真のグローバルリーダーを育てる 日野田直彦氏の挑戦(下)

 管理職になりたがらない教員が多い中、大阪府の校長民間公募を通じて36歳で校長となった日野田直彦氏。大阪府立箕面高校で数々の実績を残した後、その手腕を買われ、2018年度からは私学の武蔵野女子学院中学校・高等学校で校長を務めている。最終回は、今後の学校教育を担っていく若手教員に必要なスキル、グローバルな未来を見据えて取り組んでいることについて聞いた。


当たり前をやめれば、働き方改革もできる
――2014年当時、最年少の36歳で民間人校長に挑戦された理由を聞かせてください。

日本では現在、50歳以上の教員の数が圧倒的に多くなっています。そのため、今後10年以内には30代、40代の教員が、管理職を担う時代が来るでしょう。私は若手がどんどん管理職をやればいいと思っていますし、やるべきだと思ってきました。

公立学校における本務教員の年齢構成(文科省「平成28年度学校教員統計調査」)

しかし、現実に30代で校長になる人は、ほとんどいません。「校長をやってみたらどうだ?」という周囲からの提案もあり、ならばまずは自分自身が、塾での管理職経験や私立高校の立ち上げに携わった経験も生かしてチャレンジしてみようと、手を挙げた次第です。

――管理職になりたがらない教員が多い現状を変えていくには、どうすればよいでしょうか。

管理職になりたくない理由は何なのか。「大変そう」「楽しくなさそう」といったところだと思います。一方で、管理職がどんな職務・役割をしているのか、管理職になるとどんなことができるのか、知らない人も多いと思います。最低限の法律を学べば、校長の職務や裁量範囲も分かり、学校を改革することもできます。法律やマネジメントを学べば、管理職の仕事の面白さも分かってくると思います。

例えば、学校に義務付けられた教育活動は、学習指導要領と学校教育法施行規則に規定された内容だけです。それ以外は、やらなくても構いません。中高の定期テストですら、実施を義務付けられているものではないのです。私は箕面高校時代、1コマ45分だった授業時間を50分にし、授業のコマ数を15%削減しました。それまで当たり前に行われてきた補習や補講などのテスト対策も、全て廃止しました。定期テストにはマークシートを導入して効率化を図るとともに、成績のデータベース化も図りました。

――定期テストにマークシートを導入した結果、どのような変化がありましたか。

マークシートに関しては、導入提案をした当初は大きな反対もありました。しかし、ほかの改革同様、「したい先生からやってみる」から始め、少しずつ実証を繰り返しました。すると、採点効率が上がり、先生方が生き生きし始め、そして生徒の成績も上がり始めました。記述に関しては、定期テストに少しだけ出題し、それ以外は日々の授業中の小テストで実施するなど、具体的に改善を進めることで、4年目には多くの先生方がマークシートを利用するようになっていったのです。

私もそうでしたが、教員にとって採点業務は本当に大変ですよね。マークシートを導入したことで、採点業務に費やす時間よりも、生徒と向き合う時間を増やすことができ、学校全体の雰囲気も良くなっていったのです。そして、結果として生徒の成績は上がり、教員の働き方改革にもつながりました。

今まで当たり前にやってきたことをやめることで、新しいプロジェクトに取り組める余裕も生まれたのです。

良い先生が校長をやればうまくいく時代ではない
――校長に必要なスキルをどう考えますか。

校長がやるべきことは、人の話を聞くこととリスクヘッジだけです。リスク管理能力を身に付けるには、教務、生徒指導、進路指導など、多岐にわたる業務に、自分から志願して積極的に挑戦することが大事だと思います。そうすれば学校全体の流れが分かります。三つの業務のうち、どれか一つでも部長(主任)などを経験すれば、学校経営全体の見え方も変わってきます。

今は、「良い先生」が校長をやればうまくいく時代ではありません。学校に関わるお金の回し方や教育法規など、一般的にどの職種でも必要とされる「マネジメント」について勉強する必要があります。また、それを知れば、より良い授業もできるようになります。「より良い教育を提供したい」という方は、「現場で一生終える」と言わず、ぜひ校長にチャレンジしてみてください。「やりたくない」と思っている人が校長になると、人にやさしい校長になれます。

――若手教員が学校や組織を変えていきたい場合は、どのようにすればよいでしょうか。

自分がしたいことをアピールするのではなく、まずは周りの教員が何をしたいのかを聞き、それに対して「こうしたらどうでしょう?」と提案していくとよいと思います。そしてそこに自分のしたいことを少しだけ混ぜ込んでみる。小さいチームを作るところから始め、その中心になってオピニオンを形成していけばよいのではないでしょうか。これは古くから日本の教育界では言われてきたことでもあります。ぜひ、大村はま先生や岸本裕史先生の本を読んでみてください。

何より大切なのは日常会話です。学校には、コミュニケーションが苦手で雑談ができない教員も少なくありません。とにかく職員室で、お互いが困っていることを語り合うことから始めるべきだと思います。

子供に自由な選択肢を与えられる教育を
――これからの未来を見据えた上で、教育がしなければいけないこととは。

今の高校生が50歳になる2050年頃、世界がどうなっているかご存じでしょうか。

例えば、その頃にはナイジェリアの人口が4億人を突破すると予測されています。ヨーロッパの全人口を足してもナイジェリア一国に及ばない日が来るんです。GDPにおいては、日本とナイジェリアがほぼ同じになります。ちなみに、2035年にはインドネシアが日本のGDPに追いつくことを知っていますか?

今、日本では英語4技能を高める取り組みが進められています。しかし、世界の将来推計人口やGDP予測では、ブラジルやメキシコが上位を占める見通しなので、本当はスペイン語を勉強した方がよいのかもしれません。また、インドネシアのGDPが世界4位になる予測なので、就職や進学を考えるなら、日本や欧米よりもインドネシアの方がよいのかもしれません。

教育はこうした未来を想定した上で、考えていく必要があります。教壇に立つ人間が、激動の変化の中にあって、まさか20年前の授業ノートのままの授業をしている、ということはあってはならないことです。今述べたような未来が現実となったとき、子供が自由に進路を選択できるような教育こそが必要なのです。今の社会が、そうした教育をできているでしょうか。

より良い授業をすることが第一義である教員は、その原点に立ち返り、「今までどおり」に固執するのではなく、今やっている仕事の整理を行うべきです。時間を捻出するために、思い切って“決められた仕事のコアな部分だけに絞ってみる”ということに挑戦してみませんか?さまざまな学校行事や定期テスト、修学旅行、部活動……、すべて「マスト」ではありません。小さく変革を起こしていくことが大事かもしれません。

小さなチームでトライアンドエラーを繰り返す
――今、日野田先生が武蔵野女子学院中学校・高等学校で取り組んでいることを教えてください。
2014年、最年少の36歳で民間人校長となった日野田直彦氏

近い将来、大学受験がCBT(Computer Based Testing)に切り替わっていきます。そのことを想定して、高校教育も変えていく必要性があります。

あと10年もたたないうちに、国語も4技能に分かれるでしょう。英語と国語は、教育課程上、「言語」という枠組みに変わる方向で議論が進んでいます。そこで本校では、英語と国語の教員による合同プロジェクトチームを編成して、検討を始めています。具体的に、精読の授業を半分まで減らしてネゴシエーションやプレゼンテーションを取り入れ、海外では必ず習得する「アカデミックスキル」「クリティカルシンキング」「ロジカルシンキング」などが身に付くようにする方向で動いているところです。

また、土曜授業は3、4時間目を正規の教育課程から外し、本校の教員と外部の民間企業による協働開発授業にしていく予定です。昨今の教員は忙しく、スキルを高めたくても研修に行く時間がありません。それならば、民間企業に学校へ来てもらい、生徒・教員と民間企業でコラボした授業を開発する過程から学んでいけばよいと考えています。

また、これは箕面高校時代から実行していたことですが、これからの時代、学校経営は生徒と共に進めていくのがよいと思っています。3年後には、職員会議に生徒を参加させる計画も進めています。

――変化の激しい時代において、学校や組織を改革する上で大切なことは何でしょうか。

スタンフォード大学には、「1時間で一つの答えを出すよりも、30秒で答えを出して1時間で120回フィードバックをもらったほうがいい」という教えがあります。

大切なのは、ミニマムプロトタイプをつくり、フィードバックを繰り返すことです。スティーブ・ジョブスは「海軍ではなく、海賊になろう」と言っています。今のような変化が激しく、予測できない時代では、大きな海軍を作っても変化に対応できず、すぐに沈んでしまいます。それよりもいろいろな人を集めて小さなチーム(海賊船)を作り、プロジェクトが終わったら解散する。こうしてトライアンドエラーを繰り返しながら、どんどんチャレンジしていくことが大切だと思います。

そして最後に、スタンフォード大学やMITの言葉に「幼稚園児のように学びなさい」という言葉があります。教育の原点はまさにここにあると思います。教員も生徒も「無理」と思わずに、幼稚園児の時を思い出し、「取りあえずやってみる」「もう1回、と繰り返す」「悔しかったら泣く」くらいの勢いで、チャレンジを繰り返す。これは箕面高校で実践してきたことです。

繰り返しますが、日本の先生方は極めて能力が高いのです。ただ、チャレンジをする雰囲気や失敗を受容する雰囲気が少ないと思います。明日からでも構いません。少しずつ周囲を巻き込みながら、失敗を笑いながら繰り返し、新しい時代に向けて子供たちが「大人が失敗しているんだから、私たちも失敗しよう」と思える学校をつくっていきましょう。

(先を生きる取材班)


【プロフィール】

日野田直彦(ひのだ・なおひこ) 1977年生まれ。帰国子女。帰国後、同志社国際中学校・高等学校に入学し、当時の日本の一般的な教育とは一線を画した教育を受ける。同志社大学卒業後、2000年に大手進学塾・馬渕教室に入社。08年には奈良学園登美ヶ丘中学校・高等学校の立ち上げに携わる。14年、大阪府の公募等校長制度を通じて大阪府立箕面高等学校の校長に着任。着任4年で、海外トップ大学への進学者を多数出すなど、顕著な進学実績を残した。18年4月より武蔵野女子学院中学校・高等学校校長。著書『なぜ「偏差値50の公立高校」が世界のトップ大学から注目されるようになったのか!?』(IBCパブリッシング)がAmazonにてベストセラー。