フレックス導入の静岡・大里中 プロジェクト型の学校改革

中教審の答申を受け、学校における働き方改革は実行フェーズに移行している。文科省や教育委員会によってさまざまな取り組みが進められる中、2019年度から教員の勤務時間に早番と遅番のフレックス制を導入した、静岡市立大里中学校の試みが注目されている。18年度末まで同校の校長を務め、3月末で退職した山下由修元校長に、大胆な働き方改革と学校づくりの狙いを聞いた。
フレックス制が目的ではない
「フレックスという言葉ばかりが話題となって一人歩きしてしまったが、フレックス制の導入に、大里中の改革の本質があるわけではない」と開口一番、山下元校長は強調した。 学校の完全下校時刻は季節によって変わるのが一般的だ。日照時間の長い夏季は遅くなり、逆に冬季は早くなる。そのため、教員の勤務時間は安定せず、生徒にとっても放課後の時間を自分でプロデュースする力が身に付かない。そこで山下元校長が考え出したのが「年間を通じて終わりの時間を統一する」ということだった。
年間の完全下校時間を統一した大里中の日課表
同校の19年度の日課表を見ると、完全下校時刻が月、水、木曜日は午後5時、火、金曜日は午後6時と年間を通じて統一されている。教員のフレックス勤務は、完全下校時刻が遅い火曜日と金曜日に実施されている。 早番の教員は他の曜日と同様に、午前8時15分の「朝の会」から午後4時45分までが勤務時間だ。それに対して、遅番の教員は2時間目が始まる午前9時半~午後6時までが勤務時間となる。遅番の教員は各学年1~2人が充てられ、午後4時以降は部活動の見回りなどをしている。 また、全学年・学級で火曜日の1時間目は「学級活動」、金曜日の1時間目は「道徳」を割り当て、学級担任ではなく学年でローテーションして担当するようにした。そうした時間割編成の工夫で、学級担任の負担を軽減し、時間割への影響も最小限にとどめることが可能だ。 また、働き方改革とは別に、同校の特色でもある委員会活動や生徒会活動、地域と連携した「サークル活動」も日課表に位置付け、部活動以外で生徒が自主的に判断したり、行動したりする場をつくっている。 こうした勤務体系について、「部活動の顧問となっている教員は、早番でも部活動指導のために最後まで残るのではないか」との指摘もある。 その点について山下元校長は「もちろん、最後まで残る顧問もいるだろう。しかし、本校の部活動は生徒の自治力育成を目的としており、運営は生徒たちの手に委ね、教員はそれを見届ける形にしている。だから、早番の教員は顧問であっても早く帰っていいし、遅番の教員は全員であらゆる部活動を見て回ればいい。教員全員が『チーム大里』としてあらゆる教育活動に関わるということだ」と答えた。
プロジェクトチームで学校改革
フレックス制はそもそも、同校の多彩な放課後の活動を教員の勤務時間を延ばすことなく実現するための手段として編み出された策だった。 山下元校長は「教員の勤務時間が前後1時間増えたとしても、月当たりの時間外勤務は40時間程度に収められ、過労死ラインを超えるわけではない。しかし、時間は無尽蔵にあるわけではない。そこで、本校の教員には現状の仕事の仕分けについて考えてもらった」と話す。 実際に以前、同校の教員の長時間勤務は、月によって過労死ラインを超える教員が複数いるなど、深刻な状況だった。一方で、生徒や教員、保護者のアンケートから、学校教育目標に掲げる生徒の自主性や協働性が十分に育っていなかったり、不登校や欠席率も大きくは改善していなかったりと、課題も山積していた。
放課後は部活動以外にも多彩な活動が展開される大里中
教員の長時間勤務を解消しつつ「誰一人見捨てず、教師と生徒が信頼し合い、多様な教育活動がある」という大里中のブランド力を高めるには、どうすればいいのか。 相反する二つの課題に対し、山下元校長が打ち出したのが、「教育改革」と「働き方改革」の同時進行による、プロジェクト型校内分掌組織の運営だ。校内の分掌組織を▽経営支援▽教科指導▽生徒指導――の三つのプロジェクトチームに分け、それぞれにプロジェクトリーダーとなる教員を置いた。プロジェクトリーダーの提案は決定事項として学校全体で取り組むようにするなど、裁量権を思い切って校長から委譲した。 さらに、各プロジェクトチームには「学び方指導部」や「相談部」などの部が設けられている。例えば「学び方指導部」では家庭学習の活性化や採点業務の改善、「相談部」では不登校支援やいじめゼロに向けたアプローチなど、各部には学校の教育目標を実現するためのミッションが課せられ、教員間の話し合いなどを通じて課題を洗い出し、解決策を講じていくようにした。 山下元校長は「教員には改革・開発・簡素の三つの『K』の視点からプロジェクトに取り組んでもらった。定期テストは必要なのか。生徒に出す宿題は何を育てているのか。学校行事も含め、これまでやってきた学校の教育活動を、目的から見直そうというチャレンジだ」と意気込む。
教師はドラえもん
完全下校時刻を統一した日課表とプロジェクト型の校務分掌組織の両輪で、同校は自主性と協働性を重視した学校改革を進める体制を構築したといえる。 一連の改革に関わる方針を山下元校長が教員に示したのは、18年の秋ごろだった。その後は、保護者や生徒とも、新しい日課表の意図や部活動のあり方について情報共有を図っていった。
大里中の改革の狙いを説明する山下校長
18年度末で退職を迎えることになっていた山下元校長にとって、これらの改革はタイムリミットが迫る中での短期決戦だった。「教員にはあえて『簡単な改革ではないから、ゆっくり進めてもらっても構わない』と提案した。しかし、みんな『やりながら改革していきましょう』と応えてくれた。だからこそ、このスピードで実行できた」と振り返る。 退職後は、企業や行政と連携し、キャリア教育プログラムなどを提供するNPO団体の立ち上げに向けて、準備を進めている。その狙いは、教員の負担を減らし、生徒とじっくり向き合える時間を確保できるように、現場をサポートしていくことだ。 「学校はこれまで何十年も変わってこなかった。しかし、何かを変えていかなければ、10年後、20年後の社会を生き抜く生徒は育たない。未来で活躍する生徒像を私たち教師が描けずに、前例踏襲的な教育を与え続けるのは罪だとさえ思う。ドラえもんはのび太の成長を見守りながら、のび太が困ったときにだけ未来の道具を貸す。ドラえもんのように未来を見据え、生徒を尊重し、寄り添っていく。これからの学校には、そうした役割が求められるようになる」と語る。

(藤井孝良)