校則をなくす発想の源泉 西郷孝彦校長に聞く(上)

校則をなくし、チャイムは鳴らさない、スマホやタブレット端末の持参OK、定期テストは小テストのみに――。公立校でありながら大胆な学校改革を進める、東京都世田谷区立桜丘中学校。西郷孝彦校長にインタビューし、学校経営の発想の源泉に迫った。


校則をどうなくしたか
――来るときに生徒たちとすれ違いましたが、高校生のような雰囲気です。髪型や上着にそれぞれの生徒の個性が表れていて、それでいて派手なわけでもない。いつ頃から、どうやって校則をなくしたのですか。

僕は9年前、ここ(桜丘中)で初めて校長になりました。60歳になっていったん退職してから1年ずつ再任用を繰り返して、いま64歳です。着任したときこの学校は荒れていて、力で押さえ付ける指導をしていたんだけれど、そのやり方を僕は違うなと思いました。

最初は、決まりを一つ一つ見直していきました。例えば「靴下の色は白」と決まっていたけれど、「どうして白じゃないとダメなの」と生活指導の先生と話をする。「白は汚れがすぐ分かる」と言われれば、僕は「紺は汚れが目立たなくていいんじゃない」と言う。

セーターも紺色と決まっていたのを、「黒はどうしていけないの」と聞いて、「じゃあ黒はOKにしましょうか」ということになって。

そうやって本当に少しずつ変えてきました。一度にポンと校則をやめたわけではないんです。

いま20歳になる卒業生の代の生徒会役員だった子が、活発で面白くてね。この4月から世田谷区の全中学校で導入される「カジュアルデー」も、その子が本校で始めた「カジュアル・スタイル・デー」が基になっています。これは月に一度、土曜登校の日は私服で来ていい、というもの。「あまり華美にならないように」という条件付きで、当時の先生たちがOKしました。

やってみたら、学校という空間がちょっとアートになるんです。それまでみんな制服だったこともあり、私服を着てくると日常と違った不思議な雰囲気になる。カラフルだし個性もあります。その中で、絶対に私服は着ずに、必ず制服を着てくる子もいたりする。

それで、先生たちも違和感がなくなったんです。それまではスカート丈は何センチとか、制服をきちんと着させなければいけない、ということに力を注いでいたけれど、私服で学校に来る子供たちを見たら、「なんだ、これでも大丈夫なのか」と分かった。それで、服装の規定はだんだん緩んでいきました。

ユニバーサルデザインの考え方
――校則をなくしても大丈夫であることを、少しずつ確認しながら進めてきたんですね。なぜ、なくそうと思ったのでしょうか。
「インクルーシブ教育の考え方が大きく影響している」と話す西郷孝彦校長

インクルーシブ教育の考え方も大きく影響しています。一般の子供たちは校則がだんだん緩くなって、私服で来たりするようになり、学校が楽しくなってきたのだけれど、発達障害のある子供たちはそれでも楽しくありません。コミュニケーションがうまく取れなかったり、勉強ができなかったりするので。

そういう子たちは、口では「勉強なんかできなくてもいいや」と言いながらも、本当は違うんです。

話をしていると「よく朝起きるとき、頭がよくなって勉強ができるようになった夢を見る」なんてことを言う。だから、そういう子たちにも分かりやすい授業をしなければいけないと思ったんだけれど、どうやったらいいのか。そこを考えるようになりました。

その頃たまたま見たのが、木村泰子さんの映画『みんなの学校』です。「ああ、これだ!」と思いました。大空小に来る子は、それまでみんな苦労しているのだけれど、最後は学校で楽しく過ごせるようになります。これをやろうと思った。

当時はインクルーシブという言葉は知っていたものの、何なのかよく分からなかったのが、「そうか、こういうことなんだな」と思いました。

そこから「ユニバーサルデザイン」という考えにつながっていきました。その頃、日野市(東京都)で行われたユニバーサルデザインの授業の研究発表を見に行ったところ、発達障害がある子供に対応することが、実は子供たち全体にとって、より良い環境となることが分かってきた。

「これをやりたい」と思い、2016~17年度の2年間、世田谷区の研究校の指定を受けてユニバーサルデザインの授業を研究しました。

桜丘中は今もそのやり方が残っています。施設などの環境面もそうだし、授業の流れや個別対応の仕方も、ユニバーサルデザインの考えに基づいている。

校則に話を戻すと、発達障害がある子の中には、皮膚の感覚過敏で制服を着られない子がいます。こだわりがあって、例えば小学校ではずっと長靴を履いていた子や、毎日同じジャンパーを着ていないと気が済まない子がいたりする。もしそういう子に制服を強要したら、完全に不登校になります。実際に不登校の子の半分くらいは、そういうことで適応できない子供たちです。

だから、そういう子たちには「制服じゃなくてもいい」としたいのだけれど、そうすると校則が邪魔になる。「私たちは私服ではダメなのに、なんであの子はいいの? ひいきだよ」などという話になり、いじめや無視にもつながりかねません。

だったら、その子たちが困ることはみんなもやめていいよ、ということにすればいい。先ほどのユニバーサルデザインの考え方です。制服を着られない子がいたら、みんなも着なくていいことにする。タブレット端末が必要な子がいたら、みんなも使っていいことにする。それがここの方針です。

――その子たちに配慮した、というよりも、その子たちがベースなのですね。

そうです。でもやってみると結局、必要のない子はタブレットを持ってこないし、私服も毎日は面倒だというので、スカートやズボンだけ制服で、上着だけ好きなものを羽織ってくるような子が多い。そんなふうにして、こういう学校になったわけです。

(先を生きる取材班)


【プロフィール】

西郷孝彦(さいごう・たかひこ) 横浜市生まれ。上智大学理工学部卒。理科と数学の免許を取ったが、最初に声がかかった都立北養護学校(現・都立北特別支援学校)で教員生活をスタートさせる。大田区、品川区、世田谷区で教員、教頭を経た後、2010年より現職。趣味は映画観賞、ギター演奏、スピーカー製作など。正月に必ず読み返す本は『二十歳の原点』(高野悦子)。