ナージャが旅した世界の学校(中) 日本のふつうは世界のふしぎ

日本の学校が、どの国よりも圧倒的に不思議だった――。ロシア、英国、フランス、米国、カナダ、そして日本の6カ国の教育を受けて育ったコピーライターのキリーロバ・ナージャさんは、そう語る。各国の教育で得た知見やその体験から、世界の教育と比較して見えてきた「日本が気づいていない」教育の良さについて聞いた。


ロシア、フランスでは鉛筆ではなく青いペンで書く!?
――座席の他に、国の思想が現れている違いはありますか。

文字を書くのはペンか、鉛筆かにも、違いがありました。

日本は、基本はなんでも鉛筆で書きますよね。英国と米国もそうでした。

でも、ロシア、フランスでは文字を書くのは青いペンでした。鉛筆は、絵や図を描いたりするときだけ。つまり、書いたら消せない。だから、何を書きたいか、構成をきちんと考えて書かなければいけない。そういうことをさせるために、あえてペンで書かせているのだと思います。

ロシア、フランスでは、自分のスタンスや軸をよく考えて発言します。こういったことにもつながっているのではないでしょうか。

逆に、日本と英国、米国は、鉛筆でちょっと思ったことを書いて、違ったら消して書き直せる。よりよくしていく、繰り返し思考する――ということにつながっているように思えました。

――こうした傾向は、他の面でも見られましたか。

採点方式にも現れていると感じました。

フランスには満点がほとんどありません。点数は「20分のいくつ」という点数の付け方なのですが、算数など特定の答えがある問題以外は20分の18以上、ほとんど誰も取れません。作文などもそうでした。子供も大人同様の扱いをするフランスならではで、「パーフェクトは人生でそう起こることではない」という主張が現れていると感じていました。

米国はとにかく褒めてくれます。テストもできるまで何度も取り組めるので、つまりは最終的にみんな満点が取れる。ご褒美シールなどを使って、子供のモチベーションを保つのがうまいと感じていました。

ロシアは、いい点を取ることよりも、悪い点を取らないことを目標にしている減点方式でした。評価システムは5段階しかなく、一つでも間違いがあれば5は取れません。厳しいですよね。

日本は100点まで幅がある。ロシアと違って、いい点を取ることを目標にしている加点方式だと思いました。さらに驚いたのは、解答用紙に丸がつくということ。他の国ではバツだけをつけるのが普通でした。結構、丸もつくので、日本の解答用紙はとってもポジティブだと思いますよ。

日本は子供に一番責任を持たせている国
――日本の小学校に初めて通い始めた時、日本の教育はどう映りましたか。
いろいろな国で多様な教育を受けたことが救いになったと語るナージャさん

もう、圧倒的に日本は不思議なことばかりでした。他は欧米の国だったこともあり、どこか共通する部分もあり、外国人対応にも慣れていたので、時間がたてばなじみました。でも日本では理解できないことだらけ。今でも慣れないことや分からないことがあり、奥が深いです。

例えば小学校に入ったとき、「雑巾を持ってきてください」と言われました。初めて聞くワードに、親も子も「ゾウキン?」と意味がわかりません。「雑巾」は日本では当たり前だけれど、私たちにとっては夢にも思わなかったカタチで、とってもびっくりしました。

そして、小学生が掃除することにも驚きました。他の国では子供は学校に勉強しにきているから、掃除は清掃の方がする仕事でした。「なぜ子供がやらなくちゃいけないの?」と最初は思いましたが、やってみると実に奥が深い。学校のいろいろなことに気づくし、感謝の気持ちも生まれてきました。

極め付きは、給食の配膳です。給食はどこの国にもありましたが、自分たちで配膳するのは日本だけ。小学生が、みんなに平等に同じ量を配膳している。どうやって計算して配っているのか、感動しました。アレルギーなどの問題もあるし、配膳を子供に任せているという点でも驚きがありました。

掃除も給食もしかり、日本は子供に一番責任を持たせている国だと感じました。

日本の合唱や学芸会は超ハイレベル
――他国と比較して、日本ならではだと思った教育はありますか。

とにかく、みんな同じじゃないといけないということが多かった。黄色い帽子、ランドセル、名札、スクール水着などなど。文字を書くにも、オリジナリティーを出してはいけなかった。人と違うと、周りの子も気にしていると感じました。

でも、そういったことが関係しているのか、団結力が一番あるのは日本だと思います。例えば、運動会や学芸会なんかもすごい。ロシアだと、当時、運動会はうまい人しか出ない。展覧会や劇も、うまい人しか出られない。できない人がやる意味を感じていないのです。だから結局、個人戦だし、個人主義です。

英国でもレクリエーション的なものはありましたが、日本の運動会のようにお決まりの種目があり、みんなで練習したり、チームで競ったりすることはなかったです。

うまい子も下手な子もやらなきゃいけない上に、あんなに団結して「頑張ろう!」というのは日本だけ。下手な子や苦手な子も参加しているのに、劇や合唱のクオリティーが高くて、本当にすごいと思っていました。

日本は、勉強以外のところでチームワーク力を育てているのではないでしょうか。

――日本の勉強方法については、どう感じていましたか。

日本の教育は、筋トレのようにコツコツ毎日積み上げていくイメージでした。計算はどの国よりも得意だし、ルールを覚えるのも得意。今、プログラミング教育についていろいろと議論になっていますが、日本人はベーシックなプログラミングにおいては得意分野だと思います。

こうした脳のトレーニングをしていたことを生かせる分野も、たくさんあります。でも日本はそこにフォーカスせず、世界の自由な教育に憧れを持っているのではないでしょうか。もちろんそれも大切ですが、別のベクトルがあるし、日本が得意なことを伸ばしていくのもありだと思います。

海外の教育は、発想を広げることは得意かもしれない。でも何かに集中してコツコツやることは日本に比べたらできません。

また、日本の主張しない、空気を読む能力もすごい。「こういったらどう思うかな?」という発想は、海外にはほとんどないのです。こうした能力の方が、身につけるのに時間がかかるのですから、評価すべきだと思います。

(クローズアップ取材班)

注※)ナージャさんが通っていた1990年代当時の、各国の学校と教育の話です。現在とは異なる場合もあります。


【プロフィール】キリーロバ・ナージャ ソ連(当時)レニングラード生まれ。数学者の父と物理学者の母の転勤とともに6カ国の地元校で教育を受けた。電通に入社後、さまざまな広告を企画し、世界の広告賞を総ナメ。2015年には世界のコピーライターランキング1位に。電通総研内に「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」を設立。「もっと日本の教育にクリエーティビティを吹き込みたい」と、学校との授業開発や、自治体や企業との共同プロジェクトなど、さまざまな実践を重ねている。