さよなら、学校の前例主義 工藤校長×日野田校長(上)

前例主義に陥りやすい教育現場において、それらにとらわれることなく、次々と改革を進めてきた東京都千代田区立麹町中学校の工藤勇一校長と、武蔵野女子学院中学校・高等学校(19年4月より武蔵野大学中学校・高等学校に変更)の日野田直彦校長の対談が実現。さまざまな制約がある中、2人はどのように壁を取り払い、改革を実現してきたのか。第1回は周囲を巻き込むための手法や、前例主義をやめたことで見えてきた教員と子供たちの変化について語ってもらった。全3回。(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)


「理由が説明できない仕事」はやめるべき
――常識や前例主義にとらわれて前に進めない学校も多い中、どのような視点で改革を進めたのでしょう。

日野田 「改革」というと、今までやってきたことを全て否定するような印象がありますので、「改革」という言葉を使いません。私は良いところはちゃんと残した上で、よりよくしていくことが大切だと思っています。

ただ、学校にはずっと前からやっている「やっている理由が説明できないような仕事」もあります。その中には、「やらなくてもいい仕事」がたくさんあるのも事実です。

工藤 私も今までのやってきたことの全てを否定しているわけではないし、学校がそうならざるを得なかった理由もあると思っています。

本校でも、結果としてやめたものもあるし、残したものもある。学校の本質的な目的は何なのかを突き詰めて考えていくと、やらざるを得ないことが見えてくるのです。

日野田 「改革」と大上段に構えるよりも、まずは教員同士が今現在の状況について、本音をさらけ出していく。それだけでも、学校は良い方向に変わっていくと思います。

「誰が言ったか?」ではなく、「何を言ったか?」を大事にできる、心理的安全性が担保された職場の雰囲気づくりが、管理職の最も大事な仕事の一つなのかもしれません。

それぞれの学校が、良いと思う取り組みをオープンソース化し、やれることからやっていけばいいのではないでしょうか。

「前例主義の全てを否定しているわけではない」と語る工藤校長
全ての人を当事者に変えていく
――周囲の教員を、どう巻き込んでいけばよいのでしょうか。

日野田 校長は、職員室というクラスの「担任」みたいなものだと思います。

だから、まずは教員たちが何事にも安心して挑戦できる環境をつくること。失敗した時の責任は、当然、校長が持ちます。

子供はたくさん失敗しますよね。それと同じで、先生だって失敗します。その時に大切なのは、できるだけ正のフィードバックをすること。そして、可能な限り失敗を許容することです。許容する空気がなければ、教員は困っていることを困っていると言えなくなってしまいます。

こうして対話を重ねながら、職員室内でのコミュニケーションの質を高めていくことで、周りを巻き込んでいけるのではないでしょうか。

工藤 人を巻き込むために、私が最初に考えるのは「全ての人をどう当事者に変えていくか」ということです。

5年前、私が着任した当初、本校の教員は職員室で文句を言い合う集団でした。うまくいかないのは子供のせい、親のせい、他の教員のせい、管理職のせい、こんなに忙しいのは教育委員会のせい……。みんな他人の文句ばかりを言っていて、誰も当事者になっていなかったのです。

確かに、的を射ている部分もあるし、気持ちもよく分かります。でも人ごとのままでは、そこから何も生まれません。

小さなことから始めて、成功体験を積み重ねていく
――全ての教員を当事者に変えていくために、何から着手しましたか。

工藤 まず、全ての教員の文句を聞くことから始めました。子供たちへの不満、保護者への不満、他の教員への不満……。そうした上がってきた課題の中で、すぐ解決できそうなことをリスト化していきました。

最初は私が改善したこともありますが、その後は可能な限り、教員自身に委ねるようにしました。そうして出てきた課題を自身で解決させていくことで、個々の教員に当事者意識が生まれてきます。

また、課題を解決しながら、その学校が目指す「最上位の目標」にベクトルを合わせていく作業も大切です。

本校の職員会議は月1回、15分で終わります。それは、決定権をほとんど教員に与えているからです。「最上位の目標」にベクトルが合っているので、教員同士が自由に相談して決定できるわけです。

人は、自らが創意工夫できる仕事、権限がある仕事に対しては責任を取ります。逆に、人から与えられた仕事に対しては責任を取ろうとしません。全ての教員を「当事者にする」ということは、アイデアをきちんとしたベクトルに向け、それが実現できる学校にするということです。

日野田 教員は理想が高いので、目標設定を高くしがちです。でも、1年間でできることには限りがあります。

だから私は「今年できる範囲のことをやりましょう」と最初に呼びかけます。何事も小さく始めるのがいい。小さなことでも積み重ねていけば、加速度的に良くなり、3年もたてば大きな成果になります。

できることに少しずつトライして、成功体験をためていく。そうして積み上げた知見こそが、その後の成長につながります。

人は皆、余裕がなくなってくると顔に出ます。そんな時、生徒はよく見ています。「先生、今日機嫌悪いな」「昨日寝た?」とか、全てお見通しです。

だから、管理職は職員室全体を見渡しながら、教員が余裕を持って取り組めるようにオーナーシップをとることが大切です。

さまざまなストーリーを想定して交渉する
注目の2人の対談とあって、会場は熱気に包まれた
――「うちの学校は管理職の頭が固くて……」といった話もよく聞きます。教員が当事者意識を持って取り組もうとしても、管理職が反対したり、聞き入れてくれなかったりする場合は、どうすればいいのでしょう。

日野田 自分のやりたいことばかりをアピールするのではなく、管理職の問題意識を知ることから始めたらいいと思います。管理職が何に困っているのかを、ちゃんと聞き出した方がいい。

また、管理職も忙しいので、交渉するタイミングは考えるべきです。良きタイミングで、校長や管理職の困っていることを聞き、自分がやりたいことをうまく盛り込みながら、解決策を提示していくことが大切だと思います。

何より、交渉はストーリーを考えることが大事です。相手の置かれている立場や状況などを考え、ありとあらゆるパターンを想定してリストアップします。そして、それに対する対応を考えていく。こう言ったら、多分こう返ってくるだろう。そうしたらこう対応しよう――といった具合です。

工藤 何事もダメ元でやってみることは大切ですが、管理職に「ダメだ」と言われることも、あらかじめ想定しておいた方がいいでしょう。そう考えておけば、たとえダメになってもイライラしません。将来的にリーダーを目指すのであれば、イライラしないことも身に付けておきたい資質の一つです。

私が校長になろうと思ったのも、管理職が動いてくれない、反対されたといった経験があったからです。

 一教員の立場でできることは、限られています。学年主任、教頭、校長など、立場が変われば見える世界が変わり、できることも変わります。

理想を実現するためには、自分がその立場に立たなければできないこともある。そのために自分に足りないものを探って、スキルを高めていくことも大切だと思います。

固定担任制をやめたら無意味な競争がなくなる
――前例主義をやめると、具体的にはどのような変化が現れるのでしょう。

工藤 一番分かりやすい例は、固定担任制をやめたこと。職員室の雰囲気が劇的に変わりました。

固定担任制だと、教員はどうしても無意味な競争をしてしまいます。どの教員も「他のクラスの教員よりも優れていないと信頼が得られない」と考えてしまう。

一方で、固定担任制をなくすと、教員も、子供も、保護者も、クラス間の比較をしなくなります。子供たちがクラス間を比較するのは、担任がいたからだということが、はっきり分かりました。

例えば、クラスで何か問題が起きたとします。すると子供は「このクラスがうまくいかないのは担任のせいだ」と言う。人ごとだから、自分たちで解決しようとはしません。それが固定担任制をやめると、子供たちに当事者意識が生まれるのです。

また、固定担任制の下では、クラスで問題が起きると担任が窓口になります。すると、本当の目的は子供の問題を解決することなのに、担任の責任を追及することが目的になってしまう。本校では全員担任制にしたことで、まず子供の問題解決を優先して考えるようになりました。

本校では、生活指導的な問題が起こると、それが得意な教員が対応に向かいます。生徒指導が苦手な教員は行動を共にしながら勉強しようとしますし、他の問題が起こった時には積極的にフォローしようとします。

トラブルを子供の学びに変えるためには、どうアプローチすればいいのか。そうした視点で協力し合い、スキルアップするようになっていきます。教員は目的が明確になると、ちゃんと連携します。本当に素晴らしいと思います。

「手段が目的化してはいけない」と日野田校長

日野田 本校でも、固定担任制を廃止したいと思っているんです。ただ、勘違いしてはいけないのは、固定担任制をやめたからといって、全ての問題が解決するわけではないということです。

固定担任制の廃止は、一つの手段にすぎません。手段ばかりにこだわっても、目的が明確でなければ意味がないんです。

学校にオープンマインドな空気をつくり、問題解決に向けてみんなでアプローチできるような協力体制をつくっていけるよう、本校でも取り組んでいこうと思います。


【プロフィール】

工藤勇一(千代田区立麹町中学校校長) 山形県の公立中学校で教壇に立った後、退職し、改めて東京都の公立中学校に数学科教諭として赴任。自身の経験から「無意味なことを強制する理不尽な教師ではだめだ」という理念のもと、荒れた学校で型にはまらない授業を実践。教育委員会に赴任した際には「子供たちのためになる」を第一に掲げ、前代未聞の改革チームを率いた。現任校になってからは、「麹中メソッド」「オープンイノベーション」など、公立らしからぬ公立学校として注目を集める。著書『学校の「当たり前」をやめた。 ―生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革―』(時事通信社)がAmazonにてベストセラー。

日野田直彦(武蔵野女子学院中学校・高等学校校長) 1977年生まれ。帰国子女。帰国後、同志社国際中学・高校に入学し、当時の日本の一般的な教育とは一線を画した教育を受ける。同志社大学卒業後、2000年に馬渕教室入社。2008年奈良学園登美ヶ丘中学・高校の立ち上げに携わる。2014年大阪府の公募等校長制度に応じ、大阪府立箕面高等学校の校長に着任。着任4年で、海外トップ大学への進学者を含め、顕著な結果を出した。2018年より現職。著書『なぜ「偏差値50の公立高校」が世界のトップ大学から注目されるようになったのか!?』(IBCパブリッシング)がAmazonにてベストセラー。