世界の教室から 北欧の教育最前線(17)「オスロ朝食」からランチパックへ

ノルウェーの学校では通常、温かい食事は提供されない。子供たちは家からランチパックを持参する。中身はパンにチーズやハムなどをのせたものや、果物・野菜などだ。加えて、学校および保護者が望めば牛乳、果物の提供を有償で受けられる。温かい給食が出されるスウェーデンと違い、ノルウェーでは弁当ならぬランチパック文化が今も受け継がれている。


温かい給食を望む声も

北欧の国々は教育に関して歴史的、制度的にも共通項が多い。しかし、つぶさに見ていくと相違点も多々ある。学校給食はそのひとつだ。本シリーズの第8回 と第11回 で述べたように、スウェーデンでは、平等な社会の実現のために子供たち全員に学校で温かい食事を提供することが法律で決められている。

対して隣国ノルウェーでは、冒頭に述べたようなランチパックを子供たちが家から持ってくる。筆者が訪れた中学校では、典型的なサンドイッチのほかに、菓子パンやピザパン、カップ麺を持ってきている子供もいた。メディアでは、温かい給食を望む生徒や保護者の声が報じられることもある。

家庭の責任

ノルウェーの都市部では20世紀初頭ごろ、貧しい子供たちのために温かい給食を提供していた。しかし、隣国スウェーデンが国として温かい学校給食を提供し始めた1950年ごろから、ノルウェーでは給食の提供は減っていき、消えたのである。

その根拠は、社会が発展する中で貧困による栄養失調などの問題がそれほど大きくなくなったこと、そのため学校給食のコストを維持することに対する政治的支持が得にくくなったこと、また専業主婦が全盛期であったこともあり食事の提供は家庭の責任だという認識があったこと――などであった。

典型的なノルウェーのランチパック
バランスよい朝給食

興味深い点として、給食制度がなくなる以前の1920年代に、温かい給食は栄養面で不適切だということが「科学的」に主張され、かわりにパン、チーズ、ハム、りんご、にんじん、そして牛乳などを与える方が、より栄養学的に適切だとされたことである。

これにより、温かい昼食ではなく、パンを中心とした朝食の提供が広がった。「オスロ朝食」と言われるものである。今でも子供たちのもっとも典型的なランチパックは、この形である。

学校給食論争

近年では、学校における食事は再び政治的論争の種になっている。基本的には、学校での食事提供を拡大したい社会左党、労働党などの左派と、縮小したい右党など保守派の闘いのようである。

例えば、社会左党は2005年の選挙戦で無料の学校給食を公約として掲げた。しかし、学校給食の導入はコストがかかりすぎるということもあり、教育省が任命した調査チームの提案により、07年に無料の果物、野菜の提供という現実的な形に落ち着いた。

その後、13年に現政権である右党・進歩党が政権の座に就くと、果物、野菜の提供は保護者が申し込み、支払う仕組みに代わった。その結果、果物・野菜を学校でもらう子供の数は激減したという。

労働党は栄養面、社会的側面、そして学習面からも学校給食の重要性を主張しており、社会左党とともに、何らかの形で学校給食を導入したいと考えている。

一方、右党は、食事提供よりも読み書き計算といった基礎学力を育成することや、教員数増加などが先決だという。調理室や食堂を備えていないノルウェーの学校に学校給食を導入するとしたら初期コストが大きくなってしまうこともあり、限られた予算の中で何を優先するか、各党の主張がぶつかっている。

変化にどう対応?

ノルウェーでも、スウェーデン同様に社会民主主義の理念のもと、平等な社会を形成するために学校は重要な場と位置付けられてきた。しかし、一方の国では温かい学校給食の提供が法制化され、他方の国では食事の提供は家庭の責任と認識された。

ランチパックが機能している時には問題は顕在化しないが、ランチパックを持参しない、食べない子供や、朝食を抜いたり、甘いものや脂肪分の過剰摂取など健康的でない食事習慣になったりの問題もある。

移民の増加や不平等の拡大など、社会の状況も変わってきている。このような中で、ノルウェーの学校給食論争はどのような帰結を迎えるだろうか。

(中田麗子=なかた・れいこ ウプサラ大学教育学部客員研究員。専門は比較教育学)