世界の教室から 教育先進国・フィンランド 第5回 フィンランドの幼児教育①

慶応義塾大学教授 今井むつみ

幼稚園事情

今回の訪問では、スウェーデンに近いトゥルク市の幼稚園を数園訪問することができた。

ここでは便宜的に「幼稚園」と呼ぶが、フィンランドでは、日本でいう保育園や幼稚園、認定こども園の区別はない。基本的には全てが公立だが、この頃はフィンランドでも公立幼稚園が不足気味で、私立幼稚園が開設されるケースもある。

しかし、保育料は国が補助しているので、公立でも私立でも保護者の負担は同じ。私立保育園も、国の教育のガイドラインにのっとって運営しているので、公立と私立で幼児教育の質が変わることもない。乳児期から希望する保護者は誰でも、子供を預けることができる。

なお、小学校への就学前の1年間は義務教育である。

先取りで読み書きを教えない

フィンランドの幼稚園は単に子供を「預ける」場所ではなく、教育をする場である。しかし、例えば、読み書きや英語など、小学校で学ぶことを先取りして教える場所ではない。7歳で小学校に入学するまでは、読み書きは教えない。

実際に、そのような「先取りの勉強」を就学前に教えることは禁じられていると、トゥルク大学のエルノ・レヘティネン教授から聞いた。それぞれの幼稚園は国が定めた教育のガイドラインを順守しながらも、教育活動には特色を持ち、保護者は幼稚園を選択できるようになっている。

私が訪問した幼稚園では、スウェーデン語で教育をしていた。フィンランドではフィンランド語が「国語」ではあるが、スウェーデン語も公用語である。フィンランド語が優勢ではあるのだが、スウェーデン語を覚えさせたいという保護者もいて、そんな保護者がこの幼稚園に通わせている。

しかし、ここでもスウェーデン語の習得は教育の第一目標ではない。教職員に話を聞いたところ、この幼稚園で最も大事にしていることは、「寒さに負けない丈夫な身体を育てる」「独立心を育てる」「学びに向かう態度を育てる」の三つにあることが分かった。

園庭には既成の遊具はほとんどなく、ブランコなども子供と教師たちが丸太とロープを組んで自作したもので、なんでも自分で工夫して作ることを実践していた。それは、フィンランド人共通の価値観でもある。

子供たちが幼稚園にいるほとんどの時間は屋外で過ごすそうだ。訪問した時期は9月だったので、戸外で過ごすには快適な季節だったが、冬はどうするのか聞いたら、零下20度になる冬でも、毎日必ず外で遊んだり、森に出掛けたりするそうだ。

「寒い中で暮らすのだから体を慣らさないとね」と、教師たちは特に気取ることなく答えていた。

幼稚園で子供たちが作った作品
子供が活動テーマを決める

もう一つ印象に残ったのは、可能な限り子供たちに選択させていることだ。フィンランド国民が最も大事にしていること、それは多様な価値観を共存させ、多様な選択肢の中から一人一人が自分で選び取り、その選択に責任を持つことだ。

その価値観は視察した幼稚園でもうかがえた。この幼稚園では、毎週金曜日の午後に、教師と子供たちで次週の活動テーマを話し合う。子供たちが決め、教師はそのテーマでの1週間の活動プログラムを週末に考える。自分たちでやりたいと決めたテーマだから子供たちも全力で取り組む。

アート作品をつくるのでさえ、媒体はクレヨンだったり、色鉛筆だったり、水彩だったり、粘土だったり、子供たちが自分でそれぞれ好きなものを選ぶ。自分で考えて選択し、それに対して責任を持つことを幼児期から訓練していて、本当に感心した。

この幼稚園視察を通じて、教師たちのレベルの高さとプロフェッショナリズムに舌を巻いた。これについては、次回に紹介しよう。