世界の教室から 教育先進国・フィンランド 第4回 フィンランドの大学入試

慶応義塾大学教授 今井むつみ

大学入試許可テスト

これまでも述べてきたように、フィンランドでは、小学校から高校まで、子供の学力を順位付けるためのテストはしない。ただし、第2回でも触れたように、授業改善のためのアセスメントは実施している。

しかし、フィンランドにも大学入試はある。希望する大学、学部に入れるかどうかは、個々の大学の学部による選抜をくぐり抜ける必要がある。その中で大きな要素となるのが、「大学入試許可テスト」である。

受験生は、少なくとも4科目のテストで合格しないと大学入学(受験)資格はもらえない。母語は必須である。多くの受験生はフィンランド語であるが、公用語として認められているスウェーデン語や少数民族の言語であるサーミ語でも可能だ。その上で、次の中から、3科目を選択する。①第2母語(例えばスウェーデン語)②外国語(ほとんどの場合は英語)③数学④人文または科学のカテゴリーの中のどれか一つ。

さらに受験生は、希望によって次の中から追加してもよいことになっている。▽ドイツ語、フランス語、ロシア語などの、さまざまな外国語▽歴史▽公民▽生物▽地理▽物理▽化学▽体育・健康教育▽心理学▽哲学▽倫理学▽宗教学――。

受験生は1人につき6科目まで受けることができる。試験は1年に2回実施され、受験生は最大3回に分けて、自分の受験科目の試験を受けることができる。1科目につき、試験時間は6時間だそうだ。

フィンランドにおける試験
思考力と言語力を評価する入試問題

フィンランドの入試問題は、「容易に予測できない課題に取り組むことができる能力を測る」ことを評価の指標としている。フィンランドでは、政治的、社会的に当たり障りのあるトピックを避けるのではなく、むしろ積極的に取り入れて生徒の思考力と言語力を評価する。

例えば、他国ではタブー視されがちな進化論や失業、ダイエット、暴力、戦争、スポーツにおける倫理、セックス、麻薬、流行音楽に至るまで、多様なトピックが扱われる。

採点は、最初に、受験生を担当する学校の教師が採点する。それから入試委員会の専門委員が独自に(教師の採点結果を見ずに)採点する。両者の採点が統合されて最終的な成績となる。それぞれのテストは7点満点で点数が付けられ、正規分布になるよう、偏差値に変換される。

各教科の問題例には、次のようなものがある。

【国語】

「政治家やスポーツ選手などの著名人が、社会的に不適切な言動をして謝罪することがある。『謝罪』とは何か、それを社会として、あるいは個人として受け入れるということはどういう意味を持つのかを議論しなさい」

「メディアは多くの読者や視聴者を得ようと競争する。その結果、何が起こり得るか」

「世界の三大宗教のそれぞれにおいて「聖なるイメージ(holy image)」が、どのような役割を果たしているかを述べなさい」

【歴史】

「カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスは、最初の社会主義革命はイギリスのような国で起こると予測した。その理由を挙げなさい。また、なぜ社会主義革命はロシアで起こったのかを議論しなさい」

【心理学】

「個人の性格が『Facebook』やその他のソーシャルメディアにおけるその人の言動にどのような影響を及ぼすかを調べるための研究をデザインしなさい。また、その際に、どのような倫理的な問題を考慮しなければならないかについても述べなさい」

ずっと先行

現在、日本では高大接続改革が議論され、2021年度の大学入試から「大学入学共通テスト」が実施されることが決まっているが、実施が目前となった現在でも、その理念の妥当性や実施の仕方が激しく議論されている。

フィンランドの入試は、コンセプトも実施の仕方もあまりにも日本のものと違うし、現状でこのような試験形態は実施不可能だろう。しかし、大学入試改革で導入しようとしている問題解決力や、思考力を問う試験を以前から実施しているフィンランドでは、そのずっと先を行ってきていて、それを可能にするシステムをすでに作り上げている。

そのことは、私たちも知っておくべきだろう。

※執筆にあたり、Pasi Sahlberg(2014)の「Finnish Lession 2.0」を参考にした。