【木村泰子×住田昌治】「脱ブラック学校」 カラフルな教育が子供を変える(下)

卓越したリーダーシップで多様な空気を学校につくり続けてきた大阪市立大空小学校初代校長の木村泰子氏と、横浜市立日枝小学校の住田昌治校長。対談の最終回では、新学習指導要領の実施が迫る中、「カラフルな教育」をつくるために必要なことについて語ってもらった。(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)


みんなの考えをどんどん引き出していく
――住田先生は子供も教職員も元気でカラフルな学校にするために「サーバントリーダーシップ」の手法をとっているそうですが、どのような手法なのでしょうか。

住田 「サーバントリーダーシップ」とは、昔ながらのトップダウンによる「支配型リーダーシップ」ではなく、まず相手に奉仕し、その後に相手を導くという「支援型リーダーシップ」です。

例えば、学校には、何のためにやっているのか分からない仕事がたくさんあるため、教員が子供と関われない現状があります。そうした課題について、みんなで話し合います。私は教員から、いろいろな考えや意見を引き出していきます。その上で、「じゃあ、この作業を考え直そう」「この仕事はやめよう」「もうちょっと○○さんの負担を減らそう」などと、皆で合意形成していくようにするのです。

要するに、教職員から意見や考えを引き出すことなのですが、これを日常化するには、教職員がほっとできる、ちょっとしたカフェスペースを職員室に設ければいいと思います。木村先生は大空小で実践されていましたが、“真面目なことを気楽に話す場”を学校の中につくることが重要です。現状の学校には、会議のように真面目なことを真面目に話す場はあるものの、真面目なことを気楽に話す場は意外とないんです。

「自主的と主体的の違いを理解すべき」と語る木村氏

リーダーが指示、命令をしている限りは、皆が考えない集団になってしまいます。「校長先生、決めてください」「どうすればいいんですか?」と言われたときは、「あなたはどうしたいの?」と返した上で、常に対話をする。そんな関係性をつくるようにしています。

あとは、とにかく傾聴することが重要です。これはリーダーに限った話ではなく、誰にとっても必要な心掛けです。話を徹底して聞くことで、相手が安心して話せる雰囲気をつくる。そういう関わり方が大事だと思っています。

「自主的」と「主体的」の違い
――小学校では新学習指導要領の実施まで1年を切りました。新学習指導要領で掲げられている「主体的な学び」を実践する上で、どのような視点が必要だと思いますか。

木村 皆さん、「自主的」と「主体的」を同じものだと思っていないでしょうか。この違いは分かっておくべきだと思います。

文科省はこれまで「自ら学び、自ら考える子供」を育てる、つまり「自主的」な子供を育てることを目標に掲げてきました。ところが、2020年から実施される新学習指導要領には「自主的」ではなく、「主体的」という言葉が並んでいます。

「サーバントリーダーシップ」について説明する住田校長

「自主的」から「主体的」に変わったのは、社会のニーズが変わってきたからです。「自主的」には、上司の言うことを聞く、上司のニーズに合わせて働くといったニュアンスがありますが、こういう社員はもういらないと、今の社会は言っています。そうではなく、「主体的」に、自分で考えて何かを生み出す。これからはそういう社会人が求められているのです。

「自主的」は、正解にどれだけ自ら進んで動くかです。一方で、「主体的」は、正解がない問いに対して、自分で考え、判断して行動することです。

失敗は未来に向かってやり直すもの
――そうした主体的な子供を育てる「カラフルな教育」にしていくために、私たちがすべきことは何でしょうか。

木村 先生たちは職員室で自分の考えや自分をありのままに出せていますか?なぜ、自分を出せないのか。原因の一つは失敗が怖いからです。そして、子供たちもそんな大人を見ているから、「失敗が怖い」と思ってチャレンジしないのです。

主体的に自分で考えて行動したら、10のうち8~9は失敗します。でも、失敗は学びの原点です。その失敗を自分の責任でやり直していく。そうしたことを積み重ねていくことで、隣にいる友達の違いを認め合い、多様な価値観を認められるようになる。この認識を子供も大人も共有しておくべきです。

大空小では、大人の失敗を包み隠さず子供に見せていました。失敗したときにかける言葉は「大丈夫?」の一つです。それだけでいい。でも、多くの大人は子供が失敗すると「何回言ったら分かるの?」「なんでできないの?」などと、責めるような言葉を投げかけています。

これから先の予測困難な世の中を、失敗せずに生きていくなんて不可能です。大切なのは、どれだけ多くの失敗を義務教育で経験できるか。失敗は反省するものではなく、未来に向かってやり直すもの。大きなチャンスなんです。

職員室でも「失敗した、うまくいかなかった」と声を上げることが大切です。そうしたら、周りが「よっしゃ、助けたる!」と言って動きだす。子供に対しても、主体的に考え、行動した上で失敗すれば、皆で助ける。それでこそ主体的な子供が育つのです。

カラフルな教育をつくるために必要なこととは

住田 失敗が許されるというのは、みんなが望んでいることではあります。でも、現実には失敗を恐れてしまったり、一人で閉じこもってしまったりといったことが起こりやすい。よく「職員室をよくすれば、教室も学校も良くなる」と言われますが、私たち教職員が互いの失敗を許し合えるような空気をつくっていく必要がある。そのことを再認識しました。

また、これから先、学校が多様な学びの空間となっていくためには、地域の人や外部の人にももっと入ってもらい、いろんな人と関わりながら学校づくりを進めていくべきでしょう。

学校は学校だけで勝負するのではないし、教員も一人で勝負するのではない。地域住民や保護者、企業関係者など、さまざまな人たちと連携しながら「学びの空間づくり」ができたら、子供たちにとって学校が楽しい場所になるのではないでしょうか。

子供が生き生き学び、教員も生き生き働く。そういう空間をつくっていくことが、これからの私の課題です。

(企画・構成 松井聡美)


【プロフィール】

木村泰子(きむら・やすこ) 大きな反響を呼んだドキュメンタリー映画「みんなの学校」(2014年公開)で知られる大阪市立大空小学校の初代校長。同校では「すべての子供の学習権を保障する」という理念の下、教職員や地域の人たちと共に、障害の有無にかかわらず全ての子供がいつも一緒に学んでいる。退職後は、全国で講演活動などを行う。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」をつくるために』(ともに小学館)など。

住田昌治(すみた・まさはる) 2017年度まで横浜市立永田台小学校校長を務め、18年度より同市立日枝小学校校長。2015年度に「もみじアプローチ」の実践でESD大賞小学校賞を受賞。学校組織マネジメントやサーバントリーダーシップ、働き方改革の研修講師や講演、記事執筆等を行い、元気な学校づくりで注目されている。ユネスコアジア文化センター事業推進委員、未来への風プロジェクトメンバーほか。著書に「カラフルな学校づくり」(学文社)。

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