真のグローバルリーダーを育てる 日野田直彦氏の挑戦(中)

日野田直彦氏による大阪府立箕面高校の学校改革は、「海外トップ大学の進学者を多数出す」という結果を目指していたわけではない。大躍進とも言える結果が出る過程で、生徒に身に付けさせたかった資質・能力、教員に求めていた意識とはどのようなものだったのか。第2回は、さまざまな取り組みや働きかけを通じ、生徒や教員が自発的に動きだしたというボトムアップ型の改革手法に迫る。


日本初MITと提携した短期留学
――箕面高校では、教育関連のベンチャー企業と連携し、ボストンMITアントレプレナーシップ留学や、海外トップ大学の学生を招いての冬季キャンプを行うなど、公立高校としては例を見ない取り組みも数多く行われています。

私は、多くの学校が実施している海外ホームステイ型の短期留学に、あまり意味を感じていません。「英語を学ぶ」ことよりも、「英語で学ぶ」ことの方が大事だからです。そこで、教員らと話し合いを重ね、短期留学のアイデアを出し合いました。そして、校長就任2年目の2015年夏、教育関連のベンチャー企業タクトピアとMITアントレプレナーシップ・センターの協力を得て、「ボストンMITアントレプレナーシップ留学」が実現したのです。

この短期留学で生徒たちは、教育用の3Dプリンターを無償で配布するなど、革命的な実証実験を行っている企業のCEOや、レゴマインドストームの開発者メンバーなど、世界的な起業家たちから驚異的な話を聞き、質問を重ねました。さらに自分たち自身もプレゼンを繰り返し、何度もフィードバックしてもらう経験を重ねました。生徒たちは時には泣きながらプレゼンの内容を考え、ハードな日々の中でも充実した2週間を過ごせたと思います。チャレンジし続けることで、世界は変えていけるということを、身をもって体験できたのではないでしょうか。

また、16年1月からはハーバード大学やロンドン大学などの学生を学校に招き、3日間の「イングリッシュキャンプ」も始めました。生徒たちは海外トップ大学の学生と対等に、さまざまなテーマでディスカッションしました。もちろん、最初はうまく対話なんてできません。それでも生徒たちは諦めず、何度もチャレンジし続けました。

「ボストンMITアントレプレナーシップ留学」や「イングリッシュキャンプ」に参加した生徒たちは、決して英語が得意というわけではありませんでした。英検3級すら持っていない生徒の方が多かったくらいです。それでもパッションを持ち、必死に食らいついてくれました。

箕面高校「ボストンMITアントレプレナーシップ留学」での様子
生徒が自発的に勉強するように
――こうした経験を通して、生徒はどう変わっていったのでしょう。

「もっといいプレゼンをしたい」「もっと海外の学生としゃべりたい、議論したい」。そうした思いが芽生えたことで、生徒たちはこちらが何も言わなくても自発的に学ぶようになりました。「これがしたい」「これが学びたい」と本気で思えば、人間誰しもオーナーシップを持って行動するようになります。私はこれを目指し続けました。

また、生徒と一緒に「ボストンMITアントレプレナーシップ留学」へ行った1人の教員も、帰国後、別人のように自発的に行動するようになりました。そして、たった1人の教員が変わっただけで、職員室全体の空気も変わっていったのです。

――なぜ1人の教員の変化が、職員室全体の変化につながったのでしょうか。

学校改革ではトップダウンで命令しても、なかなか全体の文化の変革にはつながりません。そこで私は「ミニマムプロダクトから、全体への波及」を、学校改革の方法の一つとして実践しています。

日本の先生方は、資質・能力とともに人格的にも優れた方が多いと感じています。そのため、「ボストンMITアントレプレナーシップ留学」のような世界最高の教育コンテンツや経験をエキストラカリキュラムで体験することで、少しずつ職員室で輪(和)を作り、通常授業においても「良い」と感じたものを広げていってくれると信じていました。そして、実際にその流れが大きな渦になっていったのです。

私が箕面高校で校長を務めた4年間は、同様の視点でこの他にもさまざまなプロジェクトを実施・改善していきました。そして、最初は一部の生徒と教員にすぎなかった変化が、次第に全体へと波及していき、加速度的に改革が進んでいったのです。

目的と手段が逆になっている
箕面高校で作ったスキームを全国に広げたいと日野田校長は語る
――箕面高校では、英語の定期テストをやめようとしていたそうですね。

生徒が英語を嫌いになるのは、テストがあるからではないでしょうか。本来、英語の本質は実用的に運用できること(話せるようになること)だと思います。語学学習は強制化させられたトレーニングより、「話をしてみて、伝わった!」という感動こそが、学習のモチベーションに直結します。それなのに、日本では「話せるようになるため」の勉強のはずが、「テストのため」に英単語を、そして英語そのものを勉強しているのです。これは他の教科でも言えることですが、日本の学校では目的と手段が逆になっていることが多いと感じます。

日本人が英語を話せない理由は、単に経験が足りないのとボキャブラリーが足らないだけで、場数さえ踏めば話せるようになるはずです。でも日本の学校はテストという手段を目的化して、英単語の暗記などをさせてしまっている。話したい気持ちそのものが一番大事なのに、それをつぶしているのは学校なのです。

そもそも英語は実技教科です。つまり自転車や水泳、ピアノと同じです。例えば自転車が筆記試験ばかりで実践がほとんどなかったら、テストができない生徒は自転車に乗ることすら嫌になってしまいます。英語も、まずは動機付けややりたいと思う気持ちを大事にしつつ、目的(会話、筆記ともにコミュニケーションをしたい)を達成するための手段(基礎知識の充実)があるべきだと思います。

とはいえ、いきなり定期テストを廃止することには教員の抵抗も大きかったため、まずはオンライン英会話レアジョブの協力の下、マンツーマンのSkypeレッスンで15分間のフリートークを取り入れました。もちろん、最初はほとんどの生徒がうまく話せませんでしたが、次第に「外国人講師と会話をしたい」という思いが芽生え、必死に英単語を勉強し始めたのです。

こうした取り組みを進めた結果として、生徒の成績は上がっていきました。TOEFLで100点を取るような生徒も出てきましたが、これはハーバード大学にチャレンジできるレベルです。

“Yes And……”を大切に
――教員の意識改革に悩む管理職も多くいます。まず、どのようなことから取り組まれたのでしょうか。

私は年齢も若く、民間人校長として着任したので、最初はネガティブな反応も多くありました。職員室の空気も悪かったので、着任してからの3カ月間は、とにかく教員から「困っていること」「やりたいこと」を徹底的にヒアリングしました。会議の場では誰も本音を言わないので、時間をかけて一人一人の教員から直接聞くようにしました。

いきなりこちらが方針を示すのではなく、教員の「困っていること」「やりたいこと」を吸い上げた上で、私自身がやりたいこととの接点を見いだし、教員自身がプロジェクトの主体となる形で改革を進めていきました。また、一気に変えるのではなく、段階を踏んで、少しずつ変えていくようにしました。

そしてもう一つ、大切にしていたのが“Yes And……”です。どんな意見・提言に対しても、「いいね」「もっとこうしたらいいんじゃない?」という言い方に変えましょう、否定的な言い方はやめましょうと言い続けました。

この“Yes And……”を1年目、2年目、3年目と言い続ける中で、頭ごなしに否定する雰囲気が職員室からなくなり、次第に「あれをしたい」「これをしたい」と、教員が自らやりたいことを発信するようになっていきました。逆にやりたいことが多すぎて、止めるのが大変だったくらいです。

(先を生きる取材班)


【プロフィール】

日野田直彦(ひのだ・なおひこ) 1977年生まれ。帰国子女。帰国後、同志社国際中学校・高等学校に入学し、当時の日本の一般的な教育とは一線を画した教育を受ける。同志社大学卒業後、2000年に大手進学塾・馬渕教室に入社。08年には奈良学園登美ヶ丘中学校・高等学校の立ち上げに携わる。14年、大阪府の公募等校長制度を通じて大阪府立箕面高等学校の校長に着任。着任4年で、海外トップ大学への進学者を多数出すなど、顕著な進学実績を残した。18年4月より武蔵野女子学院中学校・高等学校校長。著書『なぜ「偏差値50の公立高校」が世界のトップ大学から注目されるようになったのか!?』(IBCパブリッシング)がAmazonにてベストセラー。