教員の芽を育てる やりがいと楽しさを伝えて(下)

全国の小・中学校で教員不足が広がる中、教員志望者を増やそうと懸命の取り組みも各地で行われている。その中心は養成を行う大学と採用を行う教育委員会だが、一部の自治体では高校生の段階から教職のやりがいと楽しさを伝えようとする試みも進められている。教員の芽を育てる各地の取り組みを取材した。


中高7年間をかけて教員を育てる

2月28日、奈良県立平城高校(今西一盛校長)の修了証書授与式が行われ、「教育コース」最後の卒業生、11期生の3年生40人が巣立った。

同校の「教育コース」は2006年4月、全国的に特色ある学校づくりが進む中で、全国で初めて開設された。当時、教員の大量退職が予想されていたことを背景に、新規採用が増えることを見越しての試みであった。現在までに約440人が卒業し、一時は競争倍率が3倍を超える人気コースだったが、県教委は「将来、教員採用数の減少が見込まれる」との理由で、17年度入学者選抜から募集を停止していた。

加えて同校自体も、18年7月に可決された条例で閉校が決まった。跡地には、耐震化が必要な奈良高校が移転する予定だというが、「計画案発表前の段階で、保護者や生徒、住民に説明がなかった」「計画が性急で、閉校対象を選ぶ基準が不透明だ」とする批判が相次ぎ、計画撤回を求める約2万筆の署名が吉田育弘(やすひろ)教育長に提出された。奈良市議22人は、十分な説明がないまま計画が進めば教育行政への信頼を失墜しかねないとして、条例の議決延期を求める緊急声明を発表している。

奈良県立平城高校の今西一盛校長(中央)、森田好博教頭、稲垣雅代教諭

こうした批判はあるものの、現時点で同校を22年に閉校するという県の方針に変更はない。一方、同校の「教育コース」で学んだ1~6期生の多くが現在は教職に就いており、同コースが残した成果の証しとなっている。同コースを8年間担当し、現在はコース主任を務める稲垣雅代教諭は「例年、卒業生の約7割が教員養成系の大学へ進学し、そのうち約7割が教職に就いている。高校・大学の7年間をかけて学校の先生を育てたいという私たちの願いが形になった」と誇らしげに語る。

教職への期待を高める

同コースには、学年ごとに1年生「教育入門」、2年生「教育体験」、3年生「教育創造」という専門科目が置かれていた。目指したのは、小学校での現場体験や大学との連携を通して、「コミュニケーション能力」「考え見通す力」「踏み出す力」「基礎学力」「体力」などの育成を図ることだ。最後の卒業生となった11期生の歩みを振り返りながら、その成果を見ていきたい。

まず、入学直後には卒業生との交流会があり、卒業したばかりの8期生から話を聞く機会があった。終了後、生徒は「学校の先生という職業について深く知ることができる活動が多いと分かり、すごく楽しみになってきた」「小学校の先生だけではなく、中学校や高校の先生を目指している人もいることを知り、進路の幅が広がった」と語り、意欲を高めた。

5月には、初めての小学校訪問に参加。40人が8人ずつに分かれて5校を訪問し、授業参観、児童との交流などに参加した。生徒たちは、掲示物一つにも目的があることを知るなど、「教員の卵」としての意識を高めていったという。

同月、希望する生徒は小学校の運動会に参加し、運営の補助に当たった。具体的に、玉入れ競技でかごを支えたり、道具係の児童と共に競技の準備をしたり、テントや道具を撤収したりした。当時について岡田拓人さんは「児童と一緒になって応援し、感動を共有できたとき、教員の仕事の楽しさを知った」と振り返る。

8月には野外活動実習で、リスクマネジメントやレクリエーション活動について学び、1月には奈良教育大学で、県の教育課題について教職大学院の学生と討議。学校教育に関わる実践的な知見を高めていった。

使命感と責任感を実感する
小学校の運動会で教員を補助する生徒

2年生になると、学習内容はますます本格的になっていった。7月には奈良市が開催する「絵本ギャラリー」で、子供たちを相手にした絵本劇に取り組み、幕あいには読み聞かせもした。事前学習では大学教授から読み聞かせのコツを学び、小学校の現職教員から絵本を使った学級の環境づくりを教わるなど、現場で役立つ教育実践なども着々と学んでいった。

同じ頃、1学年上の3年生は「着衣水泳研修会」を受けていたという。学んだのは、水難事故に遭遇した際の、身の回りのものを用いた救助方法や、着衣したままでの泳法など、子供を水難事故から守る実践的な技能だ。こうした研修は水難学会などの取り組みで徐々に広まりつつあるが、高校生のうちに学ぶのは極めてまれで、同学会の関係者は「聞いたことがない」と話す。

11月には3日間連続で小学校インターンシップに参加した。生徒は1クラスに1人ずつ入り、始業から終業まで、朝の会・授業・給食・帰りの会・特別活動などの補助を体験。初めて「先生」と呼ばれながら一人一人の児童と触れ合った。「どの生徒も使命感や責任感を実感することができた」と稲垣教諭は語る。

卒業生の愛甲実久さんはインターンシップを振り返り、「多くの先生方から、さまざまな場面での児童への接し方や、先生として取るべき行動を教えていただいた。先生方の忙しさや大変さ、何より教職の楽しさを体で感じることができた」と話し、「教員を目指す意志を持ち続ける上で、このような体験ができたことが最も大きかった」と、その意義を語る。

「憧れだけではない」

3年生では、これまでの学習の集大成として教育研究論文の作成に取り組んだ。1人ずつ、「発達心理」「教育法」「家庭・地域教育」などから、関心の高い分野について研究活動を実施。奈良教育大学の各専門分野の教員から指導を受けながら、「効果が生かせる掃除とは」「音を定着させる英語教育」などの具体的なテーマを設定し、論文の執筆、成果発表などに取り組んだ。

卒業生の辻井奈緒さんは、「教育コース」だからこそ身に付いたことの一つに「プレゼンテーション力」を挙げ、「児童たちが楽しいと思う授業ができるのは、話し方やプレゼンテーション力で人を引き付けられる先生。そのことを学び、必要な力や知識を得ることができた」と語る。

また、岡田さんは「子供と触れ合い、教員への憧れが強くなった」としながらも、「憧れだけではやっていけないこと、教員の大変さをリアルに学んだ。その上で、子供たちに考えさせる力を身に付けさせられるような教員になりたいと、強く願うようになった」と話す。

今西一盛校長は「強制的に厳しく教え込むのではなく、小学校や大学などと連携しながら、丁寧できめ細やかに指導を積み重ねることが重要。コミュニケーション力やファシリテーション力など、教員に必要な資質・能力を高めることに重点を置いている」と語る。最後の卒業生を送り出す修了式では、一人一人に修了証書を手渡し、「向上心を忘れずに学び続けてください」とはなむけの言葉を贈った。

取り組みの継承を

上述のとおり、同コースはすでに募集を停止しており、同校の閉校も予定されている。稲垣教諭は「11年間の指導の蓄積を、今後何らかの形で生かしてほしい」と語る。

教員養成に関わる取り組みを高校生の段階からスタートさせる動きは、少しずつではあるが各地に広まりつつある。

千葉県では14年度、県立高校2校に「教員基礎コース」を開設した。現在はさらに2校を加えた4校で、教員としての基本的な素養を育む指導を展開している。他にも、県立高校全14校で、高校生が小学校を訪問する「お兄さん、お姉さんと学ぼう」事業を展開。授業補助や吹奏楽の楽器演奏の個別指導、読み聞かせなどに携わることで、教員を目指す意欲を養う考えだ。

平城高校がある奈良県では18年10月、教委が「県次世代教員養成塾」を開講。小学校教員を目指す県内の高校生を対象に、県教委と県内の6大学が連携して、6年間を通じた継続的なプログラムを実施していく。修了者には県公立学校(小学校)教員採用試験の「教職経験特別選考」に相当する受験資格が付与される予定で、全国初の試みだと県教委は述べる。

また長野県教委は18年12月、県内高校生を対象に、教員という仕事について伝える広報プロジェクトを開催。同プロジェクトで、県立高校で働く若手教員との交流に参加した生徒は「先生になりたい気持ちが強くなった」「こつこつと準備していきたい」と語る。

求人情報会社のアイデムが19年3月13日に公表した「高校生のキャリア観に関する意識調査」では、「高校生が将来なりたい職業」の1位は男女共に「小学校~高校の教師」だったという。教員に過重労働が強いられている現状において、いかに次世代教員の誕生の芽を育んでいくかは、教育界の大きな課題と言える。そんな中、教職のやりがいや楽しさを誰よりも知っている教員こそが、その魅力や社会的意義などについて伝えることができるに違いない。

(小松亜由子)