「学校再建・飛躍のプロ」長野雅弘校長の組織づくり(下)

 四つの中学・高校の再建に成功し、東京都市大学付属中学校・高等学校で指揮を執る長野雅弘校長。「学校再建・飛躍のプロ」の組織マネジメントとは、具体的にどのようなものなのか。主として教員育成の視点から、長野校長の学校経営手法に迫る。


教員の力を引き出すには
――学校の再建に、何か秘訣(ひけつ)はあるのでしょうか。

私は常々、「教職員が生き生きと働けば生徒は変わる。先生が明るいと生徒は付いてくる」「先生の学ぶ姿勢、学び続ける姿勢は、子供をやる気にさせる」と考えています。そのため、赴任したらすぐ、全ての教職員と面談をします。教員だけではなく、事務職員も含めてです。

一人一人に対し、この学校をどうしたいのか、どうしたらあなたがもっと良くなるのかと尋ね、それぞれの志を引き出すようにしています。また、選択肢の中から自分で選んでもらうということを実践していきます。これは「自立と自律」につながります。

――「自立と自律」を非常に重んじられていますね。

ええ、教育の目的は「自立と自律」だと考えています。

趣味の話題で事務職員と盛り上がる長野雅弘校長

「自立」とは、大人に依存しないで、行動できるようになること。「自律」とは、他者の判断や指示によらず、自分自身で判断し行動することです。

――どうすればそれが身に付くのでしょうか。

先生が生徒に幾つもの選択肢を与え、その中から生徒自身が判断し一つ選び、行動に移すことが重要です。選択肢は、中学生以上なら六つ以上は必要でしょう。

すると生徒は、現実の生き生きとした出来事に直面し、失敗や苦しみを味わいながらも、緊張や成功体験による安堵(あんど)感から、生きる実感を得ます。これが、「健全な精神の発達」につながる。

いわば、非認知スキルの向上です。そして「健全な精神の発達」は、「学力伸長」につながります。私の根底にある哲学は、この二つです。現任校でも、教職員と生徒に向けて懸命に伝えています。

――現任校で受験者数が1.3倍に増え、在校生の模試の成績などが大幅に上がったことについて、「どうやったのか」と問い合わせが相次いだそうですが、秘訣は「健全な精神の発達」ですか。

ええ、「健全な精神の発達」が「学力伸長」につながったこと、そして先生方が学び続けたことです。うまくいきました。

私が現任校に来て最初に感じたのは、「レベルが高い」ということでした。学校として、今の時代に持つべきベクトルはできていました。ですから次に必要だと考えたのは、教員が学ぶことでした。学びに対して意欲的な姿勢をしっかり持っているかどうかです。その点を一人一人に確認しました。

――多忙な中でも学び続けているかどうかというと、個人差がありそうですね。

私は、全教員が研究者タイプでもいいと思います。これまでは明るく元気な教員を必要とする風潮が強かったと思います。ですが、これからは「昨日こんな本を読んで、こんなに勉強になって楽しかった」「勉強会に行って、こんなことを学べた」と言ってくれる教員の方が、子供の学びへの意欲を高めると思います。

いろいろな学校を見ていて感じるのは、レベルの高い進学校ほど、自分自身が学んでいる教員が多いこと。その姿を見て、子供たちも自ら学ぼうとし始め、学び続ける。そこで、学び続ける教員への転換が必要だと感じるようになりました。

――勢いやパワーで子供を圧倒したり、押し切ったりする時代ではなくなると。

今、AIが人間に取って代わるのではないかという声もあります。AIにできないことをできる人間が求められる。だからこそ、教員が新しいことをどん欲に吸収していく必要があります。そういう教員にこそ、子供が付いてくるのでしょう。

現任校でも、それを最初にはっきりと言いました。「うちはそういう学校にしていきましょう。それが一流の学校です」と。

学校再建のヒント
――学校再建は、教職員の意識改革からスタートするということですね。

教員になったばかりの頃の経験なのですが、私の席は校長先生と教頭先生の隣に置かれていました。新人を鍛えるにはここしかないと言われて。

――それは精神的に圧迫されますね。

もう、1日で辞めたくなりました。しかし、そこにいると校長や教頭の動きがよく分かりました。教員の話を聞いた教頭が校長に伝える。校長はすぐに教育委員会へ電話する。最後に責任をとるという点で、一番大変なのは教育委員会なのだと分かりました。

――そうした経験もあって、あらゆることを校長の責務として捉えているのですね。

学校を改革するときは、いつも最初に方向性を定めるのですが、そのためには全教職員と面談して、皆を知ることが必要だと思っています。

とにかく全員を知ることから始めます。何度も何度も話を聞きます。公式の場でも、非公式な場でも。いろいろなところで、皆を少しでも知ろうとします。

そうする中で、必ず「こういう学校にしていきたい」という思いにおいて、全教職員が共通している部分があります。それを見極めた上で「そんな学校を皆で作っていこう」と呼び掛けていきます。

――地道な努力が、学校改革をもたらすのですね。

学校改革は一人だけではできません。一方で、スーパースターもいらない。全ての教職員が同じ思いを持って協力していけば、大きな力になります。その力が学校を動かしています。

また、皆が安心して働けるよう、「校長は常に話を聞く」と教職員に感じてもらえるようにしています。そのため、校長室の扉は開けっ放しにしており、生徒も教職員も大勢来ていました。

楽なことではありませんが、互いの共通理解は絶対に必要です。

今年の4月には「長野文庫」を校長室に開設します。教育学、心理学、哲学、医学など、研究者が読むような本をそろえます。全て私が読んだ本です。教職員・生徒のためになると思い、開設を決めました。

次のステップへ
――これまでの経験の中で、うまく育てられなかった教員もいましたか。

「自分の教育はこうだ」という考えや、独自の教育論のようなものを曲げない教員には苦労しました。例えば、かつては運動部などでの体罰が横行していた時代もありました。

しかし、体罰は絶対に許されない時代になった。それを認め「今まで間違っていた」と改めればよいのですが、そうした進歩のない、自身の主義主張を曲げない教員はいます。

学校が学び続ける教員であふれていれば、子供は大きく伸びます。一方で、変われない教員は、教壇に立って子供に良い影響を与え、良い授業をすることはできない。かわいそうなのは子供たちになります。

――今は、その悩みはありませんか?

現任校ではありません。それでも、「学ぶことだけは続けてほしい」と言い続けています。その一環として、私は毎週2回ずつ、最新の研究情報をメールで全教職員に配信しています。

また、それぞれの時期にやっておくべきことを、理論の裏付けを示した上で伝えています。朝礼などで話しても、やることがたくさんある中では頭に入らないことは実感で分かっていますから、余裕があるときにじっくり読んでもらえるよう、メールで配信しています。

――校長だからこそできることですね。

ええ、校長はまず、教職員一人一人をよく知らなければならない。そうでなければ、教職員の中に「自分のことを分かってくれているのか」「これでいいのか」と、さまざまな不安が生まれてしまいます。

そうした土台の上に、学校としてのベクトルを定め、「この方向に向かって皆で頑張っていこう」と明言するのが校長の責務です。そうすることで、個々の教職員の目標も明確化され、皆が安心して働けます。やはり、学校経営においては、一人一人を大事にすることが何よりも大切なのです。

(小松亜由子)