世界の教室から 北欧の教育最前線(15)極夜の国の登下校

学校送迎

スウェーデンでは1~2月は学校選択の時期だ。自治体によっては、8月から就学前学級(小学1年生になる前に通う1年間の課程で、2018年に義務化された)に進学する子供や、別の学校に移る児童生徒の保護者が希望校を選択できる。ウプサラ市では、該当する保護者あてにはがきが届き、街には学校選択をリマインドするポスターが現れ、役所には臨時のサポート窓口ができた。

小さな集落や、牧草地や森の中に点在する家も多いスウェーデンでは、学校選択の際に登下校が課題になる。学校法で保障されているため、公立の小・中学校に通う場合は、登下校の距離や交通状況、児童生徒の障害などに応じて学校送迎が無料で提供されている。バスや電車の定期券が支給されたり、子供マークを掲げたスクールバスやスクールタクシーが出されたりする。

学校送迎が行われる条件は自治体ごとに異なるものの、多くの自治体では家と学校間の距離を基準にしている。通常、小学校低学年の場合は最低2km、高学年では最低3km、中学校では最低4~5kmの距離で学校送迎が行われる。自治体によっては、学校送迎ゾーンを設定し、ゾーン内の学校を選べば送迎してもらえる。ウプサラ市では、ウェブ上の地図で学年ごとの学校送迎ゾーンが表示でき、学校選択の参考にされている。

子供マークを掲げたスクールバス
増す必要性

危険な道路が通学路にある場合や、障害をもつ児童生徒に対して学校送迎が行われることも多いようである。また、冬季のみ送迎を行う場合や、両親が離婚していて父親・母親のもとに代わる代わる住んでいる場合、社会統合を目的として移民の子供を家から遠い学校に通わせる場合などがある。

歴史的に、学校送迎はスウェーデンの学校の発展とともに議論されてきた。1920年代には、小さくて質の低い学校が多かったため、統廃合によって学校規模を大きくし、代わりに子供たちを送迎するという文脈で、学校送迎が議論された。それによってコストが削減でき、教育の質も上がるというわけである。

戦後、50年代から60年代にかけて9年制の基礎学校が形作られ、農村地域にも比較的大きな学校ができ、児童生徒が比較的広い範囲から通ってくるという状況ができた。近年では、学校選択制が導入されたことによって、住まいから最も近い学校以外の学校を選択できることになったため、送迎の必要性が増していると言える。

学校選択制の導入によって、学校送迎に関する自治体の判断は複雑になっている。学校送迎の権利は、基本的には公立学校に通う児童生徒にしか付与されない。ただし、自治体にとって組織的・財政的な困難がない場合には、私立学校に通う生徒にも学校送迎を提供することになっている。

廃止される事態も

子供や保護者にとっては、その時々の自治体の判断によって状況が変わる危うさも含んでいる。実際にティングリューズ市では、2018年の夏、新学期を目前にしてある私立学校の学校送迎廃止が決まり、保護者と子供たちが困惑する事態になった。

保護者は「学校選択制が導入されたからには、送迎に関してもきちんと保障してほしい」と主張。しかし自治体は「組織的・財政的に追加のコストがかかってしまう。私立学校が送迎を準備するべきだ」という意見だ。私立学校の増加や、学校選択制導入による公教育の役割・責任分担の議論が表れている事例とも言える。

冬至で折り返したとはいえ、まだしばらく子供たちの登下校は暗闇の中だ。学校選択がこの時期にあるのは、登下校の条件がもっとも厳しい時期を念頭において通える学校を選ぶ、という意味でも理にかなっているかもしれない。

(中田麗子=なかた・れいこ ウプサラ大学教育学部客員研究員。専門は比較教育学)