対談 給特法と教師の仕事 現職教師からの問題提起(上)

学校の働き方改革において、給特法の在り方が問われた2018年、2人の現職教師が立ち上がった。中部地方の公立高校教師で、給特法の見直しを求めて署名活動を展開した斉藤ひでみ氏(仮名)と、埼玉県の公立小学校教師で、時間外労働の残業代の支払いを県に求め、裁判を起こした田中まさお氏(仮名)。戦う2人の現職教師が学校の現状を語り合う(全3回)。第1回では、学校が働きにくくなった要因を探る。


誰と戦っているのか
――田中先生は先日、初公判が終わったばかりですが、今の心境は。

田中 先日、裁判所に初めて行き、意見陳述をしてきました。テレビで見たことがあるように、目の前に裁判官、隣に弁護士、対面には県の代理人がいます。ふと、私は誰に対して訴えているのかと思いました。埼玉県の教育長なのか。でも、公立学校の教員の給与は国が3分の1を負担している。そもそも給特法の責任者とは誰なのか。そう考えると、教育長だけでなく、文科大臣も訴えなければいけないのかもしれないな、と。

斉藤 その指摘は、まさに「今の教員の過酷な労働環境の責任は誰にあるのか」ということだと思います。民間企業ならば上司や社長が責任を負いますが、学校の場合、管理職がその責任を負うことはありません。国のガイドラインで時間外労働の上限が「月45時間」と定められたとはいえ、それを超える労働が発生したとき、誰が責任を負うのか。時間外勤務の量は校長のマネジメント次第でかなり改善されると思うのですが、結局、現場の教員一人一人の責任に帰せられてしまうのではないでしょうか。

給特法見直しの署名活動を展開した斉藤ひでみ氏

田中 国の働き方改革でどのような議論がなされているかについて、私は斉藤先生ほど詳しくはありません。ただ、この問題をとてもシンプルに捉えています。私の感覚として、「なぜ、教員にだけ残業代が出ないのだろうか」と。そもそも一般の労働者と公務員はほぼ同じであるのに、私たち教員だけ、労働時間の法律的な定義が違うことに違和感があります。これは、教員に対する職業差別です。

斉藤 その原因が給特法です。給特法が制定された当時と現在とでは、現場の状況は圧倒的に違っています。結果として、田中先生が言うように、教員を差別する法律になってしまっている。

ターニングポイントは2000年

田中 教員を38年間もやっていると、歴史的な背景も含めて、問題の構造が見えてきます。意見陳述書にも書いたのですが、確かに昔の教員の働き方には特殊性があったと思います。私が教員になったのは1981年ですが、その当時、夏休み中は自宅研修が認められており、学校に出勤しなくても大丈夫でした。早めに退校して図書館で授業準備をすることも許された時代でした。学校長が教員に、勤務時間外に及ぶ仕事を要求することは、ほとんどありませんでした。

――いつ頃から、そうした働き方がしにくくなったのでしょうか。

田中 私が調べた限りでは、2000年ごろから徐々に変わったと思います。学校の重要方針は、かつては職員会議でみんなで話し合いながら決めていました。ところが、2000年の学校教育法施行規則の改正で校長の権限が強調され、職員会議は諮問機関のような位置付けになりました。その結果、職員会議は次第に形骸化し、管理職が決めたことを追認するだけのようになってしまって、教員が自由に議論したり、意見を言ったりしにくくなってしまったのです。

斉藤 私の勤務校の職員会議では、一応、先生方が意見を出し合って、校長がそれを見届けるという体裁を取っています。ただ、どの先生も「意見は言えるが、最終的には校長が決める」という認識です。例えば、校務分掌や部活動顧問の割り振りは、主任が案を作って、校長が了承するという「儀式」を職員会議でやるわけです。こうした実態を見ても、部活動などの業務を私たちがやりたくてやっているのではなく、いや応なくやらされることが分かります。これが「命令」ではなく、「自主的な業務」だとされるのは納得がいきません。

田中 かつての小学校では、例えば、キャラクターが描かれた鉛筆を校則で禁止するかどうか、教員同士で話し合っていました。「鉛筆に絵が描かれていたら遊んでしまう」「それは鉛筆が悪いのではなくて、使い方が悪いだけだ」などと議論を重ねた上で、最終的には「担任の判断に任せる」となっていました。今では同じような問題でも担任が判断することはありません。校長が全て一律に決めてしまいます。

働き方改革は現場に届いていない
残業代の支払いを求め、県を訴えた田中まさお氏

田中 裁判を起こすと決めたとき、勤務校でも勤務時間に関することは言った方がいいと思いました。そこで、今年度最初の職員会議で「朝の登校指導をやめてほしい」と提案したのです。本来は午前8時半からが正規の勤務時間なのに、7時半に学校へ来て、持ち場の交差点まで10分かけて歩いて旗を振る。どう考えても教師の本来の業務ではありません。

――ちょうどその頃、文科省から働き方改革の緊急対策が出ていましたよね。登校指導は「学校以外が担うべき業務」だと思うのですが。

斉藤 学校現場は、文科省からそんな通知が出たことを知りません。私も職員会議で通知の話をしたら、教務主任も含めて誰一人知りませんでした。中教審で働き方改革が議論されていることすら知らない教員もいるのではないでしょうか。

田中 そうなのです。学校は緊急対策を受けて業務の見直しなんてしていません。登校指導の話も、校長から「今まで通りでお願いします」と簡単にあしらわれました。学校は前例踏襲が原則で、校長としてもこれまでやってきたことを変えるわけにはいかないのです。そこで、私も「登校指導のある日は1時間早く帰らせてほしい」と譲歩して提案しましたが、結局駄目でした。

斉藤 勤務時間の振り替えですね。

田中 実は、以前に勤務していた学校で「調整カード」というものを作って、早く出勤したり、遅く退勤したりした分の超過勤務の時間を、別の日に調整できるようにしたことがあったのです。「調整カード」を提出すれば、その分だけ早く帰れる仕組みを作ったわけですが、いつの間にか廃止されてしまいました。高校ではどうでしょうか。

斉藤 勤務時間の調整は基本的には認められません。ただ、私の学校には校舎の鍵を開ける当番があって、その日はいつもより1時間早く出勤しなければいけません。それを私が交渉して、別の日に1時間早く帰ってよいことにはなっています。

田中 それで他の先生は帰っていますか。

斉藤 私は帰っていますが、他の先生はどうか分かりません。

田中 斉藤先生は勇気がありますね。早く帰れる仕組みがあったとしても、小学校の先生は誰も帰りません。帰りづらいのです。

斉藤 でも交渉の仕方によっては、勤務の振り替えが認められることがあるかもしれません。声を上げなかったら、結局、全て教員の「自主的な業務」と判断されてしまう。現場にいると、そう痛感させられます。

田中 確かにその通りです。声を上げればいい。でも、声を上げられない人は我慢するしかない。そんな世の中はおかしいですよ。

(司会 藤井孝良)