ナージャが旅した世界の学校(上) 座席から見えた教育思想

日本の座席とそっくりな国は?

米国の教室にはソファがある!?

露、英国、仏、米国、カナダ、そして日本。世界6カ国の教育を受けて育った、コピーライターのキリーロバ・ナージャさん。2015年には世界コピーライターランキングで1位に輝いている。その活躍の背景にあるのは、各国で経験してきた多様な教育だった。各国の教育の違いから、その裏にある国ごとの「どう育ってほしいか」という教育思想が見えてきた。全3回。


「どう学ばせたいか」の個性が表れる座席
――小学1年生から、全6カ国の教育を受けてきたのですね。

両親の仕事の関係で、小学校1年は露、3年生で英国に。3年生の途中からは仏、4年生で少し日本にきて、5年生で米国へ。そして再び6年生の時に日本にきました。それから中学校でカナダに渡り、中学3年生の途中で日本にきてからは、ずっと日本にいます。

中学校までは全ての国で、公立の現地校に通っていました。少しその国の言葉を覚えたと思ったら、次の国へ。小学生の間は、まさに学校の旅でした。

各国とも価値観が違い、前の国では良しとされていたことが、次の国では違うと言われる。自分の軸ができるまではつらかったのですが、こんなやり方もあるし、他のやり方もあると柔軟に考えられるようになりました。いろいろなやり方を知れたことで、自分に合うもの、合わないものもわかりました。

――それぞれの国の教育で、違いを感じた点はどんなところですか。

私が小学生だった1990年代は、教室の座席についてはすべての国で違いました。

例えば、露は日本と似ていて、男女ペアで一つの長めの机に座る座席です。左に男の子、右に女の子が座るルールで、席替えはほとんどありません。ちなみに、小学生から高校生まで基本同じ学校で勉強します。

英国では、5~6人掛けのグループになった座席でした。同じグループになった子たちと一緒に学ぶスタイルです。私は英語がほとんどできない状態だったのですが、常にグループワークで教え合うので、英語を覚えるのも早かったです。

仏は、議論が好きな国なので、円を作るように机は向かい合わせに配置されていました。先生が円の中に入り問いかけると、みんなが議論します。みんなの顔がよく見えるので、意見を言いやすい感じがしました。

米国は衝撃的でした。仏と同じような座席なのですが、真ん中にはカーペットが敷いてあり、ふかふかのソファがいくつか置かれていました。

各国、中学校以上になれば、日本のような座席スタイルになることが多いようですが、小学校の座席には国ごとの個性があり、おもしろかったです。

実は一番自由度が高いのは日本の座席
比較すると面白い世界の座席 (c)Hugo Yoshikawa
――それぞれの国の座席スタイルによって感じた利点は。

例えば、日露みたいに先生が前に立つスタイルだと、みんなしゃべらないですよね。でも英国のようなスタイルだと、コミュニケーションが取りやすい。先生も最初にお題を出したら、あとはグループでやってみましょうと、見守るスタンスでした。だから、グループでしゃべってやらないと、課題解決もできない。授業ごとにそれぞれが得意なことを教え合えるメリットがありました。体育でも同じグループで学び合いました。

仏は、テーマに関してそれぞれの立場から自分の意見を言うことを、小学生にも求めます。この座席だと議論がしやすく、子供が主体になれるメリットがありました。

米国は、例えば、リラックスするときはソファに、集中するときには机に――といったメリハリがありました。子供の集中力を維持するには、この座席は工夫されているなと思いました。ソファに集まって読み聞かせなどをしてもらい、みんなで話し合うようなこともよくありました。リラックスした状態なので、みんな自然と意見が出てきていました。日本のように当てられて「ギクッ」という感じはなかったですね。

日本の座席は、みんなに平等に、素早く学びを伝達するという観点で優れていると思います。

――逆にデメリットを感じる点もありましたか。

例えば、英国のようなグループで学ぶ形だと、平等にしようとしても、常に引っ張っていく子や、まとめる子が出てくる。グループ内の学び方がだんだんできてきてしまう。

仏タイプだと、主張が強い子が勝っていくイメージでした。目立っている子、登場回数が多い子が出てくるので、性格によっては向いていない子もいるでしょう。

――日本でも授業内容によって、各国の座席を取り入れると良さそうですね。

実は日本の座席が、どの国よりも一番自由度があるのです。なぜなら、ほかの国の座席は基本、床と固定されているか、動かすという発想がないので動きません。机と椅子を自由に動かせるのは日本だけなのです。

日本の座席の素晴らしいところは、どんな形にもできるところ。例えば、グループワークをさせたいなら英国式にしてみようとか、5分もあれば座席を変えられる柔軟性がある。

この素晴らしさに気づいていない先生も多いのでは?

(クローズアップ取材班)

注※)ナージャさんが通っていた1990年代当時の、各国の学校と教育の話です。現在とは異なる場合もあります。


【プロフィール】キリーロバ・ナージャ ソ連(当時)レニングラード生まれ。数学者の父と物理学者の母の転勤とともに6カ国の地元校で教育を受けた。電通に入社後、さまざまな広告を企画し、世界の広告賞を総ナメ。2015年には世界のコピーライターランキング1位に。電通総研内に「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」を設立。「もっと日本の教育にクリエーティビティを吹き込みたい」と、学校との授業開発や、自治体や企業との共同プロジェクトなど、さまざまな実践を重ねている。