ナージャが旅した世界の学校(下)世界との違いを生かす

電通総研内に「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」を設立し、さまざまな学校で実践授業を重ねているコピーライターのキリーロバ・ナージャさん。最終回は、自身が世界6カ国で受けてきた教育と、現在の活動を通して考える日本の教育の可能性について聞いた。


「作者の思い」に正解があるのは日本だけ
――日本の教育現場でもアクティブ・ラーニング(AL)の導入は進んでいますが、世界と比較して感じることはありますか。

ALで大切なのは問題の立て方で、問いには答えがないことが前提です。

日本には、どの教科でも正解が必ずありました。先生が答えを持っていて、その答えに導きたいと思っている。そして、それに子供も気づいている。「先生はこう答えてほしいのだろうな」と。

例えば国語でよくあるのが、「作者はどう思ったか?」という問題。それを考えるのは大切だけど、答えが何なのかは重要ではない。他の国では、国語も基本的にはエッセーで、自分の意見を述べるものでした。

WEB電通報で連載されていたコラムがキッズデザイン賞を受賞し、絵本となって2018年9月に発売された

また、他の国では、先生は「私も正解は知らないよ」というスタンスです。問いに対して、「なんでそう思うの?」「なるほど、意見が違うね」と、みんなで想像して、いろいろな意見をどこまで広げられるか、膨らませられるかを重要視しています。多様な意見を知ることの方が重要なのです。

ここに、日本と世界の一番の違いがあると思います。

日本では一つの答えが設定されているから、子供たちは「同じです」という。だって、違う意見を言っても拾ってもらえないから。意見が違うことを教育において求められていないから、それに慣れてしまっている。だから自分の意見を言わない、言えなくなっているのではないでしょうか。

答えが決まっているなら、自分の意見を発言する意味が生まれないと思います。

――発言が苦手なタイプの子供もいます。

自分の考えを主張する方法は、いろいろあります。しゃべるだけではない。文字で表現しても、絵で表現したりもできる。私も実はしゃべるのが苦手でした。おとなしいタイプの子は、しゃべることを強制されなければ、他の表現方法で自分を表現できるはずです。

日本は大きなフレームの中で、失敗できない、それ以外のやり方が認められていないと感じます。そこから外れると戻れないし、選択肢が他にない。だから価値観が単一になっている。

日本の教育現場でも、もっといろんな表現の仕方が認められたらいいと思います。自分の得意なスタイルを見つけて、どう表現すれば良いかを、それぞれが見つければいいのではないでしょうか。

日本にはたくさんの可能性がある
――日本で働いている理由は。

なにより日本は面白い国だと思うからです。私にとって、違いを一番生かせて、面白くするためのアイデアを出せるのが日本だった。

また、完全にはなじめない国だと思うからです。他の国だと、長くいればきっとなじんでしまったと思います。でも日本ではいい意味での「不思議」がずっと続いている。教育の不思議と同様に、会社バージョンなどもたくさんあります。こんなに何年も住んでいても、新しい刺激があるというのはすごいことだと感じています。

世界と日本は、例えればMacとWindowsのように、システムが違います。だから日本にしかないたくさんの可能性があると思います。こんなにたくさん不思議なことがあるのに、みんな気づいていないし、世界との違いを生かしたトライができていない気がします。

――世界の多様な教育を受けて育った立場から思う「グローバル教育」とは。

今、盛んに言われている「グローバル」とは、つまりはいろいろな個性や考え方の集まりです。自分が何者であるかを見つけるのが、グローバル教育への近道だと思います。英語はただのツールです。

自分がどんな個性があり、どんな考え方をする人間なのかがわかっていれば、他の人が違う意見を持っていても受け入れられるようになる。

日本では、自分の個性や考え方をわかっている児童生徒は少ないと感じます。それを知るためには、学校教育においていろんなやり方を経験することが大切だと思います。

(クローズアップ取材班)

注※)ナージャさんが通っていた1990年代当時の、各国の学校と教育の話です。現在とは異なる場合もあります。


【プロフィール】キリーロバ・ナージャ ソ連(当時)レニングラード生まれ。数学者の父と物理学者の母の転勤とともに6カ国の地元校で教育を受けた。電通に入社後、さまざまな広告を企画し、世界の広告賞を総ナメ。2015年には世界のコピーライターランキング1位に。電通総研内に「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」を設立。「もっと日本の教育にクリエーティビティを吹き込みたい」と、学校との授業開発や、自治体や企業との共同プロジェクトなど、さまざまな実践を重ねている。