【木村泰子×住田昌治】「脱ブラック学校」 カラフルな教育が子供を変える(中)

外国籍で日本語が不十分だったり、貧困や虐待など問題を抱えていたりなど、多様なバックグラウンドを持つ子供たちにとって、学校は安心できる場になっているのだろうか。木村泰子氏(大阪市立大空小学校初代校長)と住田昌治氏(横浜市立日枝小学校校長)による対談の第2回では、全ての子供たちにとって有意義な学びを実現するために、学校や教員に何が必要なのかを語ってもらった。(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)


多様な背景を抱えた子供たち
――近年は外国籍の子供も急激に増えています。多様なバックグラウンドを持つ子供たちが学校に来ているわけですが、このような時代において、学校にはどのような役割が求められているのでしょうか。

住田 本校は外国籍の子供が増え続けており、現在は3割近くに達している状況です。横浜市内には、子供の半数以上が外国籍という学校もあります。これから先、全国的にもそうした状況が広がっていくのではないかと思っています。

親の都合で日本に来て、言葉が通じなければ、文化も全然違う。学校がどんなところかさえも分からない。外国籍の子供の多くは、そのような状態で学校に来ています。中には、日本に定住予定の子もいますが、そうなれば近い将来受験もするし、社会に出て働くことも必要になってきます。今後、こうした子供たちの学習権をどう保障していくのか、大きな課題になってくるでしょう。

本校の近くにはDVシェルターがあります。こども食堂もたくさんある地域です。これは本校だけに限りませんが、子供の背景にある家庭の問題というのも、大きな社会的課題となってきています。両親の仲が悪く、いつもけんかばかりしている。そういうことを抱えた子供が多くなってきている実感があります。

全ての子供にとって学校は安心できる場になっているのか

このように、子供が背景に抱える課題は以前よりも多様化してきています。本当にさまざまな背景を抱えた子供たちが学校には来ているんです。そうした子供たちが「学校に行けば楽しい」「学校には自分の居場所がある」「学校には支えてくれる人がいる」と思えるような場を、いかにつくっていくか。それが、これからの学校にとって大きな課題だと思います。

今は社会全体が持続不可能になっていって、住みにくい、生きづらい世の中になっていっているのではないでしょうか。学校がそうした社会の縮図になってはいけません。学校は持続可能な場であるべきで、それが地域や社会に広がっていくようなことが望まれます。

そのために、教員はもっと地域や社会とコミュニケーションを取りながら教育活動を展開していかなければなりません。学校はどんな場で、どんな空間であるべきなのかを、もっと皆で議論していく必要もあります。

指示、号令をなくすと主体的な子供が育つ
――多様化が進む中、子供たちの学びを組み立てていく上で、どのような配慮が必要でしょうか。

住田 子供たち一人一人に、他者との違いを受け入れていくような学びが必要だと思います。違うものを排除するとか、受け入れないということではなく、「違うものとどう向き合っていくか」という視点が、今の学びにはありません。

これから先、子供たちは多様な人と関わりながら、一緒に生活したり、仕事をしたりしていくことになります。そのためには、多様性のある学びが必要で、そうでなければ社会に出て働けない人間に育ってしまうでしょう。

「子供が背景に抱える課題は以前よりも多様化してきている」と住田校長

木村 「多様な学び」とは、一言で言えば「正解のない問いを問い続ける」ことだと思います。これが学校の学びであるべきで、この学びになれば、必然的に「多様な学び」になるんです。

以前、ある学校で道徳の授業をしてほしいと頼まれて、やらせてもらったことがあります。その際、子供たちに「今からいろいろ一緒に考えたいのだけど、正解なんてどこにもないから、正解のない問いを考えようね」と言いました。そうしたら、子供たちが「正解がない?そんな勉強、学校でしてもいいの?」と言うわけです。

また、授業後に私の授業を見ていた先生たちが、私と子供たちの45分の関わりを見て、とても驚いたことがあると言いました。それは「指示、号令が一度もなかった」ということです。

そんなことは、私にとっては当たり前です。指示、号令の下に動く子供を育てていたのでは話にならないからです。

例えば、「主体的な子供を育てよう」と言いながら、学校には「廊下は走ってはいけません。右側を通行しましょう」といったルールがあります。でも、先生の言う通りに「右側を歩く子供」を育てていて、主体的な子供が育つでしょうか。

「右側を歩く」というのは、正解です。なぜ右側を歩くかというと、人とぶつからないためです。でも、そうした目的抜きに「右側を歩きなさい」と指導をしてきた過去を断捨離しなくては、主体的な子供は育ちません。

指示、号令に慣れている子供たちは、常に「指示待ち」の状態です。教員が指示を出さなければ動きません。一方で、先生の指示、号令をなくせば、子供同士が必然的につながって、主体的に動くようになるのです。指示、号令をなくす真の目的は、子供と子供をつなげることです。

真面目な話を気軽にできる場
「多様な学びとは、正解のない問いを問い続けること」と語る木村氏

住田 木村先生の話を聞いた人の多くが、「うちの学校、学級でもやってみよう」と思うでしょう。でも、実際はできない。

木村  なぜですか?

住田 そこが問題なのです。「やってみよう」とは思うけど、実際には一歩を踏み出せていない。今までやってきたことをやり続けてしまう。子供たちを付き合わせているな、やめたほうがいいな、とは思っているのですが。

担任制をやめて、担当制にする。指示、号令を一切やめる。実際にそうした学校が増えていけば、子供たちが育っていくだろうと思います。

木村 そこだけでも変えたら、他も大きく変わるんです。「気をつけ、前へならえ」を全校生徒に課している学校文化。これで本当に、子供たちが認め合える、カラフルな学校になるのでしょうか。

住田 いや、ならないですよね。

木村先生は実際にそうした実践を通して、子供が育っていることを実感している。問題はその一歩を踏み出せるかどうかです。それがないと、子供は育たない。一歩踏み出すには、何が必要なのでしょうか。

木村 みんなでやればいいんです。1人ではできないから、職員室のみんなで「どう思う?」と問い直す営みを重ねていく。そうすれば、徐々に変わっていくと思います。

実際、大空小では毎日子供が帰った後、職員室に教職員が集まって、お茶を飲み、お菓子を食べながら、「うまくいかない」「どうやったらいい?」と雑談ばかりしていました。普段、常に話し合っているから、会議も月1回の職員会議だけ。会議をする必要がなくなるんです。

住田 つまり、大空小には「真面目な話を気楽にできる場」があったということですね。

悩んでいることやうまくいかないことを、みんなで話し合う。その際は、必ずしも課題や悩みが解決しなくてもいいし、答えが出なくてもいい。そうやって「自分たちの学校づくりのための場」を設けることで、最初の一歩を踏み出せるのかもしれませんね。

(企画・構成 松井聡美)


【プロフィール】

木村泰子(きむら・やすこ) 大きな反響を呼んだドキュメンタリー映画「みんなの学校」(2014年公開)で知られる大阪市立大空小学校の初代校長。同校では「すべての子供の学習権を保障する」という理念の下、教職員や地域の人たちと共に、障害の有無にかかわらず全ての子供がいつも一緒に学んでいる。退職後は、全国で講演活動などを行う。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」をつくるために』(ともに小学館)など。

住田昌治(すみた・まさはる) 2017年度まで横浜市立永田台小学校校長を務め、18年度より同市立日枝小学校校長。2015年度に「もみじアプローチ」の実践でESD大賞小学校賞を受賞。学校組織マネジメントやサーバントリーダーシップ、働き方改革の研修講師や講演、記事執筆等を行い、元気な学校づくりで注目されている。ユネスコアジア文化センター事業推進委員、未来への風プロジェクトメンバーほか。著書に「カラフルな学校づくり」(学文社)。

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