【工藤勇一×日野田直彦】さよなら、学校の前例主義(中)

公立校において、外部企業などを巻き込んだ「オープンイノベーション」なカリキュラムづくりを推進してきた東京都千代田区立麹町中学校の工藤勇一校長と、武蔵野女子学院中学校・高等学校(19年4月より武蔵野大学中学校・高等学校に変更)の日野田直彦校長。外部と連携する上で押さえるべきポイントや、予算を獲得するために必要なことを語ってもらった。(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)


企業と組んでも成功するとは限らない
――さまざまな「オープンイノベーション」に、お二方とも積極的です。外部の民間企業などと連携する上で、どのような工夫をされているのでしょう。

日野田 前任校の大阪府立箕面高校では、着任早々、大阪府が実施する「骨太の英語力養成事業」の指定校となり、TOEFLで成果を実証しなくてはいけなくなりました。ところが当時の箕面高校の英語教員は、TOEICでは満点の人もいましたが、TOEFLでは一番高い人で39点と、精通した人がいませんでした。そこで、大手英会話スクールのベルリッツに入ってもらい、TOEFL対策のための授業を共同開発していくことにしたのです。

ただ、ベルリッツの講師は、1対8程度の授業は得意でも、1対40の授業は得意ではありません。その点、教員は1対40の授業のスペシャリストです。40人を一斉に指導するのは、かなりの専門技能がいることなのです。

つまり、民間企業を入れたからといって、必ずしも成功するとは限りません。成功するには、一緒につくり上げていくための努力が必要です。

「企業と授業を共同開発することは、教員研修にもなる」と日野田校長

学校・企業間の連携を進めれば、企業側としては公立校と組むことで公的信用というお金に替えられない価値が手に入るし、広告にもなります。一方、学校側としては、企業と授業を共同開発する過程で、生徒や教員のスキルを高められます。

とはいえ、大阪府からの予算が月に5万円しかなかったこともあり、当初は何社にも断られ、ベルリッツにも門前払いを受けました。それでも、企業側が求める価値や、困っていることをどう解決してあげられるかを考え、プロジェクトの責任は校長が持つことを明確に伝えながら協議を重ねました。

たとえ予算がなくとも、お金以上の価値があると感じたら、企業側は協力してくれます。

工藤 日野田先生の言うように、「全ての人たちがWin-Winの関係になれるか」ということを、常に考えることが大切だと私も思います。企業にとっても、学校にとっても、教員にとってもプラスになるのか。もちろん、一番大切なのは子供たちにとってプラスになるかどうかです。

ただ、企業と組んでやるときに、目指すものや目的が企業側と学校側でずれていることがあるので、その点は注意しなくてはいけません。ずれていると感じたら、目標を擦り合わせるための対話が必要です。

企業との連携は丸投げになってしまいがちですが、同じ目標を持ってWin-Winの関係をつくるには、何度も対話を重ねることが必要なんです。

よく「麹町中はオープンイノベーションで、どんどん入れていますよね」と言われますが、ただ民間企業を入れればいいとは思っていません。実際、連携する企業はかなり吟味しています。

学校だけでカリキュラムを作るとズレていく
「外部と同じ目標を持ってWin-Winの関係をつくるためには、対話が重要」と工藤校長
――外部が入ってくるのを嫌がる教員に対しては、どうすればよいでしょうか。

日野田 私も日本史の教員なので、外部が入ってきていろいろと言われるのが嫌という気持ちはよく分かります。

前任校の箕面高校では、エキストラカリキュラムで実施したことを少しずつ通常授業に取り入れていく手法をとっていました。私もそうですが、誰かに言われてやるのは嫌なものです。でも、実際にやってみて生徒の反応が良かったら、教員も「自分の授業でもやってみようかな」と思うようになります。

外部の人が入って授業が良くなるという実感が湧いてきたら、「またやってみたい」と言う教員も少しずつ出始めます。

そうしたら、次はより良いプロトタイプを一緒に開発する。これをどんどん繰り返していきます。

工藤 本校がなぜ民間企業を入れているのか。それは、学校だけでカリキュラムを作っていると、時代からずれていってしまうからです。

公教育のカリキュラムは、時代からずれてしまってはいけません。その意味でも、常に内容をブラッシュアップしていく必要がある。でも、学校の教員だけでそれをしようとすると、とても苦労します。社会に開かれた教育課程を実現するためにも、カリキュラムは外部と一緒に作り上げていくようにしています。

企業と一緒に授業を作っていく過程で教員のスキルは磨かれ、わざわざ職場外で研修を受ける必要なんてなくなります。そうやって、教員が自然にスキルアップしていくような仕組みをつくり上げていくことが大切だと思います。

日野田 相手が大企業であっても、ベンチャー企業であっても、一緒にやるからには「こんな形で、こういうスタンスで、こういう人材を集めてほしい」など、本音をぶつけていくことが大切です。そうしたコミュニケーションを何回も繰り返すことで、われわれの哲学や教育理念を伝えられるのです。

良いプログラムはすぐにはできません。良いものを作り上げていくには、3年ぐらいはかかります。1年目は、完成度を3割程度にしてフィードバックをしながら、少しずつ組み上げていく。状況によっては方針を変えていきながら、今いる生徒たちに最適化させていくと良いでしょう。

また、より良いプログラムを作り上げていくためには、そのプロセスに生徒が加わり、プログラムにフィードバックしていくような仕組みを整えられたらベストです。10代の子供たちの感性は、すごいものがあります。共に作り上げていく過程を通して、子供が「本気でぶつかり合えば、大人はちゃんと良いものを作ってくれる」と思ってくれれば、相互理解にもつながっていくと思います。

ともに外部企業を巻き込んだカリキュラムづくりを推進してきた
教員はお金についてもっと勉強を
――外部との連携における予算の獲得は、どうされているのでしょうか。

工藤 予算を獲得するために知っておくべきなのは、行政の仕組みです。

各教育委員会で次年度の予算が認められるのは3月の議会です。そこから逆算して考えていくと、前年の9月には教委に学校の施策を出さなければいけません。

そのためには、夏休み中にアイデアを形にし、予算の見積もりを出し、実行するための経費なども調べておかなければいけない。行政がどのくらいお金が出せるかについては、アタックして感触をつかみながら、どのセクションと折衝するべきかも含め、見極めていくことが大事です。

ちなみに、私自身は本校着任1年目に、予算のための仕組みをA4で10ページぐらいにまとめました。

でも、多くの校長はこういうことに慣れていないので、やらないと思います。

日野田 私は箕面高校時代、学校会計を包み隠さず教員に公開していました。「今、こういう財務状況で、この程度しか予算が付いていないから、その範囲でできることを考えましょう」と。

要は教員に、「公立学校のお金の仕組みくらいは勉強してください」と、メッセージを送ったわけです。公務員として、予算の使い方や回し方が分からないというのは問題ですからね。

学校予算の獲得に際しては、予算の仕組みなどをきちんと理解した上で、教育委員会内部との調整を図ることが大切です。議会の開催時期から逆算して、教育委員会がどのタイミングなら困らないかも考えて計画を作っていけば、予算が通る確率も高まると思います。

(企画・構成 松井聡美)