~心の声、気付いてよ~ 子供に寄り添うWYSH教育(中)

いじめ防止や学力向上など、さまざまな教育効果をもたらしてきたWYSH教育。京都大学学際融合教育研究推進センターの木原雅子教授は、各学校が抱える問題に正面から向き合い、科学的根拠に基づくオーダーメードの授業を行ってきた。具体的にどのような授業が行われているのか、実際の授業例や組み立て方に迫った。


子供が変わるきっかけを与える出張授業
――出張授業について、具体的に教えてください。

例えば、ある地方都市の小学6年生には「周りと心でつながろう」をテーマに、スマホの使用について注意喚起を促す授業を行いました。

リアルな人間同士の関わりが希薄化する中、IT機器の普及がそれに拍車をかけています。子供から大人へと変化する思春期に、機械を通した交流と対面での交流との違いを、時代比較や体験学習を通して感得させ、IT機器の適切な使い方や人間関係の大切さに気付いてもらうことを目標に据え、授業を組み立てました。

また、私が約2年間にわたって関わったある地方の中学校は、「授業が成立しない」という悩みを抱えていました。子供たちは勉強が嫌いで、学力も低く、先生に対する反抗的な態度も頻繁に見受けられました。

そこで、まずは学習できる授業環境を整えるべく、「思春期のこころ学」という授業を行いました。

第二次性徴における身体と心の変化について説明し、「先生に反抗的な態度をとったり、ムカムカして友達に嫌なことを言ってしまったりするのは、あなたの性格が悪くなったわけではなく、ホルモンのせいなんだよ」と心の逃げ道をつくってあげたのです。

その上で、グループワークを通じて授業環境を改善するための方法を考えてもらいました。

また、ある高校では「人生の歩き方」をテーマに、目標を持ち、自立・自律した生徒を育成するための授業を行いました。

高校生の多くが、「目標がない、見つからない」といった悩みを抱えています。ごく普通の家庭環境にあっても、明確な目標を持てず、非自立的に毎日を送っている生徒が少なからずいます。この学校の生徒も、事前調査から自尊心が低く、精神的に幼く、活動意欲が低い状況がありました。

そのため、身体編として性教育を、就職編として面接シミュレーションや就職シミュレーションなどを行い、自分の生き方を考えるきっかけを与えました。

各学校に合わせたオーダーメード授業を行っている
問題の背景にあるものは何か
――各学校に合わせたオーダーメードの授業は、どのように作っているのでしょうか。

当然のことですが、出張授業を希望してきた時点では、学校のことや児童生徒のことを全く知りません。

そこで、まずは授業実施の1~2カ月前に、実施校の先生方に児童生徒の様子を詳しくインタビューします。校長先生、担任の先生、学年主任、生徒指導主事、養護教諭など、なるべく多くの先生から、子供たちの「良いところ」と「気になるところ」を聞き出します。

また、実際に教室に入って子供と同じ立場で授業を受け、子供たちの様子や先生との関係性などを観察します。

さらには、アンケート調査とインタビュー調査を行います。インタビュー調査は、問題を抱えている子供を中心として行います。つまり、学校全体像を知るためのアンケート調査、その問題の背景を知るためのインタビュー調査です。

それらの事前調査結果を分析し、その学校や子供たちが抱える問題を浮き彫りにします。

問題の背景にあるのは、家庭環境なのか、自尊心の低さなのか、学力面の問題なのか。それらを見極めた上で、子供たちに一番必要な授業は何かを考え、「授業の目標」を決めます。

そして、その目標に到達するために、子供たちが興味関心を持って取り組めそうな教材を選ぶなどして、授業の基本骨格を作っていきます。

こうした授業づくりを約1~2カ月かけて行いますが、多忙な学校の中には、オーダーメードの授業を実施するのが物理的に難しい場合もあることでしょう。そうした学校は、「日本こども財団」のホームページでさまざまなケースの事例集を販売しているので、ご活用いただきたいと思います。

授業はWINGSという四つの部分で構成されている
重要なのはグループワーク
――WYSH教育の授業は、具体的にどのような形で構成されているのでしょうか。

基本的にWINGSという四つの部分で構成されています。①Warm up(導入)②Information(主要講義)③Group work(グループワーク)④Summary(まとめ)――です。

①Warm up(導入)では、児童生徒をリラックスさせるとともに、授業に参加するモチベーションを高めます。例えば、主要講義の内容と関連するクイズやゲームで生徒の興味を引き、自然に移行できるようにします。

②Information(主要講義)では、授業で伝えたい主な情報をPPT資料や、DVD、教科書などを用いて簡潔に伝えます。

四つの部分の中でも特に重視しているのが、③Group work(グループワーク)です。活動が円滑かつ活発に進むよう、演出やグループ編成も工夫します。

例えば、「特別な授業=大切なことを考える授業」という雰囲気をつくるために、机の上にテーブルクロスを敷いたり、花を飾ったりします。1グループは全員が発言しやすい5~6人とし、各グループに「プラスワンの椅子」を置いて、机間指導の際は子供たちと同じ目線の高さで講師が児童生徒と話ができるようにします。

④Summary(まとめ)では、私はよくメッセージビデオを上映します。大人の長々とした説教じみた言葉は子供には届きません。子供たちに本当に伝えたいことをすてきな音楽に乗せて、映像と短い言葉で伝える方法をとっています。ビデオの制作が難しい場合は、簡単なスライドショーなどでも代用できます。

荒れている中学校では、ちょっとだけ人生の先輩である高校生から「中学生の頃の自分を振り返って、こんなことはやめた方がいい」「これだけはがんばっておくべき」といったビデオメッセージを作成し、上映することもあります。

また、授業の最後には、必ず児童生徒に感想を書いてもらいます。「授業を受けて心に残ったことは?」「今後どのように生きていきたい?」など、自分の気持ちを文章化することによって、心の中を整理する時間を設けるのです。

グループインタビューで信頼関係を築く
――インタビューで、子供たちの本音を引き出すコツはありますか?

最初から一対一で本音を聞き出そうとしても、子供は話してくれません。子供が心理的に対等だと思えるように、インタビューはまず数人のグループ単位で行うとよいでしょう。

例えば4人グループでインタビューすれば、言いたくない、答えたくない質問の時には黙ることができます。「黙っていられる自由」があるからこそ、気楽に話せるわけです。問題を抱えていそうな子供も、本音を語り合える友達と一緒なら話してくれることもあります。

話題も、「好きなことベスト3」など、楽しい話題から入ります。好きなものについて話すとき、子供は生き生きとします。その子の表情が輝くのは、何を話しているときなのかを見つけられれば、その子を理解する糸口がつかめます。

最大のポイントは、常にその子の“良いところ”を見ようとすること。そうすれば、心を開いてくれます。

子供の気持ちがほぐれてきたら、嫌いなものや、困っていることを順々に聞いていくようにします。困っていることだけをいきなり聞く場合と違い、多くの生徒は本音で話してくれます。

グループでインタビューすると、子供と先生の間に信頼関係が芽生えます。そうして子供が「この先生は話せる先生だ」と思うようになれば、何か問題を抱えたときに1人でも相談しに来るようになり、個別指導の糸口がつかめるのです。

最終回では、木原教授が展開する性教育や、明日からできる「子供の自尊心を高める実践法」について聞く。