世界の教室から 北欧の教育最前線(18)みんなのアントレ教育

Skype、Spotify、Minecraft、キャンディクラッシュなど、スウェーデンから世界に羽ばたいたベンチャーが脚光を浴びている。こうした起業家精神は、どのような教育によって育まれているのか。スウェーデンのアントレプレナーシップ(起業家精神)教育を取材した。


高校生の起業大会

3月6日、ウプサラのスポーツアリーナを会場に、Ung Foretagsamhet(UF=「若い企業」の意)の地区大会が開催された。近隣から集まった約1千人の高校生たちがブースを連ね、自分たちが起業した会社のパンフレットや商品を手に、立ち寄る客に熱心に話しかけていた。

UFは、世界的に展開するJunior Achievementのスウェーデン支部である。地区大会で優秀賞に選ばれると、全国大会に進み、さらにその先にはヨーロッパ大会が待っている。

UFは主に高校生・高校教員を対象に、アントレプレナーシップ教育の教材や研修を提供している。このプログラムでは、企業の立ち上げ方や商品・サービスの仕入れ方、販売の仕方、人事や財務、帳簿のつけ方や納税の方法などを幅広く学ぶ。特徴的なのは、プログラムの終わりに、立ち上げた企業をたたむところまで含まれていることである。起業から廃業までの流れを学ぶことで、企業経営の全体像が理解できるように工夫されている。

便利グッズから散髪サービスまで
UF地区大会の様子

技術コースに通う男子生徒のグループは、リュックサックが肩からずり落ちるのを防ぐために、胸の部分に装着するベルトを販売していた。彼らはパーツを調達し、ミシンを使って自分たちで製作したという。ブースでは、自作のプロモーション動画が流れていた。5月に会社をたたむまでは売り続けるつもりだという。

美容師コースに通う女子生徒グループのブースでは、華麗なヘアスタイルのマネキンを飾っていた。彼女たちのアイデアは「出張美容室」だ。高齢者福祉施設などに出張して髪を切る。ブースでも散髪をしていて、希望する客の順番待ちができていた。

移民とアントレ教育

移民の生徒とアントレプレナーシップ教育は相性が良い。昨年10月に高校を訪れた際には、海外からやってきて、ようやくスウェーデン語を習得したばかりの生徒たちがUFの説明を受けていた。企業の就職面接でも不利な彼らにとって、自営業は描きやすい将来像だ。雑貨店やレストランを経営したり、タクシードライバーになったりする移民は多く、社会統合のロールモデルになっている。スウェーデンの自営業者のうち21パーセントが外国の背景を持つ人たちで、特にシリアやイラン、トルコからの移民が多い。

地区大会でも、移民の高校生グループをいくつも見かけた。アフガニスタン出身の男子生徒のグループは、手作りのアフガン料理を販売していた。彼らは校内の大会で優勝したという。

アントレ教育は全員必修
UFプログラムの説明を受ける移民の高校生ら

スウェーデンの基礎学校(日本の小・中学校に相当)と高校では、ナショナル・カリキュラムの「総則」にあたる部分に、アントレプレナーシップ教育が必修として含まれている。基礎学校では独立した教科ではなく、すべての教科を通じて扱うべき課題とされている。高校ではさらに、イノベーション思考なども学ぶことになっている。学校教育庁のウェブサイトでは、アントレプレナーシップ教育の教材・研修を提供している団体を四つ紹介していて、UFはそのうちのひとつである。

スウェーデン含む北欧では、自営業や小規模な企業が多い。起業家精神は、特別な人たちだけが持つべきものではなく、移民を含めたすべての子供たちに必要なものとして位置づけられている。

(林寛平=はやし・かんぺい 信州大学大学院教育学研究科准教授。専門は比較教育学、教育行政学。中田麗子=なかた・れいこ ウプサラ大学教育学部客員研究員。専門は比較教育学)