真のグローバルリーダーを育てる 日野田直彦氏の挑戦(上)

偏差値50、地域4番手の公立高校が、わずか4年で海外トップ大学へ多数の進学者を出す進学校に――。大阪府立箕面高校の奇跡的な躍進を導いたのが、同校の前校長である日野田直彦氏だ。多くの学校や教員が、英語教育やグローバル教育のあり方に真の答えを見いだせない中、同校の生徒たちはどのようにして世界へ目を向けるようになっていったのか。第1回は、真のグローバル教育に必要な視点と、世界が求めるグローバルな人材像について聞いた。全3回。


英語力が問題なのではない
――前任の大阪府立箕面高校では校長着任4年目の2017年度に、米難関校のウェズリアン大学や豪州のトップ大学群(Group of 8)、世界で最も入学が難しいと言われるミネルバ大学(一条校として初)など、海外大学に36人の合格者を出しました。躍進を実現した改革とは、どのようなものだったのでしょうか。

私が着任した14年当初、箕面高校は塾の模試で偏差値50前後、地域4番手の公立高校でした。国際教養科(当時)はありましたが、海外大学進学者はゼロという状況です。着任早々、大阪府が実施する「骨太の英語力養成事業」の指定校になったこともあり、「TOEFLで成果を実証しましょう」「海外進学に耐えうる力をつけましょう」「教育課程表を変更しましょう」など、現実化が極めて難しい施策が示されました。今から5年前の日本社会の現状を考えると、とても進んだ施策でした。

「生徒には、自分の人生のかじは自分で握ってほしい」と語る日野田校長

まず私は「マインドセット」、つまり考え方を変えることから始めました。日本にはいまだに「グローバル=英語が話せること」という考え方が根強くありますが、個人的に英語力はさほど重要視していません。それよりも「マインドセット」を変えて、思考方法や多様性を認める力をつけることが大切です。そして「そもそもあなたは世界にどのように関わり、どのように貢献したいのか?」という問いに自分なりの回答を見つけ、必要な資質をつけることが大事だと思います。

日本では中学、高校と6年間も英語を習っても「話す」ことができません。高い英語力を持っているのに、国際会議などで発言できない、議論できない日本人をこれまでたくさん見てきました。これは英語力の問題ではなく、そもそも日本語で議論する力がないからです。まずは日本語で議論できるようになることを目標に、箕面高校のチャレンジはスタートしました。

つまり、英語のスキルよりも、ディベート能力やディスカッション能力、クリティカルシンキング(分析的思考)、ロジカルシンキング(論理的思考)などのスキルを身に付けることを目指して、改革を進めていったわけです。

世界に貢献できる子供を育てる
――グローバルに活躍できる世界が求める人材像とは。

例えば、ケンブリッジ大学の入試問題では「あなたはどういう存在として覚えられたいですか?」と問われます。また、ハーバード大学では「あなたはどうやって世界に貢献するんですか?」と問われます。グローバルな視点においては、生きている以上、いかに「貢献するか」がポイントとなるのです。

自分は何がしたいのか、何ができるのか――。その問いに答えられる子供を育てなくてはいけません。そのためには、対話を重ねることです。みんなの前で発表し続けて、どんどん自分の思っていることを出す。頭の中で考えているだけでなく、きちんと自分の意見を表に出して、周囲からフィードバックしてもらうべきです。

箕面高校では私が校長を務めた4年間で、進学説明会に海外からも多くの大学が来てくれるようになりました。海外の大学からすると、日本人の学力が高いのは分かっているので、テストの成績だけで判断することはありません。「世界を変えたい」と本気で思っていて、主体的に行動できる人間、世界に貢献したいと思っている人間が欲しいと考えています。

チャレンジさせない、失敗をつぶす社会
――世界に貢献できる人材を育てるために必要な教育と、現状の課題は。

日本人は能力が高い。これは世界が認めていることですし、実際にそうです。日本で偏差値50ならば、世界では60ぐらいはあると思ってよいでしょう。しかし、それだけの能力があるのに、みんな自信がない。何よりチャレンジしないのが問題です。チャレンジするのをみんなで寄ってたかって止めてしまっているのです。

グローバル人材を育成する学びについて講演する日野田校長

私はどこに行っても、業務命令は一つしか出しません。それは「チャレンジしましょう」です。教員や生徒がチャレンジして失敗したら校長である私の責任、成功したら教員や生徒のおかげです。生徒がけがをするなどのリスクがない限りは、何をやってもOKです。それはかつて松下幸之助氏が「ほな、やってみなはれ」と言ったことと同じことをしているだけです。かつての日本には、それだけのイノベーションを起こすだけのマインドセットがあったはずです。

今の日本では新しいことをしようとすると、「無理」「できない」と言い、とどめに「いかがなものか」と言いだす。挑戦したとしても失敗すると「何でそうなったんだ」と非難する。失敗する経験そのものに価値があるのに、それをつぶしてしまっているのです。

例えば、日本においても理系の実験ノートにおいて一番大事なのは失敗です。セオリー通りに実験していても、何の発見もありません。失敗の向こう側にこそ発明があるのです。失敗は最高の財産なのに今、日本中で失敗をつぶしている。これは教育だけでなく、社会全体の課題だと思います。

(先を生きる取材班)


【プロフィール】

日野田直彦(ひのだ・なおひこ) 1977年生まれ。帰国子女。帰国後、同志社国際中学校・高等学校に入学し、当時の日本の一般的な教育とは一線を画した教育を受ける。同志社大学卒業後、2000年に大手進学塾・馬渕教室に入社。08年には奈良学園登美ヶ丘中学校・高等学校の立ち上げに携わる。14年、大阪府の公募等校長制度を通じて大阪府立箕面高等学校の校長に着任。着任4年で、海外トップ大学への進学者を多数出すなど、顕著な進学実績を残した。18年4月より武蔵野女子学院中学校・高等学校校長。著書『なぜ「偏差値50の公立高校」が世界のトップ大学から注目されるようになったのか!?』(IBCパブリッシング)がAmazonにてベストセラー。