクティビティ」を。単語やチャンツを定着させるためのアクティビティや、目標表現を使って、実際に児童が自分の言いたいことを言えるようにするための練習をしましょう。

最後の15分は「学習に関連する絵本の読み語り」や「発表」「振り返り」です。

この流れをずっと繰り返していきます。1年生から6年生まで同じでいいと思います。15分単位で考えておくと、モジュール学習にもそのまま利用できます。

絵本は小学校英語における最高の教材
東京都町田市立小の絵本を用いた授業
――発達に応じた教え方のポイントは。

低学年は、もっともっと話してみたいと思っているので、「こんな時に英語を使うとどうなるかな?」ということを見える化してあげることが大切です。

中学年までは歌を使うのもおすすめです。そしてチャンツを使って、フレーズを入れていくこと。必然的な場面を作って「英語を話したい」と思うようにすることがポイントです。

高学年になると単純に歌を取り入れても、意味がわからないと嫌だなと感じる児童が多くなります。歌よりも、チャンツや絵本の読み聞かせの方が効果的です。

学年を問わず取り入れてほしいのは絵本です。絵本は日常的なことが書かれているものを選べば、必然性のある自然な場面で英語表現が使われています。だから児童も表現を理解しやすいのです。

新学習指導要領では「話す」活動が「やりとり」と「発表」の2領域になりました。絵本では、「やりとり」の良い練習もできます。例えば表紙を見て、「What color is this?」「It‘s green!」「Do you like green?」「Yes!」「What’s this?」「It’s a bear」というように、これまで習った目標表現などを、絵本を活用しながら「やりとり」していきましょう。

――学習指導要領に「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能が入りました。

小学校英語では、まずは「聞く」「話す」ことを中心にするといいと思います。

英語は「話す」だけでは定着しません。「書く」ことが定着の一助になります。ただし、音でなじんですっかり言えるようになってから「書く」ようにしましょう。英語嫌いな児童を作らないための重要なポイントです。

そして簡単で短い単語やフレーズを、口頭でスペルアウトしてから「書く」ようにしましょう。英語圏の子供たちも音に出して、五感を使ってスペルを覚えています。

児童を一番理解している担任主導で授業を
――授業は担任が中心となってやるべきでしょうか。

担任こそが児童のことを一番理解し、児童が何に興味があるかを分かっています。ALTやJTEと行うティームティーチング(TT)でも、担任が中心になるべきです。

例えば、CLIL(教科横断型学習)が注目されています。「算数は好き。でも英語は好きじゃない」という児童もいます。これがわかるのは、担任だけ。その児童に算数のことを英語で話すと、英語も好きになるかもしれません。

また、「小学生がこの目標表現を使う場面はどこ?」という必然的な場面が分かるのも担任です。例えば教員研修で、「学校生活において、児童が数を数えるシーンはどんな時ですか?」と先生方に問えば、「給食の残りを数えるとき」と答えます。これは、担任じゃないと思いつきません。この表現を毎日給食の時間に取り入れるなど、必然的なシーンで英語を使う機会を増やしていけるといいですね。

――指導力を高めるにはどうすれば良いでしょう。

校内研修が非常に大切で、理想としては年間8回の研修が望ましいです。

まず、例えば「コミュニケーションが取れる子供を育てる」など、学校が掲げる小学校英語の共通の目標を明確にします。その考えに合った講師を招いて研修を行いましょう。

8回のうち6回は、1年生から6年生まで一つずつ授業を講師に見てもらいます。それに対してアドバイスしてもらいましょう。定期的に授業を見てもらうことで、指導力も高まります。残り2回は講師の講話や、共通の目標に対しての総括をしましょう。

年間8回の研修をすれば、教員力のある小学校の先生方なら、翌年から自信を持って授業に挑めると思います。

英語力より教員力が大切
――移行期間にすべきことは。

2020年に新しい教科書が入ってくるまで、とにかくいろいろ試してみることが大切です。

移行教材については、全てをやろうとしないこと。例えば、「We Can」のスモールトークが難しいと思えば、やらなくてもいいんです。他の教科と同じく、学習の目当てを定めて、学習のステップを積み重ねていく。そして最後は児童たちが発表して、振り返りができたら良いと思います。

授業でたくさん英語を使う先生の児童は、英語を話す量が増えます。先生方は、簡単でいいので確実な英語をどんどん使って、児童とのコミュニケーションを楽しみましょう。

――英語教育に不安を持っている教員に伝えたいことは。

小学校の英語=英語力ではありません。英語力が必要だと思われがちですが、決してそうではなく、教員力があれば良い授業ができます。そもそも、小学校の英語はそんなに難しいことはやっていませんから、構えず取り組んでみてください。

「英語が楽しい」「英語が好き」と思う気持ちを大切に、児童と一緒に楽しみながら学んでいきましょう。


【プロフィール】

佐藤久美子(さとう・くみこ) 玉川大学大学院名誉教授/特任教授。津田塾大学大学院文学研究科博士課程修了。ロンドン大学大学院博士課程留学。乳幼児の言語獲得・発達研究に従事し、その科学的成果に基づく英語教育を提案している。2012年度よりNHK Eテレ「えいごであそぼ」「えいごであそぼwith Oton」総合指導、2017年度よりNHKEテレ「エイゴビート」の番組委員をつとめる。2007年度より町田市教育委員会の委託を受け小学校42校にカリキュラムを配信。その他、全国の多数の小学校、教育委員会で研修講師をつとめる。小学校英語指導者認定協議会理事。