アクティブラーニングの新章(上) 協働の力は育っているか

新学習指導要領の全面実施が迫る中、学校現場ではアクティブラーニング(AL)への対応が喫緊の課題となっている。ALによって日本の学校教育は何を目指そうとしているのか、AL研究の第一人者である溝上慎一・桐蔭学園理事長代理/トランジションセンター所長・教授に聞いた。全3回。第1回では、日本の学校におけるALの現状と課題に迫る。


教師の説明をしっかり聞かせる
――全国各地の学校とALによる授業研究に取り組まれていますが、ALが成功するための鍵は何でしょうか。

ALができていない授業の共通点は一つ、「児童生徒に指示が通っていない」という、それだけです。

この写真は、私が関わっている山形県立庄内総合高校の、最初の頃の授業風景です。これから実施するALについて、教師がプリントを使って生徒に説明しています。でも、よく見ると教師の説明を聞いていない生徒も多く、中には私語をしている者もいます。そんな状態でワークをやらせても、作業は形だけになり、質の高い学びにはなりません。このとき、なぜ「前を向け」と言えないのでしょうか。それは、教師と生徒の関係性ができていないからです。

これならば講義形式の方がまだましです。生徒たちは普段、講義形式の授業では前を向いて教師の話をちゃんと聞き、寝ずにノートも取っているからです。そんな光景を3、4回見せられたら、「やっぱりALは無理なのかな」と思ってしまいます。

だからといって、講義形式の授業で生徒の成績が上がったり、深く考える力が付いたりするわけではありません。黒板に書いてある文字をただ写しているだけ。当然、成績は伸びません。

こうして染み付いた学習スタンスは卒業後もなかなか変わりません。大学で多くの学生と接してきた私は「どうしてこうなんだろう」とずっと悩んできましたが、その源泉がここにあるわけです。

「外化」の経験を高校生までに
導入当初のALの授業風景(溝上教授提供)
――大学へ行っても変わらないならば、いつまでにしかるべき学習スタンスを身に付けさせるべきなのでしょう。

ALでは「書く」「話す」「発表する」など、「外に出す」活動がよく行われます。この「外化」は自分の頭の中で考えたことや理解していることを外に出すことです。生徒の能力や話すときの意欲、自分で新しいものを生みだそうという姿勢は、講義形式の授業では分かりませんが、「外化」させればすぐに分かります。

こうした力を大学4年間で身に付けるのは遅すぎます。「外化」が苦手な学生は、意欲や姿勢を育てるプログラムがあっても参加しないからです。だからこそ、高校生までの間に発表や議論などを適度にやらせて、身に付けさせる必要があります。

桐蔭学園では幼稚園や小学校の段階から、こうした力が養われるようにしています。発表するときは、みんなの方を向いて大きな声で発表する。一方、聞き手は前を向いて聞く。これを「傾聴力の姿勢」と呼び、徹底させています。庄内総合高校も「傾聴力の姿勢」を徹底したところ、1年ほどで授業が大きく変わりました。

ALで成功している授業の共通点があるとすれば、それは、教師がちゃんと作業の指示を伝え、生徒がそれに従って意欲的に取り組んでいるという点です。口で言うほど簡単ではありません。

協働する力は育っているか
桐蔭学園理事長代理/トランジションセンター所長・教授
――ALは小学校で盛んで、中学、高校と上がるにつれて行われなくなると言われます。

世間一般の理解はそうなのかもしれませんが、内実はそんなに単純ではありません。例えば、「資質・能力」という言葉は現行の学習指導要領から入ってきましたが、「言語活動の充実」と比べると、小学校の受け止めは大きくありませんでした。当時の「資質・能力」はPISAのような思考力を問う問題に対し、現在のALなどを通じて自ら考え記述していくことができる力といったイメージです。

しかし、高大接続改革で「資質・能力」としてより注目されているのは、コミュニケーションや対人関係の力です。新学習指導要領でうたわれている「資質・能力」にはこうした要素が加わっているのです。

背景には、2030年ごろの高度で複雑化した社会への対応があります。そうした社会では、個と協働の両方の力が必要です。1人で仕事をする場面もあるけれど、多くの場面では他人とチームを組んで、同じ課題に取り組んでいかなければならない。そうした社会にあって、協働できない人は仕事がなくなります。超売り手市場で人手不足と言われる中でも就職できない学生が一定数いるのは、こうしたコミュニケーションや対人関係の力が弱いからです。この協働の力がALと決定的につながっています。

溝上教授は小学校でも協働する力が育っていないと指摘する
――小学校におけるALを、どのように見ていますか。

小学校ではALをやってきたと言うけれど、そうした視点から見ると、協働する力を育てるALにはなっていません。

そのことを象徴する場面が二つあります。一つは、教師が発問して、子供たちに手を挙げさせていく「練り上げ式」の授業です。教師が一方的に教えるのではなく、問いを発しながら子供たちに答えさせていく教授法で、授業が終わると板書がびっしりと文字で埋まっています。授業が子供の発言だけで作られていくかのような、日本が世界に誇る教授法です。

ところが、こうした授業で手を挙げて発言する子供は限られています。つまり、一部の子供の思考だけで授業が成り立っているわけです。手を挙げない子供が授業にどれだけついていっているのかは、非常に怪しい。

もう一つはグループワークです。従来型のグループワークでは、誰か1人でも課題を理解していれば、グループとしての解答を発表することができます。そのため、グループの中で発言しない子供がいても活動は成り立つので、教師はあまり発言を促しません。結局、話し合いは理解している子供たちがリードする形で進み、グループでの発表者もその子が務めます。一方で、残りの多くの子供たちは「聞く」という形では参加しているものの、発言もしなければ、人の話を聞いて自分の考えを返すこともしない。こうしたALでは、高校・大学で必要とされる思考力、判断力、表現力が養われているとは言えません。

(藤井孝良)


【プロフィール】

溝上慎一(みぞかみ・しんいち) 桐蔭学園理事長代理、同学園トランジションセンター所長・教授。1970年、大阪府生まれ。96年に京都大学高等教育教授システム開発センター助手、2000年に同講師。同高等教育研究開発推進センター講師、准教授、教授を経て、2018年より現職。心理学における自己・アイデンティティー形成、分権的自己観、現代青年期論、教育学における学びと成長、学校から仕事・社会へのトランジション、アクティブラーニング、キャリア形成を専門とし、全国各地の教育機関と連携し、ALをはじめとする実践研究に携わる。著書に『自己形成の心理学』(世界思想社)、『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』(東信堂)、『高大接続の本質』(責任編集、学事出版)など。趣味は鉄道の写真撮影。