対談 給特法と教師の仕事 現職教師からの問題提起(中)

中部地方の公立高校教師で、給特法の見直しを求めて署名活動を展開した斉藤ひでみ氏(仮名)と埼玉県の公立小学校教師で、時間外労働の残業代の支払いを県に求め、裁判を起こした田中まさお氏(仮名)による、学校の働き方改革を巡る対談。第2回では、給特法に対して異なるスタンスを取る両氏の議論から学校の働き方改革の法的問題を掘り下げる。


問題は給特法ではない
――学校現場では、国の働き方改革の方針がほとんど伝わっていない状況があるようです。

田中 2018年2月9日に、文科事務次官名で出された「学校における働き方改革に関する緊急対策の策定並びに学校における業務改善及び勤務時間管理等に係る取組の徹底について」の通知が、1年たつ今になっても現場に来ません。話題にもなりません。ですから浸透するわけがありません。私は権力反対ですが、もし校長として労働時間の上限を守らせなければならないとするならば、校長としてリーダーシップを発揮します。

斉藤 もしも持ち帰って仕事をする先生が出たら、どうするのですか。

田中 隠れて仕事をするのは自由ですが、表向きは全部なくします。

斉藤 どういうことでしょうか。

田中 いくら現状の仕事を仕分けしたところで、例えば給食担当の先生は子供が手を洗ったかどうか、マスクを付けたかどうか、確認表でチェックしないと気が済まない。掃除担当の先生は、20分間の清掃は大切だと主張して譲らない。残したい仕事を個別に聞いていたら、ほとんどの仕事が残ってしまいます。

斉藤 確かに、どこかで線を引かないと前に進まないですね。

田中 今までは、残業代を支給しない方法で仕事の精選をしてきました。しかし、仕事は減るどころか逆に増えてしまいました。仕事を賃金と関係付けることは欠かせないのです。まず、残業代を支給して仕事を明確にすること。その上で残業代を限りなくゼロにすること。残業代支給に伴って、より仕事が精選されるようになるので効果があります。

斉藤 それは、給特法を廃止するということですよね。

給特法の条文(一部抜粋)

田中 違います。給特法は教員の自主的な業務に対して残業代を出さないとしている法律にすぎません。例えば、普通に教科書で授業してくれればいいと管理職は思っているのに、ある教員は「もっとすごい授業をしよう」と思って、家に帰っても教材研究を熱心にする。それに対してその教員が「残業代を支払ってください」と言い出したらどう思いますか。

斉藤 それはあくまで「自主的な業務」ですよね。残業代は出せません。

田中 給特法が言っているのはそういうことなのです。教員が必要以上にやる仕事に対して残業代は出さないというのが給特法本来の趣旨です。それに付け加えて、校長は時間外勤務を命じないと言っているのです。

しかし、給特法の成立から数十年がたち、学校経営に校長のリーダーシップが要求されるようになるにつれて、校長が命じる仕事が増えてしまったのです。

事実上、業務が命令されている

田中 今回の働き方改革では、残業代は出さないけれど、今まで「自主的」とされてきた業務も勤務時間に含めています。過労死などが公務災害として認められるという点で、これは大きな前進だと思います。

斉藤 ただ、いわゆる超勤4項目を含め、給特法の枠組みは変わりません。大きな前進というのは同感ですが、法的には結局「自主的」のままです。抜本的な改善のためには、さらに訴えを続けていかなくてはと思います。

田中 教員の時間外勤務は原則自主的とされてきた。しかしそれでは実態と矛盾が生じます。今まで仕事として認めなかった「自主的な業務」を正式に仕事として認めざるを得ない世の中になってしまったのです。

でも残業代は出せない。そこで、残業代の対象にならない超勤4項目の枠の中に、今まで「自主的な業務」とされてきた仕事を入れたのです。非常に巧妙な理論に基づいて押し込みました。これは、教職調整手当を出しているのだから時間外勤務があっても仕方がないということにつながっていくのです。

2月22日に開かれる第2回目の裁判ではっきりさせたいと思っているのですが、埼玉県教委の答弁書によれば、「仮に教員の勤務が正規の勤務時間外に及んだとしても『教職調整額』が支給されている。よって、無賃労働ではない」としています。

今までは、自主的勤務だから残業代は支給しない、時間外勤務は命じていないという理論が前面に立っていましたが、これからは、教職調整額が支給されているので、時間外勤務も存在するという理論に変わっていきそうです。

そもそも残業代を出さない方法で解決しようとするから矛盾が出るのです。働いたら賃金を払うのは当たり前。働いた分の賃金を払わない方法を探ることに無理があるのです。

斉藤 教員の労働環境をいかに改善すべきかと考えたら、私はもう、給特法は廃止がベストだと思っています。完全に労働基準法に基づく潔さを持たないと、結局都合よく扱われてしまうだけです。

そもそも、やらざるを得ない残業が山のようにある中で、「命令ではない残業」って何だと。残業は本来命じられてやるものでしょう。そんな、何が何だか分からない状態で、公務災害に関わるような事故が起きたらどうするのでしょうか。誰の責任になるのかと考えたら、怖くて仕方ありません。

給特法を廃止して、やらざるを得ない業務については残業代を払う。純粋な自己研さんや、熱心な教材研究については、完全に私的な時間の扱いでも構いません。それは、労基法の下でも十分対応可能な働き方です。そもそも私立学校や国立学校はそれでやってきたのですから。

田中 給特法を廃止しないと残業代は出せないという論理は間違っていると思います。給特法の第1条は、教員の仕事には「特殊性」があると言っています。例えば、午前8時に教室に来て、子供たちにあいさつするというのは、その教員がやりたくてやっている「自主的な業務」です。

給特法はそうしたものに対して残業代を出さない代わりに、教職調整額として月給の4%を上乗せすることを定めた法律です。ところが、現在の学校現場は、給特法の趣旨を考慮せず、校長に権限を与えて、膨大に仕事量を増やしてしまっている。それが問題なのです。

――もし午前8時に教室に行き、子供たちにあいさつすることを全てのクラスでやることになったとしたら、どうなりますか。

田中 校長が決めて、教師が自主的にやっていた朝の仕事を強制すれば、それは「正規の業務」であり、それに対する賃金が発生すると思います。しかし、そのことは給特法とは関係がありません。給特法はあくまで「自主的な業務」には残業代を出さないと決めている法律ですから。

斉藤 それは結局、「その命令は給特法に違反している」ということにならないですか。

田中 そうです。学校の現状が給特法違反だと訴えています。

斉藤 給特法そのものが問題なのではなく、校長が実質的に業務命令をしていること自体が給特法違反だということですね。つまり、運用がおかしいのであって、給特法を変える必要はないと。

問題の本質は労働基準法
「問題は給特法なのか」徹底討論する斉藤氏(左)と田中氏

田中 文科省は校長の権限を強くして、「組織の一員」として行動することを教員に求めています。それが勤務時間内で収まるなら構いませんが、勤務時間外にまで及んでいるのですから、労働基準法に基づいて、割増賃金が支払われるべきです。

給特法は「命令をしていない業務には残業代は払わない」と定めていますが、現実には命令しているに等しい実態がある。だから、給特法違反というより、本質的には労働基準法違反です。

斉藤 ただ、過去の判例をみると、学校に残っていたのはあくまで「自主的な行為」であり、管理職は残業を命じていないとされてしまう。タイムカードの記録が勤務時間として認められるようになれば変わってくるのでしょうが、給特法によって「残業は命じられていない」としか司法が判断してくれないのであれば、限界を感じます。

田中先生の裁判で、ブレークスルーが起こるかもしれませんが。

田中 裁判では、この教員の特殊性に絞って、本当に残業を業務として命じていないのかどうかを検証していきます。教員が時間外勤務でやっている仕事の全てに対して、校長が「命じていない業務だ」と反論するのは、今の世の中では通用しないと思います。

斉藤 そうです。そんな理屈は一般企業では通用しない。

田中 労働基準法に基づいて給特法ができています。給特法は「教員の全ての業務に対して残業代を出さない」と言っているわけではないというのが私の解釈です。現状の給特法でも、残業代は支払われる余地があります。その余地とは何か。それこそが、業務が命じられているか否かです。

職員会議が諮問機関になり、教員に業務を拒否する権限はない。たとえ明確な命令がなくても学校の方針に基づく業務に対しては、労働基準法に基づいて残業代が出るはずです。

(司会 藤井孝良)