世界の教室から 北欧の教育最前線(14)体育の授業増で学力向上?


打ち上げ花火が町中に広がってスウェーデンの新年は始まる。まだ冬は続くが、学校では「春」学期が始まった。2019年は、基礎学校(日本の小・中学校段階に相当)で数学と体育・保健の授業時数が増加し、代わりに個人選択の時間が減る。


3年くくりの授業時数

基礎学校では教科ごとに、3年単位で最低時間数が示されている。例えば国語(スウェーデン語)は、1~3年生で680時間、4~6年生で520時間、7~9年生で290時間だ。このくくりは昨年秋に導入されたもので、以前は基礎学校9年間分の合計時間数のみが定められていた。

さらにその前は日本と同じく、各教科、各学年の標準時間数が定められていたのだが、1980年代以降の規制緩和の中で合計時間数のみの規定になった。規制緩和の際に、教育についても目標と評価を全国共通にした上で、教育実践の方法や内容に関しては現場の裁量を増やすことが目指されたのである。現在では、学校設置者が学校監督庁に申請すれば、授業時数の規制も免除される。

近年は、教育の質と平等を保つために、一時よりも教育に関する規制が強まっている。数学と体育・保健の授業時数増加もその一つだ。数学は7~9年生で合計100時間増える。増加の理由は、卒業時に合格レベルに達しない生徒が多いためだ。時間をかけて、合格する生徒を増やそうというのだ。

学校の体育館
体育の時数増加

体育・保健は、4~6年生で20時間、6~9年生で80時間の、合計100時間増加する。この理由には、スウェーデンの体育の授業時数が諸外国に比べて少ない点の他に、よく身体を動かす子供は学業成績が高いことが挙げられた。

この主張には実験の裏付けがある。マルメ市で2000年ごろに行われた実験(実験地の名前からブンケフロ・プロジェクトと呼ばれる)では、毎日体育の授業を受けた子供たちと、通常通り体育の授業を週2回受けた子供たちとの学業成績が比較され、特に男子に関して、前者が有意に高かったことが報告された。ちなみにプロジェクトの目的は、日々の身体活動が骨の強さや運動能力、健康的な生活習慣、また生徒の集中力などに影響するか検証することだった。

授業時数増加の議論は、ブンケフロ・プロジェクトの成果が発表された12年ごろから活性化した。14年には、スウェーデン・オリンピック委員会(SOK)などスポーツ関係者からの署名も議会に提出された。

政治的な議論

しかし時数増加の決定は、一筋縄にはいかなかった。議会各政党は身体を動かす重要性には総じて同意していたが、その方法については意見が異なっていたのだ。

保守党は当初から体育の時数増加を主張してきた。一方、社会民主党は、身体を動かすことの重要性には同意するものの、それは体育の授業時数増加によって実現すべきものではなく、学校生活全体を通じて行うべきだとした。また、体育の時数増加の前に、体育の授業の質向上が必要だと主張した。

こうした議論と並行して、17年にはブンケフロ・プロジェクトのデータを再分析した研究が発表され、骨や筋肉に対する良い影響とともに、男子の成績に与える良い影響が示された。政治的な議論も同年に終結し、結局、時数増加が決定した。

スウェーデンの教育改革では、多様な実験をしたり、データ分析を基に議論したりすることも多い。これらは平生からさまざまな統計データが集められ、分析可能な形で公開されていることで可能にしている。また、政策実施後に評価・検証も行われる。

体育の授業時数の変更が学業成績にどう影響を与えるのか、数年後の結果を注目したい。

(本所恵=ほんじょ・めぐみ 金沢大学人間社会研究域准教授。専門は教育方法学)