教育の情報化の「次の一手」(下) 中川放送大学教授に聞く

教育の情報化が今、大きく進化しようとしている。プログラミング教育やデジタル教科書の活用など、学校現場が対応すべき課題が山積する中、各学校や教員は「次の一手」をどう打つべきなのか。文科省の「教育の情報化に関する手引」作成検討会の委員などを務める中川一史放送大学教授に、学校への戦略的なICT導入のポイントを聞いた。


活用、環境、スキル、制度の連動
――小学校の新学習指導要領の全面実施を前に、教育の情報化を進める際のポイントは。

キーワードは四つある。一つ目は学校でのICT活用促進、二つ目はそのための環境整備、三つ目は教員や児童生徒のスキル向上、そして四つ目は制度の問題だ。この活用、環境、スキル、制度の四つが連動して機能しない限り、教育の情報化は進まない。どれか一つが欠けても駄目で、有機的に連動しながら大きくなっていくイメージだ。

例えば、小学校のプログラミング教育が必修化され、デジタル教科書の導入が法制化されたことで、行政が「1人1台」の環境整備を進めれば、おのずと活用が進み、子供たちのICTスキルも高まる。ところが、この連動がうまくいっていない自治体では、学校側は「ICT機器がないから何もできない。活用できない」、行政側は「活用していないから整備していない」と言い、悪循環になってしまっている。

新学習指導要領では、小学校でプログラミング教育が必修化され、全国どの自治体でも対応は待ったなしの状況だ。しかし、学校のICT環境が異なる中で、次の一手をどこに打つかは自治体によって違ってくる。

教育の情報化を進める上で連動する、四つのキーワードの関係

ICT環境の整備が遅れている自治体は、教育委員会が首長部局に現状弱い部分を示し、「うちはこれでいいのですか」と強くアピールする必要がある。

環境整備の面では、今後取り組んでいくべき課題はクラウド化だ。

例えば、学習者用デジタル教科書を導入する際、誰がどうやって1台に何冊もの教科書データをインストールするのか。データを人海戦術で1台ずつインストールしたり、教育委員会や学校のサーバーで管理したりするなどのやり方では、規模が大きい自治体ほど、人もネットワークも早々に限界を迎えてしまうだろう。

「スムーズな活用」が目指す先
――タブレット端末を導入する学校も増えてきた。その課題は。

タブレット端末への最大の抵抗勢力は、紙のワークシートやノートだ。紙は学校にいくらでもあるし、電源も不要だ。それに対しタブレット端末は、現状は一般的な学校には1クラス分の40台程度しかなく、授業が終われば返却しなければいけない。そういった視点で比較されてしまい、「紙でできるのに、なぜタブレット端末を導入するのか」となってしまう。

しかし、タブレット端末は本来、「動的なツール」のはずで、動画を見たり、子供たちの考えや意見を共有したりする点では、とても優れている。そうした効果的な活用法を理解した上で使っていく必要がある。

私が視察した学校の中には、千人以上の子供に40台しかタブレット端末がないところもあった。その学校では、教師に1台ずつ持たせるようにして、授業で活用していた。また、各階に10台ずつ置いて、授業でのグループワークで使えるようにしている学校もある。「1人1台」を拙速に整備すれば、教師や子供が戸惑ってしまう。これらの事例のように、段階的に浸透させていく考え方も重要だ。

そうしてICTを活用する場面を増やしていけば、子供たちの情報活用能力は高まる。身に付けさせるスキルは、単なる機器操作の技能のみならず、授業で「流ちょうな活用」が図られることを目指したい。

現状、多くの学校は、教師が指示して一斉に端末を使ったり、しまったりしているのではないか。以前、タブレット端末を導入したばかりの学校で、端末に触りたがる子供たちに教師が「今は見る時間じゃないでしょ」と注意ばかりしている場面を目にしたこともある。

「スムーズな活用」が目指す先にある授業風景は、子供たちが自分で判断し、授業の中で必要な時に取り出して使えるような光景だ。それが実現すれば、現在のように子供たちに同じ操作を一斉にさせ、全体を把握しようとする教師の指導は実態と合わなくなってしまうだろう。

教師には、ICT機器の活用スキルを含めた指導力が問われるようになる。

「段階が必要」と話す中川教授
ICTで授業は変わるのか
――ICTによって、これまでの授業モデルは通用しなくなるのか。

昔は学校にあって家庭にない物がたくさんあったが、現在は多くの家庭にスマートフォンやタブレット端末がある。そんな環境があるから、学校と家庭が連動したICT活用の可能性が広がっている。ICTによって、授業の進め方は大きく変わるだろう。

文科省では、子供の安全対策という側面から、スマホの学校持ち込みの解禁を検討している。画面サイズやネットワーク、使用者側が自前で機器を購入するBYOD(Bring Your Own Device)の問題を検討しなければならないが、将来的には、授業の中でのスマホの活用も考えられるかもしれない。

ただ、ICTを導入したからといって、授業をいきなり大きく変えるのは危険だと考えている。

最初はデジタル教科書で教師が指示した箇所を、子供たちが一斉に線を引いてみるところから始めてもよい。そうして、紙の教科書と変わらないという安心感を持たせた上で、次に子供たちがおのおのの判断で線を引き、引いた箇所の違いを教師が取り上げてみる。

さらには、同じタブレット端末を使っていても、子供によって書き方やまとめ方が違って構わないようにする。

そして最後には、授業の中でデジタル教科書を使っている子供もいれば、紙の教科書を開いている子供もいるようにする。

このように、段階を踏んで活用を図っていかないと、子供たちは混乱するだけとなるだろう。

(藤井孝良)