eスポーツ部を学校に あり?なし?(中)

対戦型のコンピューターゲームで技を競う「eスポーツ」。高校対抗の全国大会が開催され、部活動を発足させる学校も現れるなど盛り上がりを見せる一方で、学校教育に組み入れることには否定的な人も多い。全国に先駆けてeスポーツ部を設置した愛知県立城北つばさ高校への取材を通じ、部活動として見たeスポーツの可能性を探る。


eスポーツ部ができるまで

愛知県立城北つばさ高校(金子悟校長、生徒307人)は、昼間部の普通科と夜間部のものづくり科がある定時制高校。旧県立愛知工業高校の校舎を利用し、2017年4月に開校した。

昼間部は小・中学校で不登校を経験した生徒が少なくない。そのため、同校ではスクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーらと連携しながら、きめ細やかに対応している。

定時制高校では通常、卒業まで4年を要するが、同校は「単位制かつ定時制」。1日4時間の授業の他に、午後の選択科目を受講して必要単位数を修得すれば、3年間で卒業できる。

eスポーツ部設立のきっかけになったのは18年の夏休み、金子悟校長がある中学校を訪問した際に聞いた「ゲーム部」の話だった。そのゲーム部ではオセロや将棋、カードゲームなどをしていたが、同校の校長から「居場所づくりができている」と聞き、金子校長は興味を抱いたという。また、eスポーツのアジア大会が名古屋市で開催されることに話が及び、「高校でeスポーツ部を立ち上げてはどうか」と提案されたという。

愛知県立城北つばさ高校eスポーツ部顧問の鈴木佑哉教諭(左)と佐藤祐斗教諭(現在は他校に異動)

学校に戻った金子校長は早速、理科や情報科の教員にこの話を伝えた。その時点ではeスポーツにこだわっておらず、「コンピューターゲーム部」のようなものをイメージしていたが、18年4月に赴任したばかりの鈴木佑哉教諭は直感的に「eスポーツ部は本校の生徒と相性が良さそうだ」と感じたという。

鈴木教諭自身はゲームに興味がなく、小学校時代はサッカー、中学・高校時代はテニスをしていた。担当教科は理科で、PCでオンラインゲームをした経験は1回もなし。それでも、「本校には運動部が少なく、入っても退部してしまう生徒が多い。eスポーツなら生徒の居場所づくりになるだけでなく、活躍や成長の場となる可能性もあるのでは」と考えたという。

設備と費用をどうするか

部活動を作るに当たって、最低限必要なのは「顧問」「部員」「設備」の三つだ。顧問は鈴木教諭が務め、部員は呼びかければ集まるとしても、ゲーミングPCなどの設備がなければ活動は始められない。1チーム5人でプレーする設備を用意するには概算で100万円が必要だが、学校にその予算はなかった。

そんな折、eスポーツ部の発足を支援する企業があり、5台のパソコンを3年間無償で借りられるとの情報を入手。すぐに申し込み手続きを行った鈴木教諭は、「全国でもトップ5くらいの早さだった」と振り返る。

部室は旧愛知工業高校の1室を使うこととし、Wi-Fi環境も鈴木教諭が自ら整え、部員の募集を告知。程なくして5人の部員が集まり、レンタルのゲーミングPCも届いて、9月から活動がスタートした。

チームとしての戦略と役割分担

活動は週2日程度で、午後の選択授業がない生徒は午後1時半ごろから参加し、ある生徒は5時間目が終わってから参加している。最終下校時間の4時半から5時ごろまでが活動時間だ。

指導に当たるのは鈴木教諭と佐藤祐斗教諭(現在は他校に異動)の2人だが、いずれもeスポーツは未経験。顧問になって初めて、チームとしての戦略や役割分担、攻略法が重要であることに気付き、どう指導すればよいか悩んだという。

そんな二人を助けてくれたのが非常勤講師の土本昭宏さんで、15年ごろからeスポーツをプレーしてきた経験があった。鈴木教諭らの求めに応じた土本さんは、初心者にも理解できるようポイントをまとめた「上達プリント」を毎週作成・配布したり、コーチとして部員たちを指導したりと活動を支えてくれた。

最初はAIにも負けていたチームが、土本さんの指導や鈴木教諭のサポートを受けてみるみる上達し、他校との練習試合でも勝てるようになっていった。

睡眠時間や学習時間への影響は?

部員の1人はeスポーツ部に入ってから大きく変わったこととして、「『勝ちたい』『そのためにはどうしたらいいか』を考えるようになった」と話す。

「入部前は、授業が終わるといつも暇だったが、今はやるべきことがたくさんある。集団戦でうまく連携するにはどうすればいいか考えたり、先生に教わったりして、いっぱい練習をしている。話し合いもして、いろいろな方法を試しながら、最高のチームプレーができるようにしている」と、充実した表情で語る。

他の部員もそれぞれ「学校に来る気力が出るようになった」「以前は一部の友人としか関わっていなかったが、今は先生方や他の部員と長く過ごし、たくさん話をするようになった」などと話す。

互いに話し合いながらプレーする部員たち

入部前からeスポーツをしていたというある部員は、「鈴木先生に声をかけられて入部した。学校でゲームができるなんて、特別な感じがした」と語り、「以前は授業が終わると『アルバイトに行かないといけない』と憂鬱(ゆううつ)な気持ちになったが、今はその前の時間帯に仲間や先生とゲームをしたり、話したりすることで気持ちが楽になった」と言う。

一方で、心配されるのが睡眠時間や学習時間だが、「減った」という部員は1人もいなかった。鈴木教諭は「PC上のデータを見れば、部員がいつプレーしているかが分かる。長時間にわたって、もしくは夜遅くまでプレーしている部員がいたら注意すればいい」と話す。

生徒たちに新たな活躍の場を提供できた

部員の1人は、幼い頃の交通事故により車いすで生活している。持ち前の明るさで友人も多く、楽しい学校生活を送っているが、「本当はスポーツをやりたかった」と言う。そんな彼が、eスポーツ部に入部後は、好きなゲームを通じて仲間と力を合わせ、スポーツ同様の真剣勝負に挑んでいる。

鈴木教諭によれば、名古屋市で26年に開催されるアジア大会から、「パラeスポーツ」が正式種目となる。その大会に向け、この部員はその候補選手の1人として活躍が期待されているという。

鈴木教諭は「eスポーツ部には賛否両論あるかもしれないが、少なくとも本校のeスポーツ部は、生徒に居場所や新たな活躍の場を提供する上で、重要な役割を果たしている。コミュニケーション能力も、格段に向上したと思う」と話す。

他の教員からも「生徒たちの表情が良くなった」「どの生徒も堂々と自分の考えを話せるようになった」などの声が上がっており、鈴木教諭は「eスポーツ部は生徒の力になれたと実感している」と胸を張る。

(小松亜由子)


(下)では高校対抗のeスポーツ大会の模様や出場校の教員の声などを通じ、eスポーツを巡る学校現場の新たな動きを伝える。

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