「ネットいじめ」「教委の対応」巡る二つの裁判 (1)いじめの発生から提訴まで

市教委で一体、何が起きているのか――。埼玉県川口市立中学校で起きたいじめを取材していると、そんな思いが繰り返し浮かび上がってくる。

いじめの被害生徒とその母親は、学校の対応が不適切だったとして、市を相手に損害賠償を求め提訴した。市教委や学校の対応とは一体どのようなものだったのか。川口市いじめ問題を軸に、これからの学校教員に何が求められるかを考える。全4回。


いじめの発生と体罰

訴状などによると、被害を受けた男子生徒Aくんは2015年4月、川口市立中学校に入学。間もなく、所属するサッカー部員によるいじめが始まった。5月には部の同級生のLINEグループから外され、2年生になるまでLINEを通じて、からかいや誹謗(ひぼう)中傷を受けるようになった。16年3月には部活動の練習中に一部の生徒によって襟首を後ろからつかまれ、首が絞まった状態で引きずられたり、揺さぶられたりするなどの暴力を受けた。

母親は度々、サッカー部の顧問に相談した。母子共に顧問を信頼してのことだったが、2年生になると今度は顧問から体罰を受けるようになった。16年9月、精神的に追い詰められたAくんは自傷行為を起こし、不登校状態に陥った。その3日後、母親は校長から「携帯の使い方や誹謗中傷について、部員を厳しく指導した。皆反省し、 Aくんを心配している」という連絡を受けたが、翌日、部員はAくんの自宅や自転車をスマホで無断撮影。LINEにアップして中傷した。

Aくんが自傷行為をした直後、母親は市教委にも相談したが、担当職員は「まずは不登校状態の解消が先。登校させた上で人間関係を修復する」との方針を述べ、サッカー部員の保護者会でAくんを登校させるための協力を呼び掛けていたという。

埼玉県川口市役所(市HPより)
市教委への指導

県教委によれば、Aくんの不登校は「いじめに対する市教委や学校の対応の遅れが原因」であるとして、16年10月から市教委を繰り返し指導してきたという。

文科省もまた市教委を呼び出し、「いじめ防止対策推進法をしっかり認識しているか。重大事態ではないか」と指導した。市教委は「まずは不登校の改善を目指す」と回答し続けたが、文科省から再三にわたる指導を受け、16年12月下旬には「不登校解消といじめ解決は同時にやらなければならないということが分かった」と述べたという。最終的に、文科省では校長に対する直接指導という「異例」の対応も行った。

17年2月、市教委が第三者委員会を立ち上げ、調査が開始されたが、いじめの有無については「社会通念上で判断する」という独自見解を母親に説明。中間報告では、いじめ行為を2項目しか認めなかったが、後に県教委の指導を受け、最終的に7項目を認めた。

提訴へ

第三者委が設置されている最中から、ネット上ではAくん母子に対する誹謗(ひぼう)中傷がやまず、17年10月に中学校名を明記した「掲示板」が開設されると、中傷は一層激しくなった。開設から1年2カ月後の18年12月時点で、書き込みは2780件に達している。

第三者委は18年3月、報告書を公表し、「法律上いじめと認定できる行為があり、不登校の主たる原因と考えられる」と認定した。併せて、調査開始に手間取るなど、学校や市教委の不適切な対応があったことも指摘した。

国の「いじめの防止等のための基本的な方針」などによると、自治体の長は報告書と所見を読んだ上で、調査が不十分と判断すれば再調査できるとしている。母親は「報告書には多くの矛盾点や虚偽報告が含まれている。所見を読んでいただければ、必ず分かってもらえるに違いない」と、川口市長の対応に期待を寄せていた。

しかし18年10月、川口市の奥ノ木信夫市長は記者団に対し「(所見は)見ていない」と述べ、再調査の必要性について検討すらしていないことを認めた。母親は奥ノ木市長に一連のいじめ問題への見解を問いただす手紙を送付したが、返信はなかったという。

Aくん母子は18年6月、ネット上の掲示板に実名をさらされ、プライバシーを侵害されたとして、投稿者を特定するための情報開示をインターネット接続会社(プロバイダー)3社に求める訴訟を東京地裁に起こした。併せて、市を相手取り、損害賠償を求める訴訟をさいたま地裁に起こしている。


次回は、学校や市教委の対応に何があったか、母子の証言を基に伝える。

(小松亜由子)