教育の情報化の「次の一手」(上)中川放送大学教授に聞く

2020年度から小学校の新学習指導要領が全面実施され、プログラミング教育がスタートするなど、教育の情報化が大きな転換期を迎えている。学校現場がこうした課題に対応するための「次の一手」について、文科省「教育の情報化に関する手引」作成検討会の委員などを務める中川一史放送大学教授に聞いた。第1回ではプログラミング教育の必修化をテーマに、「待ったなし」の状況にある現場の壁を浮き彫りにする。


プログラミング教育の骨格を示せ
――プログラミング教育をブームに終わらせないために、必要なことは何か。

確かに、今はプログラミング教育への熱が上がりすぎている。ちょうど2000年ごろに「総合的な学習の時間」への期待が高まったのと似ている。しかし、プログラミング的思考は情報活用能力の一部にすぎず、ブーム化しているプログラミングとプログラミング教育の大事にしている部分は異なる。一過性のブームに終わらせないためにも、各学校がプログラミング教育の骨格をしっかり示す必要がある。

新学習指導要領における小学校のプログラミング教育は、コーディングを習得するのが目的ではなく、教科・領域の狙いを確実なものにするために実施するという大前提がある。

その中でプログラミング的思考や日常生活の中に組み込まれているコンピューターについてどう学ばせるのか、各学校が教科・領域横断的な視点でカリキュラム・マネジメントすることが重要だ。

小学校よりも中・高の方に懸念
――プログラミング教育は小学校の必修化が注目されがちだが、中学や高校でのプログラミング教育の課題は何か。

小学校でこれだけプログラミング教育をやる以上、中学校や高校ではそこに積み上げていくものでなければならない。小学校と同じような内容ではまずい。

私は現在、文科省で高校の情報科の新学習指導要領に対応した教員向け研修資料の作成にも携わっているが、高校の状況をみると、小学校のプログラミング教育よりも何倍も懸念がある。

現行の学習指導要領では、高校の情報科は「社会と情報」と「情報の科学」の必修選択となっていて、後者にはプログラミングの内容が入っているが、前者には入っていない。そして、現在の選択比率はおおむね、「社会と情報」が8割、「情報の科学」が2割で、単純化して捉えれば高校生の2割しかプログラミングを学んでいない。

中・高のプログラミング教育の課題を指摘する中川教授

一方、新学習指導要領では、必履修となる「情報Ⅰ」で四つの領域のうち一つにプログラミングが位置付けられるので、どの高校生もプログラミングを学ぶことになる。問題はそれら高度なプログラミングを、高校の情報科の教員が教えられるかだ。

中学校の「技術・家庭」の技術分野では、制御の中でプログラミングを教える内容が充実した。しかし、こちらも教員によって重視する領域が異なったり、そもそも時間数が少なかったりする点に、懸念がある。

中学校では「プログラミングは技術分野でやればいい」という風潮がある。そのため、数学や理科など他教科でのプログラミングの取り扱いは、ほとんど手つかずと言っていい状況だ。

しかし、情報活用能力の一部にプログラミング的思考が含まれている点は、小学校も中学校も変わりない。学級担任制の小学校でしっかりプログラミングに触れても、教科担任制の中学校で教科によって扱わないようでは、プログラミング的思考は育たない。

現状、ICT環境の整備やプログラミング教育への対応で、自治体間・学校間の格差が生じてしまっている。地域や学校によって子供が受けられる情報教育に差が出ることは避けなければならない。現状の格差をどう埋めるかが喫緊の課題だ。

オンライン講座でプログラミング研修
――プログラミングを学ぼうという、教員のニーズへの対応は。

自治体や学校の危機意識が年々大きくなっているのを、肌で感じている。意識の高い自治体はプログラミング教育の担当者を置き、研修やモデル校での実践を始めているが、中には担当者すら決まっていない自治体もあると聞く。

小学校のプログラミング教育は必修なので、新学習指導要領で例示されている教科では、教科書にも載ることが予想される。そうなると、教員や学校によって「やらない」というわけにはいかなくなる。したがって、プログラミング教育への対応はどの教育委員会、どの学校、どの教員もしっかりと対応していかなければならない。

そんな中、自ら希望してプログラミング教育の研修を受けようとする教員も増えているが、地域によっては対応が遅れていたり、研修の場を確保できなかったりしている。

「プログラミング教育プラン」のオンライン講座の一場面

こうしたニーズに対応するため、放送大学では、5月中旬から主として教員向けのオンライン講座「プログラミング教育プラン」を開講する。放送大学としては初めて、単位科目ではない形で開設する新しいタイプの講座だ。クレジットカードやコンビニでの決済が完了すればすぐに視聴でき、受講開始時期も問わず、オンラインなので教員が学びたいタイミングで受講することができる。

講座では、小テストで学習内容の定着を図り、最後に修了試験に合格すれば、修了証が交付される。教員個人だけでなく、教育委員会や学校単位など団体での受講も可能だ。まずは小学校編として「Scratch」を使った指導法の講座を開設するが、今後は中・高の教員向けの講座も開設していく。

(藤井孝良)

※「プログラミング教育プラン」の詳細は放送大学ホームページで確認できる。


【プロフィール】

中川一史(なかがわ・ひとし) 放送大学教授。小学校教員、金沢大学助教授などを経て現職。専門はメディア教育、情報教育。文科省の「デジタル教科書」の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン検討会議、「教育の情報化に関する手引」作成検討会などの委員を務める。著書に「小学校プログラミング教育の研修ガイドブック」(翔泳社刊、監修)、「学びの資質・能力―ラーニング・トゥ・ラーン―」(東洋館出版社刊、共著)など多数。