「学校再建・飛躍のプロ」 長野雅弘校長の組織づくり(中)

幾つもの中学・高校の再建に成功し、「学校再建・飛躍のプロ」として知られる、東京都市大学付属中学校・高等学校の長野雅弘校長。公立学校教員から私立学校の校長になるなど、異なる環境の中で先進的な実践や改革に取り組んできた実績を持つ。そんな長野校長に、組織づくりや学校再建の極意を聞いた。


学校再建校長までの足どり
――元々は公立学校の教員でしたよね。

はい。1956年に名古屋市で生まれ、南山大学外国語学部を卒業後、公立高校の教員になりました。

――教員になることは、いつ頃から考えていたのですか。

大学に入るまでは全く考えていませんでした。教職に就こうと考えたのは大学の先生の影響です。当時、その学部は学生の3分の2が女子で、私は何となく身の置き場がなかったのですが、教育学の先生から「おまえは先生に向いている」「使命感を持って続けられる、やりがいがあって面白い仕事だ」という話を聞かされ続けました。そうしているうちに気持ちが傾き、採用試験を受けて教員になったというわけです。

――その後、私立学校に移られたのですね。

はい。2001年に一宮女子高校(現・修文女子高校)の教頭となり、学校改革に取り組みました。

――わずか1年で大学進学実績が前年度の5倍になり、廃部寸前だった部活動をインターハイに出場するまでに育て上げたと聞いています。

そうです。校長に昇任したのがその翌年でした。

東京都市大学付属中・高校のシンボルツリー前に立つ長野雅弘校長

男女別学の推奨
――その後、聖徳大学附属取手聖徳女子中学・高校の校長を7期務め、「教育課程特例校」として「女子教育特別プログラム」を実践されましたね。

女子教育のプログラムとしては全国初の特例校でした。具体的に、女子に適した教育とはどのようなものかについて、研究に取り組みました。

私は、女子教育と男子教育は本質的に異なるものだと考え、男女別学を推奨しています。私自身、大学卒業後に、教育心理学について幾つかの学会に入り、脳のつくりなどについての研究に携わりました。アカゲザルの解剖などにも参加させていただき、性別によって脳のつくりがまるで違っていること、全く別の生き物と言っても差し支えないほど考え方や見え方が違うことなどを理解しました。

――その成果を実践に生かしているのですね。

ええ、一般的に「女子の方が成長が早い」と言われます。子供の成長を植物に例えると、種をまいて双葉が開き「さあ伸びようか」という時期が女子では小4くらい。一方、男子では中1くらいからです。

だから、男子のしつけをしっかりやるのは、中学1年生くらいにならないと駄目なんです。女子は小学4~6年生のうちに、社会のルールや人との関わり方をきちんと教えていかないといけない。指導のタイミングが女子と男子で異なります。

ならば、同時期に指導しようとせず、適切なタイミングを見極めて別々に指導した方が、子供の能力を最大限に引き出せると言えるでしょう。

――聖徳大学附属取手聖徳女子中学・高校では、独自のメソッドで、国公立大学・難関私立大学への現役合格者を4%から31%へ急上昇させました。その後、2011年からは、聖徳大学児童学部教授に就任。独自メソッドの「勉強法」や「生活習慣」については、本も出版されました。

大学教授として職務を全うしようと思っていたのですが、今年度から東京都市大学付属中学・高校から声が掛かりました。全国の教育委員会やPTAなどからの依頼の他、講演や教員指導の依頼もたくさんいただいていますので、「もう勘弁してください。私は研究者でいく、大学教授に専念します」と答えていたほどです。

――教育委員会からの依頼ではどのような業務を。

例えば、いじめの問題についてです。いじめは日本中の、どの学校にも共通する問題です。つらいことがたくさんあります。ところが近年、「学力が上がるといじめが減る」というデータが示されました。

――学力が上がることで、いじめが減るというのは意外な知見ですね。

理由は、今の学力が、想像力や考える力を付けることを意味するからです。つまり、相手の痛みを想像したり、考えたりするようになるのです。だから、「やってはいけない」という判断ができるようになります。

ある県の二つの市で、教育改革の専門委員を依頼された時には、生活習慣を整えることから始めました。3点固定と言いますが、「寝る時間・起きる時間・勉強開始時間」を決めます。

とにかく生活習慣を身に付けさせることを徹底します。家庭学習でも「勉強しなさい」と言うのではなく、復習シートを配布して「今日の復習をしよう」と働き掛けて、学習習慣の確立を図っていきます。「60日続けると習慣化する」というエビデンスがあります。とにかく「60日」。これが重要です。

――その結果、全国学力・学習状況調査でも、飛躍的に成績が向上しましたね。

さらには、いじめがゼロになりました。その自治体からは「また来てください」と言われていますが、今は校長、そして教授としての職務があり、行けなくなりました。

――それでもあえて今の職を引き受けたのですね。

ええ、当初は「時間的・体力的に厳しい」と断っていましたが、「日本の教育のために」と言われて断りきれませんでした。でも、自分が校長を務めることで子供たちを救えたのではないかと自負しています。今の私は、長年にわたって自分を育ててくれた教育界に恩返しするためにいるのです。

地に足のついた研究が実を結ぶ
――残されてきた成果は、長年の経験と研究のたまものですね。

私はこれまで、大学で他の先生と意見を戦わせてきました。「先生がおっしゃっていることは空理空論で、現場にそぐわない」と。

今回、国を挙げての教育改革に向け、新たな研究が進められていますが、やはり何よりも重要なのは、現場の先生が「学んでいて楽しい」「自分自身が学び続けることが、こんなにもすてきなことなんだ」と実感し、実践できることだと思います。先生の学ぶ姿勢は、必ず子供たちをやる気にさせます。

地に足がついた現場で研究し、教育を推進していかなければ、子供たちが見捨てられてしまいます。どんなに時代が変わり、AIが進歩しても、子供たちに真の意味で影響を与えられるのは、現場で子供たちに接している教員なのです。

(小松亜由子)

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