2030年の公立学校像 松田孝校長の証明(中)

 協働的な学びはICTがなければ実現しない――。その信念に基づき、普通の公立小学校でありながら、ICTやプログラミング教育で最先端の取り組みを進める、東京都小金井市立前原小学校の松田孝校長。第2回では、ICT教育を校内で広めるためのリーダーシップの在り方を探る。


トリガーとしてのプログラミング
――プログラミングの授業を始めた頃、教員や保護者から抵抗はなかったのですか。

教員は知らないものを教えるとなると、途端に「ビビり」ます。プログラミングがまさにそうでした。でも、環境と条件さえ整えてしまえば、後は子供たちが勝手にやり始めるので、教員は一緒になって楽しめばいいんです。そういうマインドセットに変えない限り、教育は変わりません。

――具体的にどうやって教員の意識を変えていったのですか。

口でいくら言っても変わらないのはどの学校でも同じです。だから実際にやってみせる。前任校の東愛宕小でも、プログラミングの授業をすると、2時間も子供たちの集中が続くのです。その光景を見たら教員の意識も変わります。本校では保護者からも抵抗はありましたが、2年目くらいからは、誰からも何も言われなくなりました。子供が楽しく学ぶ姿が見られたからだと思います。

私は最終的に、教科を軸とした既存の学びを本質から変えたい。プログラミングはあくまでそのトリガーにすぎません。アクティブ・ラーニングをはじめとする教育改革を、従来型の教科、授業の枠組みでやろうとするのは違うと思います。テクノロジーがあって初めて実現するものです。
もう一つ、教員が変わらない要因として「同僚性」があります。1人の教員が単独で何かをやろうとすると、周りから圧力がかかる。同僚性がやりたいことを抑える風潮は最悪です。
さらに言えば、似たような話は学校間でもあります。こうした横並び意識はどこでも見られるのではないでしょうか。

2018年は多くの学校で12月22~24日の三連休の後、25日が終業式でした。管理運営規則では、学校が判断し、教育課程編成を変えることができる。そこで、本校は21日の金曜日を2学期の終業式としました。しかし、もともと25日が終業式であった多くの学校ではそのままとなっています。さまざまな理由はあると思いますが、おそらく最大の理由は、変更すれば説明責任が課せられ、例年通りならばその必要はないからです。

東京都小金井市立前原小学校の松田孝校長

学校はバランス感覚を持って、周りとの調整を図り、これまでの積み重ねを大事にしながら教育活動を展開していきます。でも、それは変革をするための一歩が出にくいということでもあります。「総合的な学習の時間」の中でプログラミング教育がなかなか推進されないのも、この表れの一つだと考えています。下手に合意形成を図ろうとすると、エッジがそがれてしまいます。民主主義がこれまで採用してきた多数決の原理や「折り合い」では、イノベーションは起こりません。

エビデンスが組織を変える
――プログラミングの授業をしているのがあくまで普通の先生で、それほど特別なこともしていないのに、子供たちがどんどん学んでいる。ここに前原小のすごさを感じます。

本校の全教員が、超一流の指導力を備えているわけではありません。若手教員の比率も高まっているので、若手をどうフォローするかは課題です。

本校では、河村茂雄早稲田大学教授が開発した「WEBQU(学級満足度調査)」を全クラスで実施しています。「WEBQU」では、居心地の良いクラスにするためのアンケートから、それぞれの児童がどう捉えているかの散らばりが分かるように分布図が示されます。その分散の状況で、クラスの状態を類型化していきますが、6月のアンケート結果では、本校は極めて危機的な状態でした。

クラスメートが「schoolTakt」で活発に交流する朝の会

この改善に役立っているのが「schoolTakt」です。普段、朝の会では教員が児童一人一人の名前を呼んで、体調を聞いたり、その日の学習予定を確認したりします。それを、端末上でやり取りさせるとどうなるか。子供たちが自由にコメントを書いたり、コメントに対してリアクションしたりして、コミュニケーション活動が始まるのです。

これまでは教員と児童との間でのやり取りにすぎなかった朝の会が、子供同士でネットワークを作り、関係性を広げていく活動へと変わったわけです。子供たちのコメントは集計できるので、誰のコメントにリアクションが集まっているか、誰が誰を見ているのか、リアクションが全く集まらない子がいないかなど、クラスの人間関係も見える化できます。

端末越しのやり取りだと、人との深い関わり合いが生まれないと思われるかもしれませんが、そうではありません。むしろ、関係性の構築には、アナログの方にこそ物理的な限界があります。デジタルならば、不登校傾向や緘黙(かんもく)傾向の子供が朝の会に参加できるのです。先日はインフルエンザに罹患(りかん)して出勤できない担任教員が、「schoolTakt」を使って子供たちにメッセージを送っていました。

学級満足度が上がったエビデンスを示す松田校長

「schoolTakt」を活用すれば、子供同士の関係性が可視化されます。しかも、子供たちがネットワークの輪を勝手に広げていきます。心理学の非構成エンカウンターグループだと思います。特別な準備なども不要で、教員に負担がかからない点も大きなメリットです。

「schoolTakt」を活用して朝の会をやったクラスで12月に実施した「WEBQU」の結果を比較すると、6月から12月にかけて明らかに良くなっているのです。こうしたエビデンスを示されれば、どの教員もやらないわけにはいきません。今ではほとんどのクラスが、この活動を取り入れています。

養護教諭によると、今年度の子供のけがは昨年より200件も少ないそうです。「schoolTakt」の効果であると断言はできませんが、子供たちの関係性が良くなり、落ち着きが出て、不用意な事故やけがが減っているのではないかと私はひそかに考えています。