世界の教室から 北欧の教育最前線(19)「0年生」から始まる義務教育

2018年から、スウェーデンでは義務教育が1年伸びた。7歳から始まる基礎学校の前に、6歳児が1年間通う「就学前クラス」、いわば0年生が義務化されたのだ。プリスクールと小学校をつなぐこの学年には、どんな期待が込められているのだろうか。


遊びの中での学び

学習指導要領によると、就学前クラスの学習内容は主に5領域ある。言語とコミュニケーション、創造性と芸術的表現、数学的思考と表現形式、自然・科学技術・社会、遊び・身体活動・野外活動。各領域に主な内容が設定されており、さまざまな活動の中にそれらが組み込まれている。

例えば、ある就学前クラスでは、毎週木曜日の午前中は1年生と一緒に学校の裏山に小遠足に行く。さまざまな葉を拾って自然に親しみ、野外での遊びを学ぶ。教室に戻ると葉の絵を描き、木の種類を習い、文字で書く。一連の活動を、子供たちは楽しい遊びと認識していたが、異なる領域の多くの学習内容が含まれていることが分かる。

また別の時間には、アルファベットのLを学ぶ際に、Lがつく言葉を集めるだけではなく、身体やおもちゃなどでLの形を作ったり、ライオン(頭文字がL)の絵を描いたりした。 アルファベットの学習も、文字の読み書きだけではなく、広がりを持っていた。このクラスでは、アルファベットの学習に先立って韻をふむ言葉遊びを繰り返し行っていた。韻をふむ言葉を集めたり、作り出したり、リズムをつけた言葉遊びや言葉合わせゲームをしたりと、子供たちが言葉と音を楽しみながら学べるような活動が組まれていた。

学んだら増えるアルファベットの木

そのクラスにはスウェーデン語がままならない移民の子供もおり、上記の活動は難易度が高いのではないかと思われたが、リズムやゲームを楽しみながら参加していた。教師は、移民の子供も含めて、全ての子供が楽しんで参加できるように工夫をしていた。言葉合わせゲームでは、理解度別に組まれたグループが難易度の違うカードを用いるようになっており、教師も支援の度合いを変えていた。

スウェーデンの学校教育では全ての子供がそれぞれに必要な学習支援を受け、それぞれに合った学習を行うことが重視されており、就学前クラスも例外ではない。それがグループの活動の中で自然に行われていたことが印象的だった。

義務化の目的

実は、「就学前クラス」が学校体系に組み入れられたのは1998年だった。当初この1年間は義務ではなく、プリスクールに通う代わりに任意で選択でき、基礎学校につながる学習を行う学年として設定された。現実には多くの保護者が就学前クラスに子供を通わせるようになり、義務化前にはほぼ全ての6歳児が就学前クラスに通っていた。この点では、義務化は大きな変化や混乱をもたらさなかった。

変化したのは学習指導要領だ。それまで明確に定められていなかった就学前クラスの教育目標や学習内容が記され、基礎学校の3年次末に設定されている到達目標を念頭に置いて活動を行うことが明確になった。特に国語(スウェーデン語)は、基礎学校1年次末に期待される到達レベルが示され、就学前クラスからの評価や学習支援が必要になった。就学前クラスには、基礎学校の教育目標到達度の向上に寄与することが明確に期待されているのである。

これまで、就学前クラスの教育は担任教師の努力や工夫によるところが大きく、他の学年との連携が少ないという批判もあった。義務化の後に状況はどう変わっていくだろうか。これからの変化に注目したい。

(本所恵=ほんじょ・めぐみ 金沢大学人間社会研究域准教授。専門は教育方法学)