アクティブラーニングの新章(中) トランジションの証明

新学習指導要領の完全実施に向け、全国各地の学校がアクティブラーニング(AL)の実践に取り組んでいる。ALがなぜ学校教育に必要なのか。その理由は学校から社会へのトランジションにあった。AL研究の第一人者である溝上慎一・桐蔭学園理事長代理/トランジションセンター所長・教授に聞く第2回。


高校段階で階層が固定化する
――ALは、2030年の社会に対応するために必要な「協働する力」を育むために、必要なものなのでしょうか。

「学力の3要素」として①基礎的な知識・技能②思考力・判断力・表現力③主体的に学習に取り組む態度――があります。このうち、現在の大学入試で測れるのは①と②の一部で、③は現状の入試では測れません。しかし、仕事をする上では①や②だけでなく、③も求められます。

この写真は私の前任校・京都大学での授業風景です。外国人の学生も交じって3人でワークをするのですが、外国人学生だけで進めて、そこに入れてもらえない日本の学生の姿をこれまで何度も見てきました。

外国人学生と日本人学生で議論しようとするが…(溝上教授提供)

私が日本人学生に何か話すよう促せば、一応は何かしゃべります。外国人学生にも、「日本人学生から考えを聞き出すように」と働き掛けるのですが、18、19歳の日本人学生の考えは彼らにとって物足りないようで、また2人で話し始めてしまう。そしていつの間にか、日本人学生は授業に来なくなる。

京大ですら、そういう学生が2~4割ほどいます。AL的な授業は「面倒くさい」と考えて逃げてしまうわけです。

学生の協働する力が低いという状況は、偏差値や学力に関係なく、日本のどの大学でも起こっています。彼らが卒業して、どこかに就職して仕事をするようになったら、その人の持っているさまざまな能力が問われるようになります。そうした状況で、本気を出さなかったり面倒くさがったりするのは、協働する力の低さに起因するのです。大学の学びの場面で、すでにそうした弱点が表出しているのです。

私は河合塾と共同で高校生を約10年間追跡調査する「学校と社会をつなぐ調査」に取り組んでいます。現在、対象者が大学3年生になった時点までの分析が終わっています。高校2年生を起点として、「他者理解力」や「計画実行力」などの資質・能力が、どう変化していくかを統計的な手法で分析したものです。

その結果を見ると、どの変数も高校2年生以降は平行線をたどっています。つまり、「他者理解力」や「計画実行力」などの資質・能力は、高校2年生の時点で高い人たちは高いまま、中程度の人たちは中程度のまま、低い人たちは低いまま、逆転することはなく固定されているのです。

高校入学前ぐらいまでが、こうした資質・能力を育てる一つの臨界点であると、学校関係者は思った方がよいかもしれません。

社会で成功する能力と学校での学び
――かなり衝撃的な結果です。他の指標も同じ傾向なのですね。

そうです。こうした状況は以前からあって、資質・能力という言葉は唐突に出てきたものでもなければ、社会の変化に対応しなければいけないというだけの話でもないのです。

もう一つのデータは電通と共に実施した補完調査で、25~29歳の社会人を対象としています。初期キャリアを終えて、いわゆる中間管理職になる手前の年代です。

学校と社会のトランジションの課題を指摘する溝上教授

大学教育の成果は20年か30年しないと分からないとよく言われます。しかしそれは正確ではありません。一つ一つのステップ(間接効果)を成功させてきた人が、20年後、30年後に成果を出しているのです。そうした知見を踏まえ、25~29歳における成功の積み重ねと本人の能力との相関関係について、私たちは立教大学の中原淳教授と2012年から共同研究に取り組んでいます。

社会に出て一つ目、二つ目のステップをどうやって歩むか、これを私たちは高等教育の成果として捉えようと思いました。25~29歳に絞って調査をしているのは、そういった理由からです。この人たちと学校はどうつながるのか。20代で活躍できる人や逆に行き詰まってしまう人は、学校にいたときにどうだったのか。

調査対象は、正規雇用の社会人約3千人です。パーソナリティー・性格検査の主要因子のうち、学校教育に関係すると見られる「勤勉性」「外向性」「経験への開かれ」の三つの因子を取り出し、その組み合わせでどれぐらい仕事ができるかを得点化し、学校教育で身に付ける資質・能力との関連を探りました。

「勤勉性」は物事に真面目に取り組み、仕事を理解してコツコツとやっていく能力のことで、旧来的な学力において必要とされたものです。「外向性」はいろいろな人たちとつながって、他者と協働していく能力のことで、まさにALで養われる力です。それから「経験への開かれ」はどちらかというと探究に近いもので、新しいことへの興味関心です。

タイプ別にみた社会人の能力

この三つの因子の得点に基づき、約3千人を五つのグループに分けました。3因子全てが高い人は「タイプ1」、逆に全てが低い人は「タイプ5」です。また、その中間にある「勤勉性」は低いけど「外向性」や「経験への開かれ」が高い人は「タイプ2」、全てにおいて中庸な人は「タイプ3」、「勤勉性」は高いけど「外向性」が低い人は「タイプ4」です。

その上で、各グループと仕事で求められる資質・能力の指標との関係をみると、結果は一目瞭然です。指標の一つである「組織社会化」は、職場に適応して周囲と一緒に課題に取り組んだり、上司とうまくやり取りしたりしていくこと、いわば職場の基本的な働く力に関する指標です。これをみると、すべてが高い「タイプ1」と「勤勉性」だけが低い「タイプ2」の間に統計的な差はありません。

また、「能力向上」は自分自身の成長を求めて勉強したり、いろんな人と会って話をしたりしながら、自分を高めていこうとする指標です。これも「タイプ1」と「タイプ2」で変わりません。

一方で、全てが中庸な「タイプ3」は、「タイプ1」「タイプ2」に比べて低く、「勤勉性」はあるけれど「外向性」は低い「タイプ4」はさらに低くなっています。まさに、大学生や高校生にとっての学びと、社会人で成功する能力との間に、関連性が見いだせたわけです。

実社会で能力を発揮していく上で、3因子が全てそろっているのが理想ですが、対人関係と関わりの深い「外向性」や「開放性」を外して勉強だけができても、実社会では活躍できないということです。

(藤井孝良)