校則をなくす発想の源泉 西郷孝彦校長に聞く(中)

校則をなくす、チャイムをなくすなど独自の取り組みを進めてきた、東京都世田谷区立桜丘中学校の西郷孝彦校長。学校の常識にとらわれない、先進的な動きをみせる一方で、同校の教員の技量は高く、進学実績は区でもトップクラスだ。新規採用の教員を育てる上でのポイントを探る。


何でも自然体で
――今年度は、どんな取り組みをする予定ですか。

定期テストの形を変えようと思っています。これまでは中間と期末に100点満点のテストをやってきましたが、これを例えば、10点満点の小テストを10回とか、20点満点を5回とか、小分けにする。

これも前回お話ししたユニバーサルデザインと同じ発想です。発達特性から、100点満点のテストは気が散って準備しづらい子供もいる。そういう子には、100点満点が9教科ある期末テストは、もうほとんど手の出しようがありません。だったら小分けにしてあげよう、という発想です。

これはユニバーサルデザインでいうところの「スモールステップ」の発想です。最初から大きな課題を出すのでなく、「まずはこれをやって、次はこれをやって」というふうに課題を出すやり方がある。これをテストに応用してみようということです。初めての取り組みなので、うまくいくかどうかは分かりません。まずはチャレンジです。

何でもこんなふうに、自然体でやっています。子供たちの様子を見て、困難があって苦労している子や、楽しくなさそうな子がいたら「どうしたらいいかな」と考えて「ああしてみよう、こうしてみよう」と工夫する。だから何の気負いもないし、何のむちゃもありません。

教員のピーク
――これまでの一般的な日本の学校とは違うやり方を採用していることについて、教員から戸惑いの声はありませんか。

他校から来た人は苦労しますね。いままで生徒に「こら!」と上から叱るような指導をしてきた人は、ここのやり方になじむまで1年くらいは大変です。僕にも叱られるし。

僕は、基本的に新規採用をとっているんです。新規の人はここが初めてだから、何の抵抗もありません。直接僕が指導して、3年間で育てて一人前にする。そのやり方が、うまくはまっています。だから3年もたつともうみんな一人前で、優秀な先生たちがそろっています。

僕はいつも先生たちに、「若いときは10年間、頑張って勉強しなさい」と言っています。「退職まで一生、この職を務めようと考えちゃダメ。管理職を目指しなさい、あるいは自分でスキルを身に付けて、民間でも私立でももっといい所があったら転職する、という気持ちでたくさん勉強しなさい」と言っている。

「教員にもピークがある」と話す西郷孝彦校長

教員にもピークがあると思うんです。僕は35歳だと思う。スポーツ選手みたいなもので、知力や柔軟性、体力もその頃がピーク。たまにイチロー選手みたいな人もいるけれど、まれです。そのピークまでにいろんな勉強や経験をしていない人は、その先もう落ちるだけ。「そうはなりたくない」とみんな思うんでしょうね。だから、うちの若い先生たちはすごく勉強します。

僕は若い頃は遊んでばかりいて、32歳で学年主任になってから勉強し始めました。勉強の必要性は、やっぱり他の人から言われないと気付かないと思うので、僕も「勉強しなさい、勉強しなさい」と年中言ってあげている。先生たちも言われるとうれしいんだと思います。

だから毎年、うちから教育委員会の指導主事になる先生が出ています。去年は世田谷区の教育委員会に1人、今年も東京都の教育委員会に直接採用されている。よく勉強しているから、しっかり育っています。

教員の育て方
――教員への指導は、ほかにどんな点に力を入れていますか。

研究授業を必ず「最低年に1回は必ずやること」をマストにしています。どんな研究授業でもいいから、やりましょうということ。

できるだけ「(機会を)もらってきなさい」と言っています。文科省でも東京都でも世田谷区でもいいから、研究発表の機会があれば「やります」と手を挙げて、もらってきなさいと。だから若い先生はいろいろな研究会で競って手を挙げます。うちの学校では、手を挙げない人がいると「あんた、やらないの?」という目で見られるから、みんなやる。

それは絶対に、いいことです。例えば、ある初任者の先生は、3Dプリンターを使って心臓の模型を作るという研究授業をやりました。大学の専門が3Dプリンターだというので、「どうせ研究授業をやるなら、それを使ったら」と僕が言い、それで3Dプリンターを一体どんなふうに授業に使えるかを考えて、心臓の模型を作ることにたどり着いた。

それからが大変です。3カ月間、大学に戻って教授に教わったり、行ったり来たりしながら、研究授業を成立させました。そうしたら、たまたま都中理(東京都中学校理科教育研究会)の先生が見に来てくれて、都の理科の先生たちに彼を紹介してくれました。まだ初任者なのに、そうやって人脈ができていくわけです。

やっぱりアクションを起こすと、絶対何かいいことがあるんです。じっとしていたら駄目。他の教員も、そういうのを見ているとうらやましくなるから、「よし、俺もやってやるぞ」ということで、どんどん切磋琢磨(せっさたくま)が始まります。

――ほかの科目はいかがですか。

英語もすごいです。海外研修へ行ける機会があれば、必ず推薦して行かせている。いま、世田谷区のトップ4の教員がうちにいます。昨年度から「CLIL(クリル)」と呼ばれる、内容言語統合型学習を始めました。CLILはもともと欧州で始まったもので、ほかの科目を英語で教えることで英語の4技能を身に付けさせるという技法。巻きずしを作る家庭科の授業を英語でやったり、コンピューターのプログラミングを英語で教えたり、いろいろやってみました。

すると、英語で教えるのに向いているものといないものがあるのが分かるんです。プログラミングは英語と親和性がすごくいいから、教えやすい。もともと英語だから、すんなりいけます。数学も論理だから、問題なくいける。でも、体育は大失敗でした。だって、ほとんどしゃべらないから。そういうことも、やってみたから分かるんですね。

(先を生きる取材班)