海外に飛び出す人材を育てる(下)被災地のSGHとして

海外に飛び出すのに必要な力を養う、新たな取り組み――。被災体験を背景に、地域から世界に直接アクセスし、対話を通じて行動できるグローバルリーダーを育成しようとする、宮城県立気仙沼高校の取り組みを取材した。


被災地から世界へ

宮城県気仙沼市は、2011年に起きた東日本大震災で甚大な被害を受けた地域の一つだ。その中心部に、県立気仙沼高校(小山淳校長、生徒855人)がある。05年度に鼎(かなえ)が浦高と、18年度に気仙沼西高等学校と再編統合し、現在では市内唯一の普通科高校として、地域をけん引している。

11年度にはユネスコスクールに加盟。以来、国内外からESDの推進者を招き、学校全体でESDの視点を取り入れた探究型学習を実施している。加えて16年度には、文科省「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」の指定を受け、震災を乗り越えるグローバル人材の育成を目指して研究開発をしてきた。

他のSGHと異なる特徴は「協働型学習」「震災からの復興」という二つのプログラムを実践していること。地域から世界にアクセスし、対話を通じ復興に向けて直接行動できるグローバルリーダーの育成を図っている。

これらの活動が高く評価され、18年12月、横浜市で開催されたユネスコスクール全国大会で最高賞に当たる文科大臣賞を受賞した。

気仙沼高校の小山淳校長(左)と白幡充主幹教諭
震災発生による変化

小山校長は13年度、同校に赴任した。自身の母校でもあるといい、在学当時の思い出も踏まえながら、「長年にわたり地域の拠点校として活躍してきたが、交通の不便さから『陸の孤島』のような状態で、生徒は『井の中の蛙(かわず)』になりがちだった」と話す。

県内には政令指定都市の仙台市があるが、公共交通機関を使う場合は片道約2時間40分。仙台市などの他地域と容易に往復できるとは言いがたい。

「高校生がもっとも強く影響を受けるのは、同級生や少し年上の先輩。そういう存在と切磋琢磨(せっさたくま)し合いながら、自己のポテンシャルを高めていく。その機会が少ないハンディが、気仙沼高校の生徒にはあった」と小山校長は語り、東日本大震災はその状況を大きく変えるきっかけになったと話す。

「高校生にとって大きかったのは、支援に来てくれたボランティアの存在。若者層も多く、生徒にさまざまな刺激をもたらした」と語る。外の世界に気付かせただけではなく、「自分にも何かができる」という希望を持たせたという。

一方で、「『棚からぼたもち』のような状況を待っているだけではいけないと考えた」とも話す。「震災復興への支援はいずれ終わる。また、震災の経験を記憶として持つ生徒はやがていなくなる。今こそ、自ら行動できる生徒を育む仕組みをつくっておく必要があると考え、SGHとしての新たな取り組みに着手した」と語る。

LGBTをテーマに研究した成果を発表する気仙沼高校の生徒
大学をゴールにしない

「グローバルリテラシーを育む」と打ち出すに当たって難しかったのは、「高校が人材流出装置になるのでは」と懸念されることだったと、小山校長は語る。「世界につながる教育を受け、海外に飛び出していける力を身に付けても、心には常に故郷への思いを抱き続ける。そういった指導が理想だと考え、模索した」という。

そこで、SGHとして設定した研究テーマは「海を素材とするグローバルリテラシー育成」。気仙沼市が港町であることから、グローバル課題として「海洋問題」を中心とし、「海と防災」「海と産業」「海と人間」「海と文化」「三陸の自然」の五つの領域から生徒が選択して研究することとした。

重視したのは、地域課題を理解した上で、グローバルな思考によって課題解決を目指す研究にすること。研究の過程では、地域内の小・中学校や若者世代との交流を取り入れながら、海外連携校との相互訪問、インターネットによる交流を進めた。

加えて小山校長が必要だとした視点は、「外へ出ていくことが大事だからといって、『どの大学に入るかが重要』『大学で人生が決まる」などという誤った認識に陥らせないこと」だという。そのため、総合的な学習の時間などを通じて将来の進路設計力を養うこと、地域社会や世界規模で力を発揮する生き方を探究させることを学びの核に据えた。

「絵に描いた餅」にしない

SGH、そしてユネスコスクールとしての同校の取り組みは、生徒による研究が中心。それを取り巻くように、研究機関や大学との連携、米国や台湾などでの研修、海洋サミットなど外部での発表、ウクライナ、中国、フィリピン、ミャンマーなど、さまざまな国の人との交流といったプログラムがある。

中心となった研究企画部長の白幡充主幹教諭は「ただやみくもに外部と交流して満足するのでは、プログラムは絵に描いた餅になってしまう。交流によってどんな力を身に付け、その力を何に生かすのかを生徒自身が意識できるようになる必要があり、校長の理念の下、教員全員で働きかけた」と語る。

その成果について、SGH1期生となった18年度の卒業生と、これまでの卒業生とを比較し、「生徒が『何を学びたいか』『どんな活躍がしたいか』という視点で進路を決定するようになった」と説明。「小山校長が強調する『どの大学に入るかが重要なのではない。豊かに未来を生きることにつながる学びをしてほしい』という思いが伝わった」と話す。

3月16日に開催した「総合学習発表会」では、生徒が真に関心を抱くテーマで研究した成果を発表。2年生の男子生徒は、海外との交流を通じてLGBTへの理解促進の必要性を感じ、自ら啓発や差別解消を狙いとする教材を作成。さらに、教材を用いて説明した場合の理解度を検証するイベントを開き、教材など資料がある方が正確に把握してもらえると結論付けた。

白幡主幹教諭は「身近な課題解決から、SDGsの一つである『ジェンダー平等の実現』につながる好事例になった」と語る。

教育改革への期待

小山校長は19年3月で定年を迎え、教職を離れる。SGH1期生を送り出し、ユネスコスクールとして文科大臣賞に輝くなど、気仙沼高校にとって大きな飛躍の年となった18年度を振り返り、「22年度から国を挙げて本格化する教育改革の前に、これからの高校教育に求められる資質・能力を育む基礎を築くことができた」と話す。

展望として、「教員には日頃から『新学習指導要領をしっかり読み込んで』と伝えている。新学習指導要領は、これまで学校が成し遂げたかった教育の姿を文字化したもの。全ての学校、教員が、本気で実現に向けて取り組むべきだ」と強調。

また、これまでと異なり、新学習指導要領には多くの活動例が示されていることに触れ、「かつて教員は、実践すべき指導に到達するまでに10~15年を費やしていた。今は新学習指導要領を読めば学びとれる。それによって生み出される時間で、これからの教員がどのような新しいものを作り出すのか、今から期待している」と力を込めた。

(小松亜由子)