【工藤勇一×日野田直彦】さよなら、学校の前例主義(下)

前例にとらわれない大胆な発想で、公立学校の「壁」を乗り越えてきた東京都千代田区立麹町中学校の工藤勇一校長と、武蔵野女子学院中学校・高等学校(19年4月より武蔵野大学中学校・高等学校に変更)の日野田直彦校長。教育のパラダイムシフトが起きつつある今、教育界のトップランナーである2人が見据える未来の教育とは――。これからの教員が持つべき資質や能力、自身のこれからのビジョンについて語ってもらった。(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)


新しい教員研修
――今の子供たちが生きていく未来は、これまでと大きく違ってきます。予測不可能な未来を生き抜く人材を育成するために、教員が持つべき資質や能力とはどのようなものでしょうか。

工藤 多様性を受け入れ、何かと何かをつないで新たなものを創造する。これから世の中は、そうしたことができる人間でないと成功できないように変わっていくと思います。

その意味でも、まずは多様性を受け入れる力を養うことが大事です。多様な考え方や価値観をしっかりと受け入れ、そこから何かを生み出したり、課題を改善したりする。そうした「非認知スキル」を自律的に伸ばしていける子供を育てなければなりません。

とはいえ、われわれ教員がそうした「非認知スキル」を言語化した経験を持っていません。これからの時代を生きていく子供たちを育てるためにも、まずは教員自身が「非認知スキル」を語れる人間になる必要があります。

そこで、本校では脳神経科学の専門家の力を借りながら、「非認知スキル」を言語化する能力を養う、新たな教員研修を始めています。

教育界のトップランナーが見据える未来とは
必要なのは「ワクワク人材」
――日野田先生は前任校の箕面高校で進学実績を飛躍的に伸ばし、海外トップ大学へ多数の進学者を出しました。「グローバル人材」をどう捉えていますか。

日野田 グローバルといえば、英語と思っている方もいまだに多いのですが、私自身は正直、英語はどうでもいいと思っています。

英語よりもまずは「Who are you?」に答えられるかどうか。これはハーバード大学の入試で必ず聞かれる質問です。もちろん名前を聞いているのではなく、どのような人間で「何がしたいのか」「世界にどれだけ貢献できるのか」を聞いているのです。

これからの時代を生きていく子供たちに必要なのは、自分の言葉で自分のことをちゃんとしゃべれること。相手の話をしっかり聞けること。相手の困っていることに対して一緒に考えてあげられること。困っている隣人に寄り添って、解決策を提案できる優しい気持ちなどだと思います。

そして、もう一つ、挑戦する気持ちが必要です。

私のキャリアのスタートは、塾の講師でした。恩師に「誰も行かないようなところに行け」と言われ、挑戦したのです。私は帰国子女なので、就職先の王道としてはインターナショナルスクールなどが挙げられます。あるいは、もともとITが専門なので、IT業界に就職した方が稼げたかもしれません。

でも、私はあえて未開拓の領域に挑戦し、そこで新しい価値を提供する道を選びました。

「グローバル人材」とよく言いますが、正直、そんな人はいないと思っています。個人的には、「グローバル人材」ではなく、「ワクワク人材」と表現したい。ワクワク・ドキドキし続ける人間が、今の世の中には求められているのです。

私が出す唯一の業務命令は「チャレンジしましょう」です。なぜなら、生徒は先生の背中を見ているからです。先生がチャレンジしてワクワクしているからこそ、生徒もワクワクするのです。

――武蔵野女子学院中学校・高等学校の2019年度の入学試験にも新しい「挑戦」があったそうですね。

日野田 本校の2019年度の入学試験では、定員の3分の1を「スカベンジャーハント入試」でとりました。いわゆる宝物探しゲームです。なぜそんな入試をしたかというと、ペーパーテストだけでは特定の学力集団が集まり、多様性がなくなってしまう可能性があるからです。

武蔵野女子学院中学校・高校でも新たなチャレンジに取り組んでいる日野田校長

世界では、「テストだけで成績をつけるのは止めるべき」という考えが当たり前になり始めています。しかし、日本はいまだにペーパーテスト重視の評価から抜け出せていません。

加えて、日本の学校の評価は、子供の成長率をほとんど認めていません。評価は子供の自尊感情を高めるためにするものなのに、現状はむしろ自尊感情をつぶしているような状況があります。

偏差値にも意味はあります。全てが悪いとは言いません。でも、偏差値だけでその子を判断するのは危険です。われわれ教員は、そうした危険性をはらみながら現場に立っているということを、もっと理解すべきです。

学校が変わったら、絶対に世の中は変わる
――最後に今後のビジョンを。

工藤 大げさに言えば、もっといい世の中にしたい。社会全体をもっと民主的にしたいと考えています。

今、多くの人が誰かの文句を言っています。例えば、政治に文句ばかり言っているのは、政治に参加しておらず、当事者意識がないからなのです。大人がそんなことだから、中学校を卒業した子供も「政治家になりたい」だなんて言いません。このままでは国が滅びかねないと危機感を持っています。

では、みんなが当事者意識を持った世の中は、どうしたらつくれるのか。鍵を握るのは、学校だと思います。

本校では、今、教員が学校経営に関わっています。さらに言えば、子供たちも関わっている。いずれも相当部分を委譲しており、組織改正も子供たちの手に委ねています。

「一人一人を当事者に変えていく仕組みを、学校の中につくり上げていく」と語る工藤校長

例えば、生徒会長が「来年、生徒会の委員会をなくしたい。全部ボランティアで成り立つような組織をつくりたい」と言っています。どうなるかは分かりませんが、子供たちがゼロベースで物事を考え出そうとしているのです。「自分たちの生活をよくするのは自分たちだ」と当事者意識を持つ子供が、出始めているわけです。

本校の子供たちには「目的のない行動に疑問をもて」と指導しています。だから、何においても「何のためにやっているのか」を言える子供たちに育っています。目的を明確にして行動し、多様な人と合意形成を図れる子供たちが育ったら、社会が変わる気がしないでしょうか。10年もたてば10年間分、そうした資質・能力を持った大人が社会にできるわけです。私の夢は、そういうことです。

学校が変わったら、絶対に世の中は変わります。だからこそ、学校を変えなくてはいけない。子供たち一人一人を当事者に変えていく仕組みを、学校の中につくり上げていくことが大切だと考えています。

日野田 私のプレゼンを聞いたことがある方はご存じだと思いますが、私の使命は「世界を救う勇者を育成すること」です。だから、プレゼンの最後の絵は『ドラゴンクエスト』です。

『ドラゴンクエスト』や漫画の『ONE PIECE』って、よくできています。登場人物が実に多様性に富んでいる。

これらの登場人物と同様、子供たちには、自分の戦いのフィールドで得意なことをやってくれたらいいと思うんです。これまでもさんざん生徒に言ってきましたが、たとえハーバード大学に行ける学力を持っていても、行きたくなければ行かなくていい。すし職人になりたいのなら、すし職人になればいいんです。その方が社会貢献につながります。

大きな社会を変えることは、誰もが難しく感じます。でも、自分ができる目の前の、いま最大限のこと、誰かのためにできることに取り組んでいれば、それが世界平和につながるのではないでしょうか。

そもそも日本には、松下幸之助氏や本田宗一郎氏のような、いい意味で突き抜けた人たちが数多くいました。現代の子供たちも、挑戦さえすれば、どんな世界でも活躍できる力を持っています。だから、もっと勇気をもって世界を冒険してほしい。そう強く思います。

(企画・構成 松井聡美)