子供を虐待から守るには(上)児童相談所の現状を知る

千葉県野田市に住む小学4年生の女児が自宅で亡くなり、傷害容疑で両親が逮捕された事件を巡っては、学校や市教委、児童相談所(児相)の対応を問題視する声が上がっている。その中には、今回の事例を関係者らの怠慢などと片付けず、各機関が抱える構造的な課題として捉え、抜本的な改革を求める専門家も多い。子供の虐待が深刻化する中で、学校や市教委は現実的にどのような対応を取るべきか。各方面の有識者の声を基に考える。全2回。


児相が抱える構造的な課題

痛ましい虐待事件が後を絶たない状況を受け、政府は昨年7月、児相の体制強化をはじめとする緊急対策を打ち出した。児相に寄せられる膨大な虐待関連の情報の中から、緊急性が高いケースを特定して速やかに対応するのは急務だとし、厚労省は「児相だけでなく、市町村も連携協力して虐待を防ぐ体制をつくりたい」と意気込みを述べている。

しかし1月に、野田市の事件が新たに発生。1月29日に開催された、超党派の国会議員で構成する「児童虐待から子どもを守る議員の会」では、児相や市町村の連携体制よりも、児童福祉司の在り方に対する課題の指摘が相次いだ。

そもそも児童福祉司は、「士」業のように専門資格を持つ職業ではなく、地方公務員試験に合格して児相に配属された職員のことで、「社会福祉士の資格がある」「大学で心理学・教育学・社会学のいずれかの課程を修了し、福祉施設で1年以上、相談援助業務に従事した経験がある」などの条件をクリアしていた場合に名乗れる任用資格にすぎない。

西澤哲・山梨県立大教授は、児童福祉司の約3分の1は社会福祉士の資格を取って職に就くものの、その養成課程で子供の虐待について学ぶのは1科目だけである点を指摘。高度な知識と技能が必要なのに、数年で異動する任用資格では専門性が育たないとして、「児童福祉司の研修だけでは専門家として対応するのが難しい」と述べた。

塩崎恭久・元厚労大臣も新資格が必要との認識を示し、「任用された人をその都度研修しているような状況では、不十分なのではないか」と発言した。

経験豊富なベテランの児童福祉司が少ない

大阪府の児相で児童福祉司として勤務した経験を持ち、後に厚労省(当時)児童家庭局企画課の児童福祉専門官を務めた才村純・東京通信大教授は、経験豊富なベテランの少なさも長年の課題だと話す。

「現状、多くの児童福祉司は数カ月の研修で現場に出ているが、ケース対応には保護者との関係構築が不可欠で、経験がものを言う職業。一人前になるのに10年はかかると言われている。それなのに日々の業務に疲弊して仕事を辞めたり、異動を願い出たりするケースも多く、ベテランが少ない」と指摘する。

厚労省が17年度に実施した調査では、10年以上の勤務経験がある児童福祉司は全体の16%。野田市の女児のケースを担当していた柏児相も、勤務年数が3年未満の児童福祉司が非常勤職員を含めて56%、計41人中、実に23人を占める。

改善すべき課題が山積

都内の児相に勤務する職員によれば、虐待案件として担当する子供の親が児童福祉司を大声でどう喝したり、暴力を振るったりするケースは少なくない。中には、刃物を持って「子供を返せ!」と乗り込んできたり、鈍器のようなものを投げつけたりする親もいるという。

時間外勤務も多く、病院などから通報があれば深夜でも対応しなければならないこともあり、不調を訴えて休職する児童福祉司は少なくないとする。「数年のキャリアしかない職員ばかりという児相も多く、誤った対応をするなど経験不足から来るミスも起きている」と深刻さを訴える。

才村教授も「親の中には、明らかな虐待なのに『しつけのために厳しくしている』と思い込んでいる人もいる。そうしたケースでは、親自身も暴力を受けて育っていることが多く、説得には経験や専門性、そして長い時間を要する」と述べ、「児童福祉司が時間どおりに帰れることはまずあり得ない。虐待通告が日に何件も入るなど、時間的にも精神的にも厳しい労働環境にある」と語る。

また、相談件数の増加に伴う児相の負担が深刻化している状況を踏まえ、「政府が2022年度までに児童福祉司の数を6割増やす方針を打ち出しているが、専門性のない人が配置されれば、その育成に時間と労力が奪われ、虐待への対応がしきれなくなる。経験豊富で専門性がある人材を確保できるよう、待遇改善に取り組むべきだ」と打開策を指摘する。

児相が多くの課題を抱える現状で、学校や教委はどのような対応をすべきか。(下)では野田市教委や弁護士、警察の声を基に考える。

(小松亜由子)